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「クソが!!!!」


魔導学園から帰宅後、俺は怒りに身を任せ自室の机に拳をドンと音が鳴るように突き立てた。


「ハハハ、相変わらずだな。」

「……父さんか。」

「また今日もエリスに負けたのか?」


笑いながら父が俺の部屋に入るなりいきなり確信をついてくる。


父の名前はオレクル=エンバーグ 20年前にあった魔人戦争で大活躍しており、国から大将軍の名を承ったエンバーグ家の当主である。もう50近いのに背筋がピシッと伸びており、筋肉も衰えていない。オールバックの金髪が今日もまぶしい。


そして俺はダリル=エンバーグ 今年で17歳になる。父のイケメンな顔とは似ても似つかない顔をしており、周りからは少し怖がられている。目元だけは母親に似ているらしいが……どうだろうな?

剣術や魔法は一般的に見れば強い部類に入るだろうが、父と比べられるとどうしても劣ってしまいがちだ。


だから今日も負けた。



「これで0勝17敗です……。」

「ローランは勇者の家系だ。わしだってローランに勝てたことないし、そう落ち込むこともあるまい。」


父は笑いながら俺の背中をバシバシと叩き、敗北のことを流す。


エリス=トーモッド 俺の同級生で魔人戦争で一番功績を残した勇者ローランの娘だ。こいつには模擬戦で一度も勝てたことはない。


俺が通っている魔導学園では授業に模擬戦闘の授業がある。いつ魔物や盗賊、そして魔人と戦闘しても大丈夫なように設けられた授業だ。

そして模擬戦の結果がそのまま強さの順位として学園に張り出されることもこの学園の特徴でもある。


学年別 1位 エリス=トーモッド

    2位 ダリル=エンバーグ


この順位を俺は3か月間ずっと見ている。 いや、ずっとではない。俺はたまに3位や4位になるからエリスが1位なのを3か月間ずっと見ているってことだ。


はっきり言ってエリスは尋常じゃなく強い。これまで何度も挑んできたが、もうちょっとで勝てた。ここを間違えなければ勝負は解らなかった。なんて事は一度もなく、全て俺の完全敗北だ。

まず魔力が桁外れに多い。そのままの意味で桁が違う。他の生徒の放つファイアーボールと彼女が放つファイアーボールは大きさが異なる。大人と子供ぐらい違うし、これだけで正面からのやりあいにならない。

魔法の出の速度も違う。こっちが唱えてる最中に飛んでくるのだ。こちらは中断して回避の行動をとるしかないし、仮に魔法を放てたとしても威力の違いから押しつぶされて敗北することは必至だろう。


そして剣術。これが彼女の真骨頂だ。正直魔法を放っている暇があるなら切りかかったほうが早いんじゃないだろうか?そう思わせるくらい剣術は飛びぬけている。どこかの偉人がいった「蝶のように舞い蜂のように刺す」その言葉がしっくりくるだろう。どんな剣も躱され反撃をしてくる。

剣術はたぶん学年ではなく学園全体でも1位に君臨しているんじゃなかろうか?そう思ってしまう。


それに比べて俺は……いや、悲観的になるのはよそう。自分で言うのもなんだが俺は結構強い。

炎の魔法も結構使えるし、剣術……俺の場合は剣ではなく戦斧を使っているがそれも自信がある。エリス以外には引けを取らないと思っている。 たまに負けるが……ほんとにまれだ。


「まあ確かに、エリスちゃんは女の子だから負けたくないと言う気持ちもわかる。」

「いや別に女だからってわけじゃ」

「みなまで言うな。ウォルトも学園で頑張っているわけだし、成績も優秀だし、わしも鼻が高い。」

「いやだから」

「じゃあわしは行くから、無理するなよ。お前はすぐ無理をする。」


そういって父は俺の自室から手を振りながら去っていった。いったい何をしに来たんだ父は?

でもさっきまで模擬戦でエリスに負けてからムカついていたけど……父のおかげで少し落ち着いたな……。


俺はゆっくりと学園の制服を脱ぎながら、風呂場に向かう。いったんさっぱりしよう。多少ましになったがやっぱりイライラすることには変わりない。一度メンタルをリセットせねば。


「あ、ダリル様、お帰りなさいまっ、!?」


俺が風呂場に向かって歩いていると廊下の曲がり角からメイド服の少女がこちらにやってくる。

メイド服によく似合う長めの銀髪に赤い大きい釣り目。愛くるしい顔にちょっと褐色の肌。

うん。これが元奴隷とは思えんな。よく成長している。後耳の上あたりから2本の角も生えている。片方少し折れてるけど。


「フィルか。俺はこれから風呂場に行くからこれを洗っておいてくれ。」

「は、はいっ」


俺は制服を脱ぎながら風呂場、もとい脱衣所に向かって歩いていたので上半身は裸だ。


「おい、手で目を覆わずに俺を見ろ。相手と話す際の最低限だぞ。」

「な、なら服を着てください……目のやり場に困ります。」

「これから風呂に入るんだ。何故服を着なければならない。あと俺はこういうやつだから早く慣れろ」


そしてお前よく見れば手で覆ってるように見せかけて隙間からちゃっかりみてんじゃねえか。


「この後はどうなさいますか?」

「今日は少し鍛錬をしたい気分なんだ。風呂あがってからは中庭にいる。食事の準備ができたら呼んでくれ。」

「汗かいたらまたお風呂入りたくありませんか?」

「ならまた入ればいい。」

「うわぁ……二度手間。」

「お前俺に対して何でも言うようになったね。」


俺は制服をフィルに投げ渡して脱衣所に入る。俺の家は父が風呂好きと言うのもあって風呂場も脱衣所も結構でかい。銭湯までとは言わないが一般家庭の三倍はあるんじゃないか?昔はよく父と二人で入ってたけど今は当然一人で入るがどこか寂しいような気もする。


そして風呂に浸かりながらこの後の予定について考える。筋トレと戦斧の修行だ。魔法のコントロールも忘れない。

今日も無様にエリスに負けた。多分明日も負けるだろう。修行を続けることによって俺は確かに強くなっている事を感じる。

エリス以外の生徒と戦った時、俺の体内に保持する魔力の絶対量が増えているのを感じた。魔法の命中率が確かに上がっていた。戦斧の扱いにや、重さに引っ張りまわされる事が減った。




「でも、まだ足りない。」



そう。全然足りなかった。エリスは俺より、魔力の絶対量が多く、魔法の命中率が高く、剣術の扱いがうまいのだ。


エリスは勇者ローランの娘だし生まれつきの才能と言うのも当然あるだろう。

でも俺だって大将軍オレクルの息子だ。生まれ持った才能を妬んだり、それを理由に諦めるつもりは当然ない。


必ず超えて見せる。俺が学園1位になってやる。

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