父が息子に、オンライン小説を書く (二年後)
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初めての投稿から二年が経ったので、その後を。
――前回および前々回のあらすじ
小学五年生の息子が、リビングのPCでネット小説を読んでいた。
どんなのを読んでいるのか、立ち止まって眺めてみると、ゲームっぽい、バトルものの小説である。
自分も読んでみたら、わりと面白かった。
よく分からんが、適当に見える作品でも、結構人気があったりする。
昔、仲間内でTRPGをプレイしていたことがあり、シナリオはよく書いていた。
よし、自分でも何か書いてみよう。
ネット小説と言えば、ハーレムとか群像劇とか、どんどん仲間や敵が増えていくパターンが多いが、たくさんの登場人物を書き分けられる気がしない。
どんなネタや文体が書きやすいか、練習や検証が必要だ。
息子がよくプレイしているマインクラフトをネタに、書いてみた。
息子に向けてラブストーリーを贈る気はないが、男しかいない世界というのもちょっと狭い気がする。天空の城的な、ボーイミーツガール要素があってもいいか。
しかし、女子キャラ、描写できるか?
難しいな。考えたこともない。
TRPGのシナリオなら、「AとBはやがて惹かれあう」の一言で済むのだが。
ちょっとヒロイン…のつもりはなかったが、女子の同行者にデレさせてみるか。
適当にそんな展開を書いてから、その女子も転生者であることを思い出した。
詳しい設定は全然ないのだが、「体は子ども、頭脳は大人」という、息子にも通じるネタを仕込むためだけに、もとは大人という設定がある。
登場時の描写を見返すと、年齢が分かるような記述はないが、高校生以下には感じられない。
しょうがない、大人の女性が少年にデレることだってあるだろう。
最近は、一般向けマンガ雑誌でもそういう連載あるしな。
……いや待て、主人公(男)の中の人は大学生だった。
中身は大人とはいえ、見た目10歳女児をパートナーに選ぶのはちょっと世界観が変わってくるな。
女性側からしても、中身大人で見た目が子供の男を恋愛対象にするのって、合法ショタみたいな? ニッチ過ぎないか……?
しまった、訳が分からんな。
右往左往したあと、物語的には一区切り。二十数話、七万字弱。
SFチックなネタを盛り込んだのだが、読みにくくなっただけで、余分だった。
何が書けそうか確認する、という検証の任務は一定こなせた気がするので、完結とする。
次作として、今度はゲーム世界に行ってしまったパターンを書き始めた。
生活改善みたいなのも、たくさん作品ありすぎてまあいいやと思ったので、衣食住考えなくて済む人外主人公にする。
バトル系のごった煮要素のゲーム世界ということにして、メインはカードゲームに設定。
擬人化した鉱石の精霊を集めて戦うっていう。
サブモチーフで、主人公は吸血鬼という二重構造。
もうすでに迷走感否めない。後から見ると。
カードゲームと言えば、膨大なキャラがお約束。
数人のキャラの書き分けでさえ回避してきたのに、一体どうするのか。
カードから、出てこないという無理設定を思い付いた。
だが、この設定にはやはり無理があった。カードから出てこないと判明する節以降、アクセスが明らかに減るからだ。期待を裏切った、そういうことだろう。
ちなみに、この物語は、「吸血鬼(地球外生命体)の皇子」とその「眷属(狼、吸血妃、梟)」、精霊の力を宿す「カード」とその実体化した人形、獣人……etcと、様々なキャラ要素が盛り込まれていった。
キャラ以外の設定としても、魔道帝国や他のカードシステム、肉体を棄てた先代の吸血鬼、精霊達のための国造りなどが登場してくる。
しかし、キャラの書き分けでさえ苦しむ人間が、むやみに要素を増やしたらどうなるか。
タイトルさえ改題を繰り返し、筆者でさえこれが何の物語なのか分からなくなっていく。
二十万字あたりで、もはや手に負えなくなってしまった。
一応、エンディングまでの骨組み程度は考えたものの、散らかった要素を無理やり回収している感しかない。これまでに出てきた要素に、必然性が感じられない。
エタった、とまでは言いたくないが、書いてて辛い作品になってしまったのは否めない。
しかも、この物語も、「うーん」といって息子は読まなかった。
さて。
物語が行き詰った反省も踏まえ、しばらく気持ちを切り替えるために、吸血鬼の話はいったん休止して、別な作品を書いてみることにした。
それでは、底辺付近をウロウロしている私が、どんなふうに作品の構想を考えているか、辿ってみよう。
背景世界は共通にしておく。
容器が共通でも、文体や視点を変えることによって、どれくらい人気度が変わりうるか知りたかったからだ。
前作で「西の帝国」がチラチラと出ていたので、そこを舞台にする。
この帝国では、付与術が発達していて高度な魔道具が使われているという設定がある。というか、それくらいしかない。
そうなると、主人公のテーマは、「付与」「魔道具」に対比されるものがいいだろう。
私の場合、小説に限らず、何かの企画をするのに、「同じ」と「違う」を当てはめていくことが多い。
例えば、スポーツがモチーフなら、「同じチームだけど利害が違う」「違うチームだけど同じ利害」みたいな視点でテーマを考えたりする。
前者はチーム内でのポジション争いなんかを想像するし、後者ならリーグ戦での試合外での駆け引きみたいなものを連想する。
帝国が舞台だとすると、その属性である「付与術が高度」の反対を考える。
そのまま「付与」の対義語で「剥奪」としてみた。
剥奪術。
エンチャントの反対で、魔道具を魔道具ではなくしてしまう力ということになる。
単なる破壊では力任せとの違いが微妙だから、再生できることにするか。
この世界では、魔道具は品物と精霊石で作るということになっている。
魔道具を分解して素材を手に入れられる力だとすると、精霊石が手に入る。
リサイクルか。
リサイクルしたくなるということは、枯渇気味ってことだな。
レアメタルとか石油資源みたいなイメージで行くか。
昔はいい加減に無駄遣いしていた資源が、貴重になった今、再利用できたら。
無駄遣い、浪費を表現するなら、産廃の埋め立て地みたいなものも登場させるか。
おお、なんか小学校とかで授業に出てきそうな流れじゃないか。
環境学習的な。
よし、そこに伝説の武具とか絡めていこう。
かつての強大な兵器だけど今の平和な世では困った遺産、みたいな感じか。
冷戦時代に配備した核兵器よろしく、解体処分も簡単にはできないことにする。
使わないけどその辺に捨てたり売ったりできないっていう。
街の城壁も魔道具っていう設定があった。
壁ごと剥奪して倒壊させるとか、何なら建物一つ「剥奪」とかもありか。
抜き出す精霊石に、人格があるとしてもいいな。
とりあえず、変わった魔道具出しとくだけで、しばらくネタには困らなさそうだ。
しかし、精霊石が手に入ったからと言って、魔道具は作れるかもしれないけれど、本人は強くなるわけじゃないような。
帝国も窮乏していることにすれば、復興の役に立つみたいな流れで書けるかもしれない。
内戦で荒れた国みたいなイメージで、兵器からインフラにとか。
よし、皇帝は無能、大貴族は対立ばかり、産業も閉鎖的で停滞、みたいな爛熟の帝国ということにしとくか。
ついでに、主人公について。転生という構造はやめておいた。
現代日本人という設定で書くと、どうしても自分の感覚のままで書いてしまいがちになる。
それを戒めるために、あくまでその世界の(その中では超インテリ階級だけど)少年ということにした。
あ、思いついた。
ヒロインを設定して、二人の力を合わせたら色々できるパターンにしよう。
主人公が精霊石を抜き出せる力なら、ヒロインはそれを活用できる力か。
ただの付与術では特別感がないから、融合とかなんとか、普通より強い付与ができちゃうことにするか。
剥奪と付与で対比にしよう。
主人公落ちこぼれでヒロイン優等生みたいな関係は…まあ、王道で。
あんまりひねりすぎると収拾がつかなくなるし、主人公は剥奪が使える代わりに付与が使えないとすると、付与術ができないと落ちこぼれ、って設定で収まりそうだ。
基本的な話の作りとしては、使われていない魔道具から精霊石を抜き出して、それを売り込んで金を稼ごうとしているうちに、いろいろな土地に行ったりトラブルに巻き込まれるみたいな形で行けば、短めのエピソードを重ねられるだろう。
設定はこんな感じで考えていくとして、作品の第一目標は、とにかく、読者に対するハードルを下げてみること。
文体も柔らかめに、一文も短く。
あと、苦手な分野ではあるが、時にはテンションも高めにキャラを動かす。
そして、初めて時間を掛けてプロットを考えた(今さら)。
すなわち、「終わり」から物語を構想したのである。
自分は、割と理屈っぽい性格である。
他人の文章を見ていても、論理展開に飛躍や穴があると、気になる性格である。
にもかかわらず、自分で一から物語を作るとなると、頭を空っぽにして手を動かしたくなる。
どれほど論理を重ねても、異世界には行けないし、魔法は発動しないし、モンスターは来襲しないのである。
そこには、妄想というエンジンによる次元の跳躍が必要なのである。
そのような自分の性質と戦ってでも、エンディングを先に考えた。
プロットを考えたと言っても、キャラなどの設定は大して煮詰めていない。
見切り発車で、最初は、まったりほのぼので書いていった。
読者のリアクションは細々(ほそぼそ)としたものだったが、前の二作よりは多少良かった。
グダグダとしたやり取りを五十話くらいこなして、ようやくキャラが固まってくる。
事件が起こると、その反応においてキャラが表れる。
逆に言えば、作品の中で事件が起こって初めて、自分の中でキャラが動き出したのだ。
いや、ほんとに、創作の素人とはこういうことかと目からウロコだった。
さっさと事件を起こすべきだった。
十万字を超えたあたり、ストーリーが動き始めたところで(遅すぎだろう)、ちょっとブクマが増え始めた。
今回は、読みやすさよりも書きやすさを優先して、一話を千から二千文字と、かなり短めに設定している。
前作は三千字くらいで区切っていたのだが、内容が濃いときには短く、薄いときには長くて、その調節に苦労していたからだ。
だから、十万字と言っても、八十話を超えている。
この辺りまでは、五十話くらい書いても書いてもPVも少ないしブクマもほとんど増えないし、ただ更新すれば読んでいる人は多少いるみたいだなー、というくらいの感覚だった。
それが、急に毎日のようにブクマが増えるようになったのだ。
しかし、いまだにこの辺りの現象の仕組みがよく分からない。
ブクマを付ける=続きが気になる、ということだと思うのだが、最初の方がいまいちで途中から面白くなっていく作品があるとして、一度には読み切れない文量になっているときに、途中から面白くなることをどうやって知ったのだろうか。
それはさておき。
当初の計画通り、主人公が商売広げていくうちに、それが知らないところで騒動を巻き起こしているという展開を進めていった。
いろいろな組織がそれぞれに勝手な疑惑で動き出す、みたいな感じだ。
この作品は十数万字程度にまとめるつもりだったが、途中から思っていたよりも人気が出たこともあり(書き出した時の目標は評価400だった)、八か月弱連載して三十万字を超えることになった。
最初に想定していた最終決戦のシーンもちゃんと生かすことができたので、作者的にはスッキリ、である。
だが、課題が改めて見えてきた。
一つは、お気楽でテンポの良い展開を組み立てること。
もう一つは、女性や恋愛をいい感じに描くということだった。
以上の課題をテーマにして、いくつかの企画を進めることにした。
と、ここまでが一年前のできごと。
その後どうなったかというと。
まず、大人向けの(エロやグロは無かったが、結果的には純ファンタジーに近づいた)女性主人公の作品を書いてみたり、テーブルトークRPGのルールを考えてみたり、そのルールをもとにした準リプレイ的な作品を書いてみたり。
ただ、書くのにエネルギーというか時間がかかる割にリアクションは薄く、読者のニーズとずれている、日々の行き当たりばったりな投稿連載という形とうまくかみ合っていないな、という感触だった。
後から思えば、どちらも、ちゃんと作り上げてから分割投稿するのに向いたジャンルだったということだ。
その後、自分の過去作品についても、もう少し分析してみるか、という気分になった。
春から異動があって、仕事上の勉強が忙しくなってしまったために、ちゃんとした内容を考えるのがおっくうになったということも影響していたかもしれない。
やはり読みにくさ、イメージしにくさというのは非常にマイナスになる。
あるいは、必要もないのに詳細な描写や説明を増やすと、読者は疲れて読むのをやめるということも分かってきた。
そこで、同じ作品を推敲して文字数を減らして投稿しなおし、どう評価が変わったかを比較する、なんてことをやり始めたのだった。
同じネタ、同じ展開であっても、ポイントを失う要素があるのだ、という感じで実際の閲覧数やポイントなどをさらしながらまとめていった。
だが、この時期の取り組みは、結果として悪い影響が大きかった。
ポイントを稼ぐ方法を分析するためにランキング上位の作品をいろいろチェックしていたが、小学生の息子ですら「ランキングはよく分からん」というくらいである。
なんでこれが高得点? と混乱するばかりだったし、序盤は面白くてもすぐに定番の内容に収束してしまっていたり、今一つ参考にならないうえに、そもそも何を書いたらスコアが出るかみたいな視点になってしまって、途中から根本的な書くモチベーションが失われてしまったのである。
結局、半年くらい書かずに読むだけになり、それもあまり自分の好きなタイプではない作品を中心に眺めることになって、読書欲まで減退してしまったのだった。
秋ごろになり、新しい仕事もようやく手慣れた感じに動かせるようになったので、そこでようやく今度は自分が読みたいものを、書きたいように書こうという気分に切り替わってきた。
モチーフや展開は人気が出るような感じでなくていいから、自分が読みたいような構造の物語で、自分がその世界を旅しているかのように書いていく。
プロットは、転換点だけ思い浮かべておいて、あとはアドリブで。
矛盾点が、伏線で、それが世界を広げるんだ! みたいな開き直りのノリである。
三カ月ほど不定期で書きながら、六十回、十万字を超えた。
ポイントは百に満たないレベルだが、ああ、書くのを愉しめれば、評価はどうあっても気にせず書き続けられるのだな、というのが収穫の一つ。
種をまいて種をまいて、あとでゆっくり刈り取ろうという物語にしたので、序盤はほんとに何も起こらない。
でも、書いている側にはいろいろなことが起こっている。
思っていたのと違う方向へキャラが動いていってしまったけれどつじつまが合わせられるだろうかとか、後から思いついたことをどうやって織り込むかとか、この伏線はいつになったら回収できるだろうかとか。
そのスリルや謎解き、パズル感は、ストック無し投稿の書き手にしか味わえないジェットコースター感である。
第三者から見た技巧的には完成度が低くても、線路から飛び出して次の線路に着地できたような感触を、ちょいちょい経験しているのだ。
ああ、物語を考えるのって、愉しいなぁ、と。
そういえば、結局息子は自分の作品を読まなかった。
小学生向けの作品というのもあまりチューニングしきれず、自分好みのものしか書けていない。
息子の方も、最近はゲームや動画の時間が増えていて、小説は読まなくなってるんだな、と思っていた。
先日、そんな息子が小学校を卒業するにあたり、恒例のアルバム的なものをもらってきていた。
眺めていたら、その中では学校での部活みたいなものも紹介されていて、息子は図書クラブとやらに入って、学校で本を読んでいたらしい。
全然知らなかったのだが、また少し違うジャンルの活字を読みに行っていたのだ。
不惑を超えた自分でも、ちょっとしたことでちょいちょい道を変えてしまうのだから、十代の息子など、興味の対象はもちろん、価値観や世界観さえフラフラ変わるのだろう。
「なろう」だけじゃなくて、いろいろ読んだ方がいい。
説教臭くなるかな、押しつけがましいかな、などと思っていたが、ちゃんと自分なりに活字の世界の探索をしてくれていたことには、嬉しく思った三月だった。
そして自分については、ああ、タイトル回収、いまだできずに三年目に突入してしまったな、と。