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君と過ごした日々 ー新大統領の茶道の師ー  作者: shoundo
第3章 忘れえぬ日々よ
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第11節 授業第8週/第11・1節 一座建立

第8週1日目、大統領はいつものように席へ座り、私は薄茶の平点前を始めた。


私:「茶会で亭主と客が心を通じ合わせることを一座建立といいます。『雲萍雑誌(うんぴょうざっし)』にある丿(へち)(かん)の逸話がわかりやすいと思います。

利休の親友・丿貫が、利休を茶会に招いた際、わざと間違えた時間を指定し、落とし穴を掘りました。利休は文面通りの時間に行き、丿貫が作った落とし穴に落ちます。その後、利休は風呂に入り、泥を落としてから茶会となります。一緒にいた人々もその話題で大いに盛り上がったということです。」


大統領:「茶会では盛り上がるのが良いのかい?」


私:「楽しいひと時を共有するのは良いことでしょうね。ただ、この逸話には続きがあります。利休は、この落とし穴の事を期明(きみょう)という人から聞いて知っていました。ただ、丿貫が考えた作意(さくい)を台無しにしないために、落とし穴があると知りながら落ちたそうです。この利休の行為により、茶会で亭主と客が心を通じ合わせることができたそうです。」


大統領:「落とし穴には落ちないとダメと言うことかな?」


私は干菓子を勧め、薄茶を点てはじめた。


私:「そんなことはありません。茶の湯にはヘツライという言葉があります。諂う(へつらう)というと悪い意味に取られがちですが、一座建立を目的として、相手の為にとる行動であれば、ヘツライも大切な心になります。亭主の丿貫と客の利休は親友です。落とし穴も笑って許せる間柄だからこそ出来た話でしょうね。」


大統領:「僕と先生なら落とし穴の間柄になれるかな?」


私:「大統領が作った落とし穴に私が落ちても大丈夫でしょうが、私が作った落とし穴だと、周りの人が黙ってないでしょうね。立場の違いによっても出来る・出来ないはあると思います。」


大統領:「なるほど、確かに先生が作った落とし穴に僕が落ちたら大問題になるかもね。」


私は点てた薄茶を大統領はすぐ飲み終え、茶碗を返してきた。


大統領:「おしまいにしてください。」


私:「おしまいにさせていただきます。さて、今日も大統領には薄茶を点ててもらいます。おいしくないと私が悲しい思いをするので、頑張ってください。」


大統領:「一座建立のためには、おいしい薄茶を点てないとダメだね。」


その後、大統領は薄茶を二服点てて、一服ずつ飲んだ。


私:「先日より、かなりおいしくなっていますね。」


大統領:「ありがとう先生。なんとなくだけどコツがわかってきたんだ。」


私:「さすがは大統領、素晴らしいですね。あとは回数をこなすだけです。理想形は目の前ですよ。」


大統領:「それはさすがに胡麻の擦りすぎだって。」


私:「そうですね。」


二人で笑いながら扇子を出し、お辞儀をした。


私:「今週で授業も終わりです。大統領が薄茶をおいしく点てられる様になって、素直にうれしいです。」


大統領:「その件なんだけど、来月も先生には残ってもらえないか、今、議会で審議中なんだ。結果は明日出るから、もし残ってもらえるなら、また書類にサインしてくれるかい。」


私:「まだ決定していないことに、解答して良いかはわかりません。ただ、もし来月も残れるのでしたら、濃茶の練り方も練習できそうですね。」


大統領:「それは楽しみだ。じゃあまた明日。」


私:「はい、お待ちしています。」


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