第11・2節 奮起
第8週2日目、暗い顔をした大統領が慌てて和室に入ってきた。
大統領:「先生、すまない。」
私:「どうしました、大統領。」
大統領:「僕の力が足りないばかりに、茶道の授業は今月で終わりになってしまった。」
私:「取り敢えず、落ち着いてください。まずは座ってもらえますか。」
大統領が座り、私はいつものように薄茶の平点前をはじめた。
私:「まず、私の授業が続かなくなったのは、大統領のせいではない気がします。議会の承認が下りなかったのでしょう?」
大統領:「うん。」
私:「2ヶ月していて、3ヶ月目もというは、普通に考えて難しい気がします。それに、落語の先生が自殺された件を知っている人間は、できれば一新したいでしょうね。」
大統領:「議会で、そう言われた。」
私:「大統領は、それらがあっても私を推薦してくださった。私はそれだけで胸が熱くなる思いです。大統領、もし思うように議会が動かないと言うのであれば、ご自身に力をつけてください。私も落語の先生も、最後まで大統領の味方です。そういった人脈を政府の中に作って行ってください。きっと、大統領の想い描く日本へと導くことができるはずです。とりあえず、干菓子を食べて、元気を出しましょう。」
大統領:「ありがとう、先生。」
大統領はゆっくり干菓子を食べ始めた。私は点前を勧め、薄茶を大統領に出した。
私:「どうぞ、ゆっくりとお飲みください。落ち着きますよ。」
大統領:「いただきます。ああ、ホッとする味だ。」
大統領はゆっくり薄茶を飲み、私に茶碗を返してきた。
私:「落ち着いたようですね、大統領。だいぶ表情も明るくなったようで、何よりです。」
大統領:「先生、薄茶を点てさせてほしい。良いかな?」
私:「では、まずこの点前を終わらせましょう。今日は時間いっぱい薄茶を点てましょう。」
二人は時間の許す限り薄茶を点て、二人でたくさん薄茶を飲んだ後、扇子を出してお辞儀をした。
私:「今夜は、二人とも目が覚めて眠れないかもしれませんね。」
大統領:「たまには良いよ。」
私:「大統領、決して自分を責めないでください。むしろ今度こそと奮起する材料にして、前に進んでください。」
大統領:「奮起して前に進むか。やってみるよ。」
私:「では、また明日、お待ちしています。」
大統領:「じゃあ、また明日。」