【幕間劇:01】サヤと映画/アニメ/漫画
これは、俺がある男と会う前かつ、鵐目と契約した後……つまり、追っ手をシメて日銭を稼いでいた一ヶ月間での、些細な出来事や、会話を記したものである。
────────────────────────
「あぁ〜映画観てぇ〜……出来ればキューブリック作品が観てぇ〜……『時計じかけのオレンジ』観てぇ〜……」
「どうしたの鎺くん、そんなにぼやいて」
「ああ、サヤ……。いやね、最近映画欠乏症に罹患していてな……」
「映画好きなの? 」
「大好き。特に二十年代前後のSFが好きだね。ギリギリポリコレに汚染されてなくて、尚且つCGの出来も良い。『インターステラー』なんかは、特にそう思う」
「へぇ〜……。私はSFとか難しくてよく分かんないかな……。でもアレだよ、青春系のアニメ映画はよく観るよ! 」
「青春系か……。そこら辺疎いんだよなぁ、俺。新海誠作品くらいしか知らない」
「あ、あの人凄いよね! 『君の名は』から今までずっと大人気だもん! 」
「確かに、背景とかものすごい綺麗だもんな。でも俺ストーリーが合わなくて、あんま観てないんだよね……」
「鎺くん、恋愛とか興味無さそうだもんね……」
「……人並みには、あるつもりです……」
「そうなの? 結構意外だなぁ〜」
「いや、でもどうだろう……あくまで主観だからな……もしかしたら、俺の考える恋愛と他人のソレは、別物なのかも……」
「そ、そんな気に病まないでよ! 」
「あはは、ごめんごめん……」
「もう、鎺くんはすぐそうやって難しく考える……。恋愛なんてね、なんも考えずにぶつかるくらいがちょうどいいんだよ? 」
「……そういうもんかな? 」
「そういうもんだよ。そういうもん……」
────────────────────────
「あぁ〜アニメ観てぇ〜……めちゃくちゃ考察しがいのあるアニメ観てぇ〜……でも最後にはちゃんと回収するヤツが観てぇ〜……」
「またぼやいてる……」
「今度はアニメ欠乏症に罹患した。具体的には、伏線めちゃくちゃ張った上で綺麗に回収するアニメ欠乏症だ」
「長いね」
「まあね。サヤはアニメとか観るの? 」
「う〜ん……あんまり観る時間無かったかな……。ほら、アニメって映画と違って、一つの話が終わるまでに六時間くらいかかるでしょ? 映画一本ならまだしも、六時間分一纏めにとれるのは、あんまり無かったね……」
「ああ、サヤの両親って厳しいんだっけか。時間なら、今はたっぷりあるぜ。良かったら、俺が面白い作品紹介しようか?」
「良いね! 聞きたい! 」
「とは言っても、俺は最近のアニメより十年二十年前のアニメしか、オススメ出来るほどの知識は無いがね……。それでも良ければ」
「大丈夫! 」
「なら良いか。確かサヤは、恋愛系が好きだったんだよな……。そしたら、『刀語』なんかいいぞ。西尾維新原作だが、『物語シリーズ』とか『戯言シリーズ』よりかは一般向けだし。主人公とヒロインの恋愛も、俺は結構好きなタイプだった。やっぱイチャつくのが良い」
「へぇ……イチャつくのが好きなんだ……」
「うん。よく邦画なんかは主人公の恋愛が成就するまでを描くけど、俺はどっちかっていうと成就した後の方を知りたい人だ。もちろん、主人公とヒロインのキャラクターが好感持てること前提で」
「へぇ……ちなみに、鎺くんの好きな洋画だと、やっぱそういうの多い感じ? 」
「いや、大概次の作品で別れるよ」
「え!? 別れちゃうの!? 」
「うん。例えば『テッド』っていうコメディ映画だと、ワンは主人公がヒロインとくっつくまでを、ブラックジョークを交えて面白おかしく描いている。でもツーになると、前作での熱愛ぶりは何処へやら、オープニングのすぐ後に、主人公達が離婚したのがさらっと言われる。で、その後は会話に出ることもなし」
「えー……」
「多分ギャラかなんかで揉めたんだろうさ。よくあることよ」
「悲しいなぁ……」
「さて、結構脱線したけど、とにかく『刀語』は面白い。一話一時間くらいあるけど、面白いよ。あと舞台裏でやってるSFが、個人的にはすごいツボだった」
「なるほどなるほど……うん、今度観てみようかな。あ、あとね、良かったらでいいんだけど……」
「なんだ? 」
「その、一緒に観ない……? 」
「いいよ。俺も久しぶりに観たくなってきたしね」
(やった……)
「……ん? なんか言ったか? 」
────────────────────────
「あぁ〜漫画読みてぇ〜……『チェンソーマン』レベルで作者の才能バチバチに感じる漫画読みてぇ〜……めちゃくちゃ絵が上手いとかでも許す〜……」
「すごい上から目線でぼやいてるね」
「ああ……言われてみれば、そうかもしれない……」
「にしても鎺くん、映画にアニメに漫画に……色んな作品知ってるんだね! すごい、芸術博士だ! 」
「そこで『オタク』という言葉を使わない優しさに、感謝するよ……」
「鎺くん、あんまりオタクっぽくないからね〜。なんかそういうオーラを感じないっていうか……」
「まあ、昨今はオタクも多様化してるからね。見るからに体育系なのにきららオタクな人とか居るし。多分オタクを見分けるのに一番良いのは外面じゃなくて、推しのことを喋る時のオーラだろうね。その点から言えば、確かに俺はオタクっぽくは無いな」
「あ、自分でも分かるんだ」
「うん。俺、『推し』って言えるほどのめり込んでるもの無いんだよね」
「え〜嘘だぁ〜、映画のことになるとすごい饒舌になるのに」
「確かに映画は好きだけど、『推し』って言えるかどうかは微妙だと思う。ほら、『推し』を持つオタクって、すごいエネルギッシュだろ? 」
「うん、一つのことにめちゃくちゃ注ぎ込んでるよね。色々」
「そう、注ぎ込んでる。で、じゃあ俺は映画に色々注ぎ込んでるのかって言えば、答えはノーになる。結局のところ、俺はどこまでも無造作に芸術を消化することしか出来ないのさ……ハァ……」
「一人で解説して一人で落ち込んでる……」