--- 神の使い ---
翌朝、セミの声に起こされたタカシは、
「あーうるせえなもう。あぁ、今日はゴミの日だったか。」
タカシは狭いアパートの中のゴミを集め始めた。
「カップ麺や弁当のプラスチック残飯にゴミ箱のゴミと、ティッシュは使えるから机の上に置いて置こう。」
慌ててゴミを出し戻って来たタカシは冷蔵庫の中の炭酸水をゴクゴク飲んで一息ついた。
机の上には昨夜のティッシュがある。よく見ると神社の地図が書いてある。
どうせ行くところも無い暇な週末をアパートでだらだら過ごすのなら、ものは試しに行ってみるか。 と珍しくポジティブな考えを起こし、身なりを整えて出かけていった。
「えっと、この道を右に曲がって細い路地の最初のT字路を左に入ると神社があると。こんな所に神社なんて立てられるのか?」
疑いながらもT字路を曲がると薄暗い通りが続いていた。
「何でこんなにも暗いんだ?」
高いビルに挟まれた狭い路地は薄暗く普段であれば絶対に立ち入らない様な路地であった。タカシは恐る恐る入って行くと赤い鳥居が見えたそこをくぐると小さな狐の石像が左右に立てられ、その向こうに小さなお社が立てられていて前には賽銭箱が置いてある。
お社の扉の上には祈願成就と書かれている。
「そうか何か祈らないと行けないな。何を祈ればいい?やっぱりあれだなよし!」
そう言うと賽銭を投げ入れ、鈴を鳴らし2礼2拍手をして祈った、
(過去に戻って出来事を変えられます様に)
そしてまた1礼をして祈願を終えた。
タカシは冷静になると、
「馬鹿な何を祈ってるんだ俺は。祈るならもっと現実的な事だろ!」
そう言って振り返り神社を後にした。
(アオネよ今の願いを聞いたか?)
(はい神様)
(今回はお前の卒業試験だ、アカネと共に卒業出来る様に神を信じぬ彼の願いを叶えてやれ。)
(はい、かしこまりました。神様。コン!)
タカシはアパートに帰り、
「しかしあんな神社をポケットティッシュを配ってまで宣伝する必要があったのか?」
「まさか、賽銭取られただけか!」
タカシは行った事を後悔した。
(また俺の後悔が一つ増えてしまった。)
その日もタカシはWeekdayの疲れを取ろうと早めに風呂に入り寝た。
「タカシ様、タカシ様、起きて下さい。タカシ様ってば。」
誰かが起こそうとしている。このアパートにタカシ以外の存在が居れば一大事であるはずなのに不思議とそんな危機感は湧いて来ない。
誰なんだ俺を呼んでいるのは。寝返りを打ったタカシは薄目を開けた。
誰かが目の前で正座している。着物を着た子供? いや猫? 狐か?
「おわっ!」
驚いたタカシは立ち上がった。目の前には小さな着物の女の子が座っている。しかも耳が頭に生え、おしりから尻尾も生えている。太めの尻尾なので狐かも知れない。
「お前は、誰なんだ!」
「はい私はアオネといいます。タカシ様の願いを叶える為に来ました。」
「何だ?俺の願いだって?」
「はい、本日私共の神社へお参りをなさって、その際願い事をされましたね。」
「本日、神社?昼間のあれか?」
「はいそうです。」
「どんな願いも叶うのか?」
「いえ、今日お祈りされた願いです。」
「今日の願い?何だっけな?俺は何を願った?」
「はい、タカシ様は、「過去に戻って出来事を変えられます様に」と願われました。」
「まじか!?それが叶うのか?」
「はい、このアオネにおまかせ下さい。」
「えっとそれじゃあ、何年前だ、そう30年前の春に戻してくれ」
「かしこまりですぅ!」