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4回目のプロポーズ  作者: LoveDonald
3/10

--- 園児の想い ---

 タカシは眠かったが、うすら寒い感じがして目が覚めた。ぼんやり部屋の中を眺めていると突然、


 「何処だここは!」


 びっくりして起き上がった。何処か懐かしい感じもするが知らない部屋だ。布団から出てみると自分が来ているパジャマに戦隊ヒーローが書かれていた。そればかりか目線の位置からして随分自分の背も低い事に気がついた。なんだ、子供の頃の俺なのか?

 まさか本当に30年前に戻ったのか?部屋の外に出ると玄関に姿見があった。

 そこで自分を見ると確かに幼稚園児のタカシになっていた。 これは、タイムリープか。


 「あれ?タカくん今日は早いね?」


 母親が声を掛けて来た。


 「若!」


 「え?何?今、若いって言った?」


 「ううん、お母さんおはよう。」


 「寝ぼけてるのね。早く顔を洗ってらっしゃい。」


 顔を洗って食堂へ行くとそこにはもう一人子供がいた。


 「姉貴!?ちいさ!」


 「お母さんタカシがまた変な言葉を覚えて来たよ!」


 「タカくん、お姉ちゃんに何言ったの?」

 

 「「姉貴!ちいさ!」って言った。自分の方が小さいくせに!」


 「タカくんはまだお姉ちゃんって呼ばないとね。姉貴はだめよ。」


 「はーい。」


 「佳代子も今日は飼育当番でしょ?早く食べて行きなさい。」


 「タカくんも早く座って食べなさい。」


 タカシは配膳してある席に座った。


 「タカくんはそこじゃないでしょ?そこはお父さんの席よ。」


 タカシはもう一つの配膳してある席に座った。


 「すくな!」


 「あら、少なかった?じゃあもう少しご飯を注いであげるわ。」


 そう言って母は小さなお茶碗に一杯にご飯を注いだ。


 「いつもはそんなに食べないのにお腹すいたの?」


 「うん、今朝はお腹空いているんだ。」


 「タカくんも早く食べてね、お迎えが来るわよ。」


 タカシの幼稚園はお迎えと言ってもバスが来るわけでは無い。集団登校の列が園児を順番に拾って幼稚園まで2列で歩いて行くのだ。タカシはご飯を食べて服を着替えると表通りに母親と出ていき列が来るのを待った。程なくして先生に連れられた園児の列がやってきた。


 「先生おはようございます。」


 「はい、タカシくんおはよう。」


 先生に挨拶をして列の後ろに並んだ


 そう、この先生、美里先生にさよならをしっかり言えなかった事が悔やまれているのだ。

 今は3月だが、先生は4月で幼稚園の保母さんを辞めて遠くへ行ったのだった。

 他の園児達も先生の事を好きだった様だが、孝は漠然とした気持ちではなく美里先生の事が本当に好きだった。だから先生の好きな事、役に立つことを率先してやっていた。

 美里先生もタカシの事を可愛がってくれた。

 そんな先生のさよなら会で他の園児達がさよならを順番に言う中、タカシは先生が去ってしまうという事実を受け入れられず、思いと裏腹な態度を取ってしまった。


 「先生なんか、早く行っちゃえ!」


 と怒ってしまったのだ。今考えると寂しいという思いが、何で行っちゃうんだという怒りに変わってしまったのだと思う。それっきり美里先生とは縁が無くなってしまった。


 今度はちゃんと「さよなら」を言いたかった。


 幼稚園に着いたタカシは早速今月の行事予定を確認した。


 3/27(金) 美里先生さよなら会


 (明後日がさよなら会か、何か記念になるものを送って、「さよなら」と感謝の気持ちを伝えよう。


 タカシは先生がどこへ行ったのか知らなかった。早速先生に聞いてみた。


 「先生、4月からは何処へ行かれるですか?」


 美里先生はキョトンとした様子だ。


 (何か変な事を聞いたか?)


 「タカシくんは大人見たいな話し方が出来るのね。」


 (しまった!)


 「うん、お母さんに教えて貰ったんだよ。」


 なるべく子供らしい話し方で喋ってみた。


 「そう、偉いねーちゃんと覚えたのね。先生はね、北海道っていう北の方の場所に行くんだよ。先生のお家はそこに有るんだよ。タカシくんも大きくなったら遊びに来てね。」


 「うん、僕も行って見たいな。」


 その日、家に帰ってからタカシは何を記念に渡そうか思案していた。何かを作ってもわざと下手に作ったりとチグハグな物になってしまいそうだ。ここはシンプルに手紙にしよう。


 (美里先生、3年間僕達をいつも優しく見守ってくれて有難うございました。先生のお陰で僕の3年間の幼稚園生活はとても楽しいものになりました・・・・。)


 よし、これでいいだろう。明日は先生に沢山遊んで貰おう。


 翌日は美里先生と鬼ごっこをしたり、本を読んでもらったりして遊んだ。


 そして美里先生のさよなら会の日が来た。園児達で歌をプレゼントして、お芝も見てもらった。みさと先生は笑って喜んでいたがちょっと寂しそうな顔をしていた。


 最後に先生に園児たちが一人づつお礼の言葉を述べた。


 園児達は皆それぞれの思い出を話し「さよなら」を言っていた。


 先生は徐々にすすり泣きを始めた。


 そしてタカシの順番が来た。


 「美里先生、三年間お疲れ様でした。美里先生も僕達が入園した時に来園されて僕達の卒園と共に実家に帰られる偶然が信じられません。まるで僕達の為にこの園に来られた様な気がしてなりません。3年間いつも優しく接してくれて有難うございました。北海道に戻られてもお元気でいて下さい。僕もいつか先生の所へ遊びに行きます。あとこれはお手紙ですが、今読まれると恥ずかしいので、北海道へ帰られてから読んで下さい。本当に有難うございました。」


 タカシの話が終わると、その場がしーんという音が聞こえるくらい静かになった。


 すると突然、園長先生、事務長先生、他の保母さん達が割れんばかりの拍手をし、園児達も拍手をしていた。美里先生は両手で顔を覆っていた。


 やがて先生の嗚咽が聞こえ号泣しているのが分かった。


 どうした?悲しませてしまったのか?


 「だ、だがじぐん、あ、ありがどー、うーわーーん」


 美里先生は感極まって泣いてしまった様だ。先生が両手を広げたこっちへ来るように諭した。タカシが近づくと両手で抱きしめて泣いた。タカシはどうしていいのか分からなかったが、今は泣きたいだけ泣けばいいとじっとして先生の頭を撫でてあげた。しばらくして先生が手を離したので、ポケットからハンカチを出し渡してあげた。


「あ”り”がどー」


 しばらくして落ち着いたので、次の園児が挨拶をした。


 園児全員の挨拶が終わると最後に集合写真を撮る事になっていた。先生は写真の中央にその周りに園児たちが順番に並ぶ配列だった。タカシは2列目に並ぼうとすると、


 「タカシ君こっちへ来て。」


 美里先生が呼んだ。


 タカシが行くと、先生はタカシを膝の上に座らせ、後ろから抱きしめた。


 「今日は松組の皆ありがとう。先生一生忘れないから。」


 と言ってそのまま集合写真を撮った。

 タカシは嬉しかった。周りの園児たちが羨望の眼差しで見ているのにはちょっと後ろめたさがあったが、前世での別れに比べれば、先生の心に印象深いものを残せた事に幸せを感じていた。


 タカシは帰ってからも先生の涙が忘れられなかったが、ちゃんと挨拶が出来たという達成感で気分は良かった。


 そして眠りについた。


 「タカシさん、タカシさん、起きて下さい。タカシさん」


 タカシは誰かに起こされ、慌てて起きた。


 「おはようございます。」


 目の前には狐っ娘がいた。


 「どうでしたか?うまく行きましたか?」


 「ああ、うまく行ったよ。」


 「それは良かったですね。」


 「ではこれで任務完了ですね。」


 「いや、先ずはやり直しの1つめが終わったところだ。俺の覚えている限りまだ後3回やり直しがある。ああそうだ、やり直しは一つだとは願っていなかっただろ?」


 「それはそうですが。うっー、分かりました。じゃあ次のやり直しに行きますか?」


 「いや、今日はもういい2つめは明日にしよう。」


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