--- 小5の想い2 ---
次の日、また塾の近くの自販機でジュースを買って飲んでいるとアカネが歩いて来た。
タカシも今日は同じタイミングで塾の入り口へ行くと、
「やぁ、昨日はありがとう。アカネさん。」
と声を掛けた。するとアカネが、
「いいよ。仙石君。」
といった。アカネを先に行く様に促すと、今度はアカネの前の席に座った。
タカシは算数のテキストとノートを開くと少しして振り返った。
「アカネさん、算数は得意?」
と聞いてみた。
「うーん、理科よりは好きかな。」
とアカネが答えた。
「そうなんだ。じゃあこの分数の問題分かる? 僕なんで3/15が1/5になるのかいまいち分からないだよね」
少し緊張しながら聞いてみた。
「それは約分しているからそうなるのよ。分子の3で分母も割ると5になるでしょ。」
「そうか、約分とか通分ってそう言えばゴリ先生いってたなー」
「ふふ・・、1組でも算数の先生「ゴリ先生」って言うんだね。」
「だって、あの顔だよ、ゴリ先生以外考えられないよ」
そういいながらゴリラのドラミングの真似をしてみた。
「フフ・・、仙石君って面白いね。」
「ハハハ、それ僕じゃなくてゴリ先生だからね。」
二人で笑っていると、
「はい、タカシとアカネ、おしゃべりはその辺にしてー。」
いつも間にか塾の先生が来て、注意され慌てて前を向いた。
その日の塾も終わり、タカシはササっと鞄にしまい込むと片付けをしているアカネに、
「ゴリ先生の所為で注意されちゃったね。」
「ふふ・・もうタカシ、ゴリ先生は止めてよ。」
「ハハ、アカネも喜んでたじゃん。」
タカシは二日目にして呼び捨てで呼び合う様になれた事に驚いた。
そして別れ際、
「アカネ、バイバイ、また来週!」
と声を掛けた。
「タカシ、バイバイ!」
アカネもハッキリした声で別れを告げた。
(ゴリ先生いいぞ)
タカシは思ったより早く打ち解ける切っ掛けにを作ってくれたゴリ先生に感謝した。
塾は月火なので次の週までアカネと話す機会が無い。学校では別のクラスにまで行って女子と話すようなツワモノ男子はいなかった。
だが、来週まで待つ時間も惜しい。というかこの過去の世界でいつまでも小学校5年生のまま時間を潰す気にもなれない。 何かいい策は無いか。
何も浮かばないまま3組の前の廊下まで来た時、3組の後ろの壁に当番表が貼ってあるのが見えた。水曜日飼育掛かり種田、伊藤、渡辺と書いてある。
(水曜日は今日じゃないか。これはチャンスだ。)
放課後になった。
「タカシ、校庭でドッジボールやろうぜ」
「ゴメン、シンジ今日は俺ちょっと用事があるから帰るよ」
そう言ってタカシはランドセルを背負って、ニワトリ小屋の前で雑草をちぎってニワトリにやりながらアカネが来るのを待った。しばらくして掃除当番の3人が来た。
「あれ?タカシ・・くん」
「え?、あ、アカネ?」
タカシは白々しく答えた。アカネは二人の手前くん付けで呼んできた。
「タカシくんなんて言うから誰かと思ったよ、タカシでいいよ、アカネ。」
「うん・・、タカシ・・、こんなところで何をしているの?」
ちょっと、照れくさそうにアカネが聞いてきた。
「うん、ボスの調子はどうかなって思って、エサをやっていたんだ。」
「ボス?」
「ああ、こいつの事だよ。俺が掃除当番の時はいつもこいつが突きに来て痛いんだよ。あ、今日はアカネが掃除当番なの?気を付けた方がいいよ。」
「え?そうなの?」
「ホントだよ、まだ足に突き跡が残ってるよ」
後の二人はタカシとアカネが仲良さそうに話しているのを見てキョトンとしている。
「ここは、男が先に入るしか無いよな。」
タカシが言うと
「マジで突くのか?」
伊藤くんがビビッている。
「分かったじゃあ、俺が先に入ってボスに餌をやってるから皆その隙に入って掃除しなよ。」
「タカシ、だいじょうぶ?」
「大丈夫さ。もう慣れてるから」
そう言うとタカシは雑草を握りしめ、小屋に入った。
実際ここのニワトリはオスが他のメスを守ろうとして小屋に入る者を追いかけ回す習性があるが、餌を持っている時は別だ。
タカシが入るとオスが勢いよく走ってきたがタカシが雑草を前に出すと、むさぼる様にそれを食べていた。
「アカネ、今がチャンスだよ!」
「うん、みんな入ろう!」
3人が恐々入って掃除を始めた
まもなく雑草がなくなり手を突きだした。
「痛ったー!」
タカシの声に三人がびっく!と驚いた。
餌がもうない。
仕方ない、タカシは右手でニワトリの胴体を抱え、左手で首を捕まえた。意外とそれで大人しくなった。
「いいよ、捕まえておくから掃除やって」
「タカシ大丈夫?手から血が出てるよ」
アカネが心配して聞いて来た。ニワトリに突かれた時に少し皮がめくれて血が出ていた。
「大丈夫だよ、それよりアカネたちは早く掃除終わらせて。」
それから間もなく掃除と新しいエサをやって終わり、皆が出た後にタカシがボスをパッと離し、外へ出た。
「ふー、飼育当番はいつも命がけだよ。」
「ふふ・・、タカシはやっぱり面白いよね。」
アカネが笑った。
「手を見せて絆創膏貼ってあげる。」
そう言うとアカネがランドセルの中から可愛らしいキャラクタの絆創膏を手に貼ってくれた。
「タカシがボスを捕まえていてくれたお陰で掃除出来たわ。ありがとうね。」
「いいよ、いつも勉強でお世話になってるお礼さ。」
「アカネ、塾の所まで一緒に帰らないか?」
「えっ?」
と言ってアカネは渡辺さんの方を見たが、渡辺さんも二人が思いの他仲良しなのに気を使って
「良いよ種田さん、仙石君と帰りなよ。」
と言ってくれた。
タカシとアカネの家は方向は同じだが塾の前で左右に別れる。
それまでの間で何か話題を作らないと。と思っていると。
「タカシって勇気があるんだね。私、タカシってずっと大人しくてさっきみたいな事しない子だと思ってた。」
「へへ、そんな事ないよ。アカネの前だからカッコ付けて見ただけさ。」
「ふふ・・、本当なのそれ?」
「ああ、本当さ。あのさ、今度の日曜日一緒に動物園行かない?ゴリ先生見に。」
「うふふ・・、ゴリ先生見にね。分かったわ、行きましょう。」
「何処で待ち合わせる?」
「じゃあ、地下鉄の改札を入る前で10:00時に待ち合わせましょ。」
話しているうちに塾に着いてしまった。
「じゃあね、バイバイあかね!」
「うん、バイバイたかし!」
(よし!良い感じだ。日曜日はいよいよ告白だな)