--- 日常 ---
夏のうだる様な暑さの中、休日にも関わらずエアコンの無いアパートの1室で扇風機の前でうなだれている男がいる。
歳は37歳の独身サラリーマンの仙石 孝である。
夏はどうしてこう暑いのだろうか・・。俺はどうして休日なのにこんな所で一人でいるんだろう。
これじゃ休日ニートみたいなものじゃないか。
近くの公園の木で鳴く鈴なりのセミの声が余計に暑さを増幅させていた。
タカシはこれまでの人生を色々悔やんでいた。
大抵の人であれば人生の中で幾つか後悔している事は有るだろう。
だが、タカシのそれは大抵の人よりも多く、その状況を鮮明に覚えている。
まさにタカシの黒歴、いや、悔み歴史とでも言っていいほど色々と後悔していた。
最近は同期入社の者たちの結婚の話も少なくなり、子供が出来たとか、今度小学校に入学するといった、正に順風満帆なタカシからすればサクセスストーリーばかりを聞く。
なのに、タカシはこの歳になっても人生設計が出来ず、周りの流れに流される日々を送り、人生にも自信がもてず不安な日々を過ごしている。
「あの時ああしていればこんな人生じゃ無かったのになー。」
昔の事を悔いても仕方が無いことは解っているのだが、嘆く事しか出来ない自分に腹立しさを感じていた。
そんなタカシの無くてもいい程度の休日が終わり、また新たなWeekdayが始まった。
「仙石、先週頼んで置いた企画書の素案は出来ているのか?」
「あ、すいません、午前中に作成します。」
「なんだ、午前中にチェックしたかったのに遅いぞ、まったく。」
「仙石、製品Aの見積もりも午前中に頼むぜ。」
「はい、直ぐやります。」
また今日もデスクでサンドイッチ片手にお昼休みも仕事を続けるのだった。
「何とか、2件とも間に合ったなー。あー、疲れたー」
「仙石、メールで送ってもらった素案、ちょっと修正が必要だ。それを元に仕上げまでの内容詰めるから今から会議室を取って始めるぞ。」
タカシは一息着く暇も無く、会議室で缶詰状態になった。
「じゃあ、これで仕上げのレポートを明日までに作成してくれ。」
「わかりました課長。」
(明日までってもう16:00じゃ無いかー。今夜も残業かぁ。)
レポートを仕上げて課長にメールで送り、気づけばもう22:00になっていた。
帰りに弁当でも買って帰るか。
駅の改札を出て近くのコンビニに向かうと可愛らしい女の子がティッシュを配っていた。
貰うつもりは無かったのだが、
「どうぞ。」
と、笑顔で渡され、つい貰ってしまった。
ティッシュをポケットに突っ込み、コンビニに入った。
「何だご飯物無いのか、ウドンとソバしか無い。じゃあウドンとおにぎりだな。」
家に帰ると、うどんとおにぎりを食べてシャワーをして寝た。
そんな日を1週間続けて金曜の夜、
「金曜の夜が一番幸せだな。ゆっくり寝られそうだ。」
「そろそろこのスーツもクリーニングに出さないとな。」
そう言いながらポケットの中を探っていると月曜日に貰ったポケットティッシュが入っていた。
ティッシュに入っている広告を見ると、
「運が良ければ、貴方の願いが叶います。ご祈願は叶神社へ。」
「何だこりゃ。運が良ければってなんだよ。運が良ければそんな所へ行かねえよ、全く。人を舐めるのもいい加減にしろってんだ。」
タカシはティッシュをゴミ箱に捨てた。