第6・3節 文部科学大臣との出会い
第3週3日目、大統領は薄茶を点てる練習をしていた。
私:「もう少し、前後にスナップを聞かせると、よく泡立ちますよ。」
大統領:「なるほど、だんだん泡立ってきた。」
私:「お湯の温度も大事なので、手早く点てるところがポイントです。」
大統領:「もう一碗、点てても良いかな。もう少し練習がしたい。」
私:「自分で点てた茶を飲むことを、自服と言うのですが、ご自服できるのでしたら、いくら点てても構いませんよ。」
大統領:「二・三服が限度だな。もう一回だけ点てて、続きは明日にしよう。」
大統領はもう一回薄茶を点て、自服した。
私:「そろそろお時間ですね。」
大統領:「もう1時間たったのか。いや、意外と薄茶を点てるのは面白いな。これからは毎日、点てさせてほしい。」
私:「わかりました。ご自服できる分、お点てください。」
大統領:「先生の点てた茶も飲みたいし、一服が限度かな。」
私と大統領は互いに扇子を出してお辞儀をした。
大統領:「もう少しうまく点てたいものだ。」
私:「毎日、練習していれば、大統領ならすぐ上達して、私よりおいしく点てられますよ。」
大統領:「そうか、それは楽しみが増えたな。ではまた明日。」
私:「はい、お待ちしております。」
第3週の4日目も5日目も大統領は薄茶を点てる練習をした。
大統領:「ようやく飲めるものになってきた。今までの薄茶は苦かったからね。」
私:「3日でそれだけおいしそうに点てられれば上出来です。やはり才能がありますね、大統領は。」
大統領:「ありがとう。ではもう一服は先生に点ててもらおうかな。」
私:「わかりました。」
私は、大統領のために薄茶の平点前をして、大統領に出した。
大統領:「やはり味が違うな。点て方で、こんなにも甘くなるものなのか。奥が深いな。」
大統領は飲んだ茶碗を私に返してきた。
大統領:「ところで、デモンストレーションで呼ぶ予定の大学は決めたのかな?」
私:「いいえ、まだですが。」
大統領:「実は文部科学大臣に相談したら、よさそうな大学を紹介できそうだと言ってきてね。先生がまだ決めてなくてよかったよ。」
私:「本当ですか。それはとても助かります。」
大統領:「明日は、茶道を休みにして大統領室で文部科学大臣に会ってもらえないかな。詳細を詰めたいんだ。」
私:「それはありがたいです。ぜひ伺わせてください。」
大統領:「では、時間は13:30、場所は大統領室で。」
私:「了解いたしました。」
翌日、大統領室には大統領の姿しかなかった。
私:「文部科学大臣は?」
大統領:「少し遅れるそうだ。先生、よかったら薄茶を一服もらえないかな。実は、さっき各種道具部屋へ行って、施設長に茶碗一式を用意してもらったんだ。お湯はあるから点ててもらえるかい。」
私:「わかりました。」
私が点てた薄茶を大統領がおいしそうに飲んでいると、文部科学大臣が大統領室に入ってきた。
文部科学大臣:「いやあ、遅くなりました。そちらが茶道の先生ですね。では早速、話を始めましょう。」
文部科学大臣は事務的に話を進め、大統領はただ頷くだけ、という形でとんとん拍子に話がまとまった。
大統領:「大学は文部科学大臣の母校だね。」
文部科学大臣:「よくご存じですね、大統領。では先生、本番前日にリハーサルをしますので、その際は、引率の先生に指示を出してください。」
私:「わかりました。何から何まで、ありがとうございました。」
文部科学大臣:「いえいえ、これも仕事ですので。では私はこれで。」
私:「ありがとうございました。」
大統領:「大臣、ご苦労様。」
私:「助かりました、大統領。これでデモンストレーションの準備は万端です。」
大統領:「よかったね、先生。じゃあ、もう一服、薄茶をもらえるかな。」
私:「はい、よろこんで。」




