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君と過ごした日々 ー新大統領の茶道の師ー  作者: shoundo
第3章 忘れえぬ日々よ
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第8・2節 和物の『和』

第5週2日目、大統領がいつものように入ってきた。


大統領:「今日の茶碗は四角いな。飲めるのかその茶碗で。」


私:「飲めるとは思うのですが、まだ試していません。」


大統領:「私で試すわけだ。いいね。」


大統領はにこにこしながら席に座った。

私は大統領に主菓子を勧め、濃茶の平点前を始めた。


大統領:「茶碗の拝見はどのタイミングなのかな?」


私:「飲み終わった直後になります。残った中身をこぼさないよう注意して見てくださいね。」


大統領:「わかった、注意する。」


私:「茶碗が四角いと、少々扱いにくいですね。飲む時は注意してください。」


大統領:「わかった、注意する。」


私:「大統領は、素直ですね。でも素直すぎるのもどうかと思います。少しはご自分の主義主張を口に出すのも大切です。まあ、言い過ぎには注意しないといけませんがね。」


大統領:「わかった、注意する。というか、先生が注意しすぎるのが悪い。」


私:「そうですね。注意します。」


しばらく二人で笑った後、私が茶碗を出し、大統領が濃茶を一口飲んだ。


私:「お服加減は?」


大統領:「大変結構でございます。飲み終わったら茶碗を見て良いのかな?」


私:「どうぞ、御覧になってください。」


大統領:「今日の茶碗は、何という茶碗なのかな?」


私:「織部車文沓(おりべくるまもんくつ)茶碗『山路(やまじ)』の写しです。赤みのある()緑釉(りょくゆう)鉄釉(てつゆう)白釉(はくゆう)を使った赤織部です。車輪や丸、四角い線の模様、(くち)(べり)の内外にかかる(うわぐすり)のなだれ、茶碗特有の高台(こうだい)、そしてその形。」


大統領:「四角いなこの茶碗は。やはり飲みにくいよ、これ。持ちにくいし。」


私:「すみません。明日は別の茶碗にします。」


大統領:「そうしてくれ。」


大統領が茶碗を返してきた。

私がおしまいの挨拶をすると、大統領が茶碗について再び尋ねて来た。


大統領:「いろいろ訳のわからない解説をしていたが、織部なんとかと言うのは、利休の弟子の古田織部と何か関係があるのかい。」


私:「古田織部が指導して作った窯とされています。」


大統領:「されています?」


私:「古田織部が作ったかどうかはっきりしないみたいです。名称も、古田織部の死後、織部焼と呼ばれるようになります。ここ最近、発掘作業が進んで、古田織部が作ったと証明されつつあります。まあ、和物茶碗であることは間違いないですが。」


大統領:「和物茶碗?」


私:「日本で作られた茶碗です。中国の(とう)で作られた唐物(からもの)、朝鮮半島の高麗(こうらい)で作られた高麗物といった分け方をしますね。」


大統領:「なぜ日本製が和物なんだ?」


私:「昔、中国が日本のことを()(こく)と呼んでいたのですが、日本では、奈良時代中期頃から同音の()を使うようになり、和国と呼ぶようになります。その少し前、701年前後に国号を倭国から日本へ改めます。ただ、しばらくの間、和国と日本という呼び方が並立していたようで、日本という呼び方で定着するのは平安時代になってからになります。」


大統領:「つまり和国の和で、和物ということか。そもそも『和』ってなんだい?」


私:「『和』という字は、『(しなやか)+口』で出来ていて、『禾』という字は、(あわ)(いね)と言った穀物の垂れ下がった様子を(かたど)った象形(しょうけい)文字(もじ)になります。『和』は、(やわ)らぐ様子や(なご)む様子を表す形声(けいせい)文字(もじ)なので、稲の(よう)にしなやかに、(やわ)らぐ様子となりますね。せっかくなので、明日は和敬清寂の『和』について、説明しましょう。」


大統領:「いいね、ちょうど文部科学大臣が来る日だしね。」


私:「そうか、そうでしたね。別の話題の方が良いでしょうか?」


大統領:「いや、良いよ、『和』で。」


私:「わかりました。では、そろそろ時間ですね。」


二人は扇子を出して、お辞儀をした。


大統領:「では明日、文部科学大臣と一緒に来るね。」


私:「お待ちしています。」


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