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君と過ごした日々 ー新大統領の茶道の師ー  作者: shoundo
第2章 惹きつけられる心
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第5節 授業第2週/第5・1節 濃茶の吸茶

大統領:「今日は棗を使わないのだな。」


私:「はい。これは茶入(ちゃいれ)という抹茶を入れる陶製の茶器になります。仕覆(しふく)と言われる袋に入れ、お点前をします。」


大統領:「それが仕覆かい?ずいぶんと綺麗な布だね。」


私:「この仕覆は金襴(きんらん)という金糸(きんし)を用いて模様(もよう)を織りなしたものです。宝尽し(たからづくし)の模様が描かれているので、宝尽し金襴でしょうね。」


私は茶入を仕覆にしまったあと、説明用に黒楽(くろらく)茶碗(ぢゃわん)2碗と、少し湿らせた小茶巾(しょうちゃきん)の載った茶巾(ちゃきん)落とし(おとし)をいくつか用意した。


私:「濃茶を飲んだ後の手順を説明します。これは小茶巾といって、濃茶を飲んだ後、茶碗を拭くものです。」


大統領:「茶碗を拭くのか。そういえば薄茶では拭かなかったな。」


私:「薄茶でも茶碗を指で拭いて、懐紙で指をきれいにするという所作がありました。うっかりして説明していませんでしたが・・・。」


大統領:「・・・そうか。まあ、技術は苦手と言っていたからね。では小茶巾の説明を続けてくれ。」


私は濃茶の拭き方を説明し、大統領と共に何度か楽茶碗を拭き、その都度、小茶巾を茶巾落としに捨てた。


私:「では実際に濃茶を練って、飲んでみましょう。」


大統領:「練る?」


私:「薄茶は点てる、濃茶は練ると言います。実際に見ていただくと練るという言葉がしっくりくると思いますよ。」


私は、多少点前を省略し、濃茶を一度茶巾で綺麗にして、すぐ茶入から濃茶を回し入れた。


私:「お湯を入れたら、こんな感じで練ります。」


大統領:「なるほど、それだと練るという言葉の方が、しっくりくるね。」


私:「練りあがりましたので、どうぞお召し上がりください。」


大統領:「ありがとう。思ったより甘い味がするな。これはおいしい。」


私:「先週末、各種道具部屋の施設長に言って、甘めの濃茶をお願いしました。お口にあってなによりです。」


大統領:「これだと、一服で目が覚めてしまうな。二服は飲めないかもしれない。」


私:「濃茶は、薄茶のほぼ倍の抹茶を使っていますので、そうかもしれませんね。」


大統領は茶碗を小茶巾で綺麗にしてから、私に返してきた。


私:「濃茶では、客は“おしまいにしてください。”とは言いません。亭主が勝手に”おしまいにさせていただきます。”と言って、点前を終了させます。」


大統領:「まだ、少し時間があるようだから、何か逸話でもお願いできるかな。」


私:「わかりました。では『茶湯古事談(ちゃゆこじだん)』から濃茶と薄茶の吸茶(すいちゃ)についての話をしましょう。」


私は一通り点前を終わらせてから話を始めた。


私:「昔、濃茶は一人一服ずつ練っていました。複数人客がいた場合、主客ともに退屈するからと、吸茶にしたのが千利休です。」


大統領:「吸茶というのは?」


私:「一碗に人数分の茶を練り、回し飲みをすることです。先ほどやったように、茶碗を小茶巾で綺麗にしてから、次の客へ送ります。」


大統領:「なるほど、それでああいう所作があるのか。」


私:「この話には続きがあります。利休の弟子に東陽坊(とうようぼう)という僧侶がいました。あるとき豊臣(とよとみ)(ひで)(つぐ)とその近臣(きんしん)を招いて茶会をしたとき、薄茶を点ててこう言います。

皆様はお忙しい方々ですから、お手間を取らせないよう薄茶を大服(おおふく)に点てました。どうぞ吸茶にしてください。

その心配りは、時に応じてよろしいと利休も称賛し、薄茶の吸茶がしばらく流行したそうです。以来、薄茶を大服に点てることを、東陽坊につかまつると言うようになります。」


大統領:「濃茶と薄茶の吸茶か。客への心遣いを感じるな。」


私:「そろそろ、お時間ですね。」


大統領:「そうだな。ではまた明日、楽しみにしているよ。」


私:「はい。お待ちしております。」


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