--- 小5の想い1 ---
翌朝、10:00頃起きたタカシは、昨晩の夢の様な過去のやり直しを頭の中で反芻していた。しかし、
「ちょっとまてよ、あれは本当に現実として過去にタイムリープして実際の出来事を変えたのか?
本当はただの夢だったのではないだろうか。」
何か裏付けとなる証拠は無いだろうか? あの集合写真! あれは今は実家の何処かに母親が閉まっているはずだ。
あの写真の中央で俺が美里先生の膝の上で抱かれて写真を撮っていれば昨夜の夢の中の出来事は現実だ。「夢の中の出来事が現実」とは何を考えているんだと思いつつ、実家に電話を掛けてみた。
「もしもし母さん。タカシだけど」
「どうしたの何かあったの?」
「あのさ、幼稚園の時の美里先生って覚えてる? お別れ会の集合写真あったよね?今それ見る事が出来る?」
「何よ、たまに電話して来たと思ったらそんな事なの? 写真はあるにはあるだろうけど、急に見るのは無理よ押入れの奥の方にしまってあるから。なんで急にそんなもの見たくなったの?」
「いや、そう言えば美里先生ってどんな顔していたかなってふと思い出してね。」
「何それ? 美里先生はあの当時は他の先生に比べると綺麗な先生だったわね。どういう訳か貴方の事よく可愛がってくれていたかしら、その集合写真でも先生の膝の上に座って写真撮ったもんだから、写真撮り終えてから他の園児も私も、私もって皆順番に写真を撮っていたわよ。」
(ほんとに変わってる)
「母さん分かったじゃもういいよ。有難う。」
「タカシ、そんな事よりちゃんとごは・・ガチャ・・」
タカシは電話を切って確信した。あれは夢じゃなかったんだ本当に過去を変えたんだ。
(先生、今頃は北海道で幸せに暮らしているだろうか・・。そう言えば、結局 自分がこれまで北海道へ行くことは無かったなー。)
しかし、これが現実であるなら今夜の過去変はなにだろうか?
そう古い順に考えるなら、次はあれだ。あれのせいでタカシはいまだに独身でいるのかも知れない。
あれとは、小学校5年生の時に同じ学習塾に通っていた種田 茜という同級生の女子にタカシは告白をして見事にふられてしまった事だ。しかも他の生徒達の前で。
その事がトラウマとなってこれまで女性に積極的に話を出来なくなってしまったと言っても過言では無い。
(それなら、告白をしなければいいのではないか? もしくは茜に断らせなくする?)
(前者は過去に行ったその時に黙っていても現実に帰った後に告白してしまう可能性がある。それでは同じ事の繰り返しだ。じゃあ、後者は? 後者も難しいだろう。茜には彼氏がいるか別の男子に思いを寄せていたのかも知れない。だから断られたのではないか、だとしたらそれ以上どうにか出来る話じゃない。)
「うーん、難しいなー。でもこのトラウマが現在に至る不幸の原点なのかも知れない。」
(そうだ、じゃあ告白云々ではなく、まずはコミュニケーションを取るところから始めたらどうだろう。もし彼氏がいるとか他の好きな子が居るとかの情報を過去のタカシ自身が認識出来れば、現実に去った後も告白する事はないだろう。それに仲良くなってから告白するんだったら可能性はあるかもしれない。)
「よしそれで行こう。今回はちょっと長丁場になるかも知れないな。」
そしてその夜タカシは早めに夕食を食べて、お風呂に入り扇風機を付けて寝る事にした。
(目を閉じてあの狐っ子の事を考えていた。しかし神の使いなんてものが本当に存在するんだな。だとすると神様も確実に存在するんだ・・。)
そんなとりとめの無い事を考えているといつしか眠りについていた。
「タカシ様、タカシ様、起きて下さい。タカシ様ってば。」
「うん?」
「やあ、アオネだったか。夕べの作戦はうまく行ったようだよ。現実でも過去変の成果は出ていた。」
「はい、タカシ様の願いが叶うまでこのアオネは頑張るのです。それでは今夜はどういたしましょうか?」
「うん、今夜は小学校5年生の時の僕がふられる1週間前に飛ばしてくれ。」
「かしこまりですぅ!」
タカシは目を開けた。
(ここはどこだ? 教室? しかも授業中か? いつも寝起きへ飛ぶわけじゃないのか?)
そう考えるとちょっと恐ろしいものがあった。黒板の日付を確認すると11月8日(月)になっていた。
そして、ちょうど5時間目の最後の授業が終わる所だった。
「起立、礼、着席」
「タカシ、帰りに校庭で遊んで行こうぜ?」
男子生徒が話掛けてきた。
(だれだった? そうだ真司だ。)
「シンジ、ごめん、今日は塾があるから帰るわ。」
そう言うとタカシは学校を後にした。学習塾の時間までは少し時間があるからいつも家でおやつを食べてから塾へ行っていた。
「ただいまー。」
「おかえり。おやつテーブルの上に置いてあるわよ。」
「テーブルの上にはドーナッツと牛乳が置いてあった。」
タカシはそれを食べると、
「お母さん、飴玉か何かない?」
「あるけど、どうしたの?」
「うん、ちょっと喉の調子が悪くて、あったら2,3個ちょうだい。」
「じゃあ、これ持って行きなさい。」
イチゴミルの飴を3個くれた。
「じゃあ、塾に行ってきまーす。」
「あら、早いのね?」
「うん、始まる前にちょっと予習したいから。」
「へー、珍しいわね、行ってらっしゃい。」
種田 茜は5年3組の女子だ。タカシのクラスは1組。アカネの家までは知らないが、アカネが学習塾の南側から来るのはいつも見ていたので覚えている。
アカネと話すにはアカネの前後の席に座るのが得策だ後ろの席がベストだろう。
タカシは学習塾の北側の自動販売機でジュースを買い、飲みながらアカネが来るのを待っていた。
出かけがけに飴をもらったのは、あわよくばアカネにあげて好感を持ってもらおうという下心からだ。
ほどなくしてアカネが歩いて来るのが見えた。タカシはジュースを一気飲みし、同じ様にアカネよりも遅れて入るタイミングでスピードを合わせ、学習塾へ入った。
アカネが席に着き座ると遅れて入ったタカシもアカネの後ろの席に座った。
(後ろが空いていて良かった。)
アカネは塾のテキストとノートを開いて始まるのを待っていた。
(まずは消しゴムを借りるところから始めてみるか。)
「種田さん、種田さん。」
タカシが声を掛けた。
アカネは怪訝そうに
「なに?」
「悪いんだけどさ、消しゴム忘れちゃったんだけど貸してくれない?」
「んー、私も一個しか持って無いから。」
「あー、そう、じゃあいいや。」
あっさり断られた。
(うわー、こりゃ鉄壁だなー。)
そう思って居ると、アカネが後ろを振り返って、
「私、鉛筆の後ろの消しゴム使うから、これ使ってもいいよ。」
「え?」
「いいの?」
アカネは頷いた。
「有難うこのお礼はいつかするよ。」
そういって消しゴムを借りた。
(優しい子だな。)
そういえば、タカシはなんでアカネの事が好きになったんだろう。この時期の女子は男子より生育が早いから大人っぽく見えたのかも知れない。女子の中ではアカネは可愛い方だ。
(可愛いから告白したのか? なんて安直なんだ。)
過去に告白した時の心境が分からないままタカシは考えた。
自分は使いにくい鉛筆の後ろの消しゴムを使ってタカシに大きな消しゴムを貸してくれるなんて自己犠牲の上に他人を助けるなんて天使の様じゃないか。タカシは過去の心境が分からずともアカネに好感を持つ自分に気付いた。
塾が終わると、今度は苗字では無く名前で読んでみた。
「アカネさん、アカネさん、消しゴム返すよ。こっちはお礼。」
タカシはアカネの消しゴムと飴の両方を渡した。
「ありがとう。」
「お礼を言うのは僕の方だよ、ありがとう。」
アカネはニコっと笑い、消しゴムと飴を受け取った。
帰り際、アカネとは反対方向なので、
「アカネさんバイバイ、また明日!」
そういって手を振ると。アカネは笑いながら手を振っていた。
(ヨシ!まずはこんなところかな。)