1章:予選
ものすごく久しぶりに更新してみた
なんだかんだで王都に到着した俺たちは闘技場に行ってエントリーを済ませ(ギリギリセーフ)、神父紹介のちょっとお値段の張る宿に泊まり、なんだかんだで闘技戦予選に来ていた。
予選は別会場、とかではなく本戦と同じく闘技場で行う。ルールは制限時間1時間終了時に立っていること。去年の上位入賞者や教会・冒険者ギルド・傭兵ギルド・学院各方面からの推薦出場者は予選が免除されていて、予選勝ち上がりでの出場者枠は6名。ただし、6名まで減った時点で予選終了になるわけではなく、あくまで制限時間終了時に立っていなければならないのがルールで、その年によっては予選勝ち上がりが1名になっていることもあるのだそう。
ともかく、負けなければいいのである。ルール的にずっと戦いを避けていても予選終了まで逃げ続ければ勝ちなので、できるだけ戦わないようにするつもりだ。何故か横で最初から全開でボコす気満々の弟がいるんだがそんなやつのことは気にしないでおこう。こういう奴がいるお陰で逃げの戦法が取りやすくなるからな。
そうこうしている間にも闘技戦予選の説明が行われている。その説明をしている、受付の1人でもあった女性の方を鼻の下を伸ばしながら見る者が半分、緊張のあまり何も聞こえていない者が1割、あとは一応説明を聞きつつコンディションを調え闘志を表に出す者と逃げる気満々であろう俺を含めた二三人、といった所か。闘技場はかなり広い円形の舞台となっていて、まあ、まんまスタジアムだ。大きさは見たところがすごく広いとしか言い様がない。そのあまりの広さの為、観客は手元にミニモニター、上空にモニターが表示され、それで見ることが出来る様になっている。もちろん、自分たちの近くで戦闘になれば生でその肉薄した戦いを見ることが出来る。
見たところ二百から三百ほどの人数が集まっていると思われるが、やはり予選。明らかに弱そうなやつが多い。屈強な戦士もいるが、その中でもまともに戦えるのはほんのひと握りだろう。大体肉体がしっかりしてもいないのに細身の体で無双する奴が現れる展開だが、まあ俺が無双する予定はないし、正直みたところ横で気装を馴染ませているケミーでも簡単には勝てなさそうな屈強な戦士が五人はいる。あと、相当魔法が使えないとそもそも肉体的に強い相手に勝つのはかなりキツい案件だ。魔法も、適当に火炎を浴びせたところで武器で薙ぎ払い、多少の火傷は負うだろうが突っ込んで攻撃すればその一撃で終わる。それほどまでに見た目屈強な戦士は現実的に強い。やはり物理干渉しない魔法で相手を気絶させるのはかなり難しい。岩系の魔法を使えば良いが、そこらの魔物を狩るレベルの魔法を仮に屈強な戦士の顎めがけて連射した所で意識を奪うには至らない。魔法は一撃二撃での決定力に欠けるのだ。もちろんここにいる大体は魔法で簡単に突破できるが、十メートルほど離れた所で武器の手入れをしている、恐らくそこそこなの知れているであろう冒険者の剣士などには決定力において勝てないだろう。ちなみに気装は別だ。その肉体を強化してしまえばそれはゴリゴリの戦士と同じだ。弟はゴリラだ。
周りを観察していると、説明が終わったため、初期位置として大体3メートルほどずつ全員距離を開けて配置された。ケミーはかなり遠くへ行ってしまった。代わりに隣にごりマッチョが来てこちらを睨んでいる。開始1分前のアナウンスが聞こえた後からずっと獲物を狙う目でこちらを睨みつけてくるので、開始直後に俺にかかってくるのは明白だ。面倒臭い。
「皆さん準備はよろしいですね!?闘技場大会予選開始です!」
先程まで説明していた女性が高らかに開始の合図を言い渡すと、力強い雄叫びと共に一斉に動き出した。
直ぐに剣戟の音が聞こえ始める。戦いが始まったんだな、よし逃げるか、と考えているとすぐ横から地面を強く蹴って男が飛びかかってきた。
「よォ小僧!!!ここはてめえみたいなガキが来るとこじゃねーんだよ!!!喰らえ!!!!」
ものすごい常套句を吐きながら飛びかかってきた。男は大柄で力は強そうだが技術はイマイチであることがその大剣の振りかぶり方からよく分かる。並大抵のガキじゃ逃げられない間合い、タイミング、力で攻められるが、こちらは並大抵の実力じゃない。今からでもその雑な大剣の大振りを最小限の動きで横に躱し、大剣が地面にめり込んだところを懐に入り鳩尾を気装付きで殴り、殴打で意識を刈り取ることは出来ないことが予測されるので怯んだところで顔面に〈氷結〉を喰らわせてやればいい。なので少し体を横に傾け─────る必要はない。
「がっっ!!?なぁぁ!?!?ぐああああぁっぁぁ!!!??!?」
その情けない声を上げたのは大剣を振りかぶった為に大きすぎる隙が生まれ、攻撃を受けた男だった。男は真横まで忍んでいた細身、いや鍛え抜かれた筋肉を持つ男にその強大な膂力によって脇腹を強く殴打され、吹き飛ばされた先で俊敏な動きの女に一瞬で剣を掴んでいた手・がら空きの背中をそれぞれ2度ずつ、その両の手に構える双剣で切りつけられたのだ。
ああなるのもあそこまで隙だらけだと仕方ないだろう。格好の獲物を見つけた時に最大の油断がある。すぐ横に多く敵がいる中であの攻撃は明らかに握手だった。まあ、そう考えるとこの予選は大剣がやや不利とも言えるな。
俺もそんなに余裕ぶっこいている暇はない。目の前で大剣バカを簡単に片付けた男と女のコンビーネーションはそこそこ良かった。相手が相手だったからあまり上手いところを見れなかっただけではあるが。2人はこちらに視線を向けるが、襲いかかってこない。目が合いながら、結託して戦うのが1番の戦法だな、と思っていると、視線はすぐに外され、2人で上手く距離をとりながら周りの敵を片付け始めた。彼らが俺を一瞥しただけで襲いかかってこなかったのは子供だからと侮られたのか、はたまた魔力量でも感知されたか。
よく強者は強者を見抜き、無駄な戦いを仕掛けない、というのがあるが、あれは相当な玄人でないとまずありえないし、その玄人でさえ全然普通に間違える。そもそもこちらの実力を見抜けるほどのやつはこの予選には出てないだろう。だが、この世界には魔力量がある。魔力量はダダ漏れにしてる訳では無いのでまあ簡単に察知されないが、実力を見抜くのよりは遥かに簡単に見抜かれてしまうだろう。
どちらが、いやどちらも魔法に長けていたのかもしれないがひとまず戦いにならずに済んでよかった。いつものように大々的に、堂々と魔法を操って片をつけることは容易にできる。だが、ここは王都だ。周りは俺のことを知らないし、俺も王都の、いやここに各地から集まってきた強者たちに簡単に手の内を見せるわけにはいかない。別に死んでも優勝しなければいけないわけではないが、やるからにはやれることはできるだけやるべきだと思う。本当は適当にそこらの剣士と鍔迫り合いでもしていればもっと偽装できるが、残念ながら弱そうな得物がない。基本魔法だけで戦える身なので剣を持ち歩くという発想がなかった(剣もやりたいから刀を頼んだがまだ届いてないのも相まって)。
そんなわけで現在、子供なりに長く逃げまくっている俺の近くに全く自重してない奴がいた。そんな見えない攻撃されたらここにいる人たちほとんど一撃じゃん…って程の攻撃を顎か鳩尾か金的で繰り出し、大量ノックアウト、死体量産舞踏会。いや死んでないよ、気絶してるだけ……だよな?泡吹いてる奴メッサいるんだが。開始時の敵との間合いに入った敵をそれはそれは跳んで潜って捻って躱して。領域内に入ったら自動で感知して攻撃してくるゴーレムのAGI五倍バージョンみたいな動きしてやがる。領域内では自由に動き回って相手を翻弄するその姿はまさしく舞だ。気装を局所的に纏うと、その集中を必要としてしまう技術特性からどうしても他に注意が向けられなくなるという弱点を考慮しないといけない。このような乱戦でなくとも、どんな実践の場であったとしても一対一、まあそこそこの数はいけるらしいが必ずその数しか敵が来ないという保証はないのだ。気装は実践向きじゃない。だからこそ、実践用の技術として全身に薄く纏うのを今日の朝アドバイスしてやった。予選の方式を知ったのが昨日のエントリー時なのだ、助言が遅いとか知りません。というか、朝教えたばかりのはずが結構まともに使えてるのがやばい。あ、また一人犠牲者が。
とまあ、あれだけ無双していれば近寄る奴もいなくなるわけで。おそらくまだあの技術に慣れていないから自分で領域を定めて戦っていたのであろうケミーは領域から出ない、いや出れない。あの程度の奴らなら領域の外に出て戦っても、むしろ気装なしでも全然いけると思うのだが、動かない。俺は違うがケミーは武術の天才だ。そのケミーが動かないとなると答えは一つだ。
かなりの強者がいる、それも武の達人が。
武を学ばなかった俺にはさっぱりわからないが、そういう存在が視界に入ったのか、存在を互いに確かめ終わったのか、ケミーから軽い威圧がこっちにまで飛んできた。威圧を全身に感じながら、周りの雑魚が怯み、ざわつく中、視界の端で何かがブレる。次の瞬間、バチイィィ!という耳を劈く音が眼前に迫る拳戟の波及とともに襲い掛かる。一斉に周囲の怯んでいた者共がその波動に耐えきれず、思わず膝をつく。よし、俺は子供らしく思いっきり横に倒れとこう。後ろに倒れるとここから先の戦いが観れないからね!!
対象の人物へ向けて放ったその威圧が届いた時にはもう既に拳に気装を重点的に纏っていた。本能で拳撃が来ると感じた、いや少し後方に回した拳を視覚したケミーは、握り込んだ拳を前に出しなら開いて掌を向ける。次の瞬間、予想を遥かに上回る速度で相手は眼前に迫ってきていた。
頭の中でめちゃくちゃ先まで大まかな流れは決まってるけど細かい設定が全然決まってないので書く気が起きない()