第1節 千利休の最後の茶会
面接の日、私は大統領府の面接室にいた。
いくつかの質問に受け答えした。
副大統領:「あなたには何が教えられますか?」
私:「道徳も実技も人に教えられるほどのものはないと思いますが、茶聖・千利休については多少勉強しています。」
大統領:「他に、何か話したいことがあれば聞こう。」
少し考えた私は、岡倉天心著『茶の本』にある「最後の茶会」の話を思い出せる範囲で話すことにした。
私:「では、岡倉天心という人が書いた『茶の本』から、千利休が最後に開いた茶会の話をさせていただこうかと思います。」
大統領:「いいね。それで行こう。」
私:「はい。千利休は、最後、豊臣秀吉に切腹させられる人です。この千利休が開いた最後の茶会について話します。」
私は一瞬、間を開けて、話を続けた。
私:「茶室に利休の弟子が一人一人入室して席に着きます。お釜からはお湯の煮える悲しげな音が聞こえてきます。少しして、利休が入室して、お茶のお点前を始め、一人に1つの茶碗を渡して抹茶を提供します。最後に利休自身も茶を飲み干し、茶道具の説明が始まります。」
私は再び、間を開け、三人を順番に見つめた。三人とも真剣に話に聞き入っているようだった。
私:「利休は茶道具を一つずつ形見として席中の人々に分け与えますが、自分が口を付けた茶碗だけは、手元に置きました。なぜだと思います?」
大統領:「取っておきたかったのかな?何か理由がありそうだが。」
私:「利休は、不幸な者の唇によって汚された茶碗を、他人に使わせてはならないと言います。そして、器を粉々に砕いて終わります。利休の最後は、見事な切腹だったそうです。」
大統領:「そうか、茶碗は壊して使わせないようにしたのか。潔かったのだな、利休と言う人は。」
執事風の人:「お時間です大統領。」
大統領:「わかった。では面接は以上だ。」
私は立ち上がり、礼をした後、なぜかこう言っていた。
私:「利休は本当に潔かったのでしょうかね?」
執事風の人:「お帰りはこちらです。」
私:「わかりました。」
大統領:「そのうち千利休という人物についての話、聞きたいものだな。曽我宗和、今日はご苦労だった。」
私:「はい、ありがとうございます。それでは失礼いたします。」




