現状
朝になった。そして横を見るとやっぱり楓はいた。
「夢じゃなかった」
そうつぶやいたとき、楓も起きた。
「おはよう清治君」
「おはよう。よく眠れた?」
僕は今、紳士ぶっているが全くそんなことはない。なぜなら寝起きの女の子が、それも好きな人が目の前にいるのだから。寝起きもやっぱり可愛い。
「お陰様でよく眠れたよ」
なら良かったと言って支度を始める。着替える為に楓に一旦外に出てもらった。着替え終わって入ってきて大丈夫だよと言って入ってきた彼女を見て驚いた。
「久しぶりだな~これ着るの」
と言って学校の制服姿で入ってきた。
「学校行くのか?」
「うん」
「そ、そうか」
大丈夫なのかこれは。僕にしか見えてないけど、だからこそ驚いた。そして心配もした。それを訪ねようとした途端に楓のほうからそれを言われた。
「私が学校行って友達を見たときに辛くならないのかを気にしてるの?」
そう僕はまさにこれを気にしていた。それでも楓は………
「大丈夫。みんなの今の様子も気になるし」
「そっか」
僕が思っているよりずっと強いみたいだ。
「今、僕が思ってるよりも強いって思った?」
「なぜ分かった。そこまでいくと逆に怖いぞ」
「女の子に対して強いも怖いも言っちゃだめだよ」
そんな会話をして朝食をとり学校に行くときだった。
「学校でもよろしくね」
そう言われてコクリと頷いた。そいていつも通りの道を通って学校に行くときに思った。聞いていいものか分からないが思い切って聞いてみた。
「な~、やり残したことってなんだ?」
思ったよりあっさり答えられた。
「それは清治君と行きたいとことかあったし、やりたいこともあるし」
僕とって言ったのか? 今!?
「それって………」
訪ねようとした時だった。後ろから僕を呼ぶような声が聞こえた。
「清治ーおはよう」
友達の山崎尊だった。尊は高校入って最初に仲良くなったやつだ。体格がいいからすぐに分かった。もちろん声でも分かったけど。
「うーっす、おはよう尊」
そう言ったときに尊から質問が来た。
「今誰かと話してたか?」
知ってはいたがやっぱり驚いた。本当に見えてないのか。
「いや誰とも話してないよ」
秘密を守るためとはいえ嘘をつくのは胸が痛む。楓にも申し訳ないと心で謝りながら、学校にそのまま登校した。楓は学校につくまで僕たちを見守ってくれていた。
そして学校についた。それはいいんだが………
「今からどうするんだ?」
周りに聞こえないように楓に聞いた。なんとなく予想はしていたが。
「このまま教室に行って、一緒に授業受けるつもりだけど」
「予想通りだな。でも席とかどうすんだ? 流石に座らないときついだろ」
「大丈夫大丈夫。疲れない体質だから」
疲れなくても寝るんだ。口には出さなかった。
「どうした清治。なんか落ちてたか」
何もないとこを見ながらこそこそ話をしてたからか、すごい変人に見えるだろう。だが安心するんだ僕は変人ではないのだから。
「いや、特にない。ただぼーっとしてただけだから」
そう言って三人で取りあえず教室に向かった。僕たちの教室は二階にある。階段を上って右に曲がって2つ目の教室だ。着いたとき、楓のほうをちらりと見たけどあまり緊張した様子はないように見える。そして教室に入る。楓が亡くなってから今日で1週間だ。まだどんよりした空気が感じられる気がする。でも、今までの様子には着実に戻っているようにも思えた。楓は男女問わず人気があっただからだろう、クラスの数名は不登校気味にもなっていた。
僕は不安だった教室がこんな雰囲気だから、この様子を見てどう受け取るのだろうと。僕の偏見だけど漫画とかではなんて顔してるのみんな元気出してよって言うような気がしてた。でも、楓は違った。
「私は………ちゃんと………みんなの中に………いたんだ。私の………人生は………無駄じゃ………なかったんだ………」
たくさんの涙を流しながら楓はそう言っていた。僕ももらい泣きしそうになったが、今僕が泣くのは何か違う気がしたから我慢した。
楓が泣き止んだ時、丁度授業が始まった。最初は数学だった。
「微分積分か~、一週間で結構進んだんだね」
「分かるか?」
「一応少しなら」
周りのだれにも聞こえないくらいの声で話していた。たまに筆談もしていた。そうやって授業中は会話していた。たまに教えたり、教えられたりしながら。
そして4限目が終わり、お昼休憩になって楓と一緒に屋上へ行った。いつも弁当を尊と一緒に食べるが今日は持ってきておらず学食らしい。だが、今は都合がいい。ちょうど楓と話したいことがあったから。 屋上へ着き昼食をとるときに、要件を伝える為に会話を始めた。
「クラスのみんなを見てどう思った?」
しばらくして楓が答えた。
「本当に嬉しかった。でも」
少しためらいながら言った。
「でも、みんなにはもっと明るく暮らしてほしい。忘れてほしくはないけど、それでも元気になってほしい」
僕はその言葉を聞きたかった。僕の考えていることは楓がクラスのみんなを大事に思っていることが前提だったからだ。その考えは至ってシンプルなものだ。漫画じゃよくやるようなイメージがある。そう、僕の考えていることとは………
「だったら、クラスのみんなに手紙書いてみないか?」
僕は最初は手紙程度で人の気持ちは動かせないと思っていた。でも、こんな出来事が目の前で起きている。僕は多分こうして会わなくて亡くなったはずの人から手紙もらったら絶対人生やり直すつもりで頑張れそうな気がする。僕が言っても説得力ないかもだけど………
「そんなことで大丈夫かな?」
心配そうに言っていたが僕には確信があった。何の信ぴょう性のない確信ではあるけど。
「これは楓が思っている以上に大きいことだと思うよ」
少しの時間差で楓は、
「うん、分かった。やってみるよ」
笑顔でオッケーと言ってくれた。
そして眠くなる午後の授業も乗り切って放課後。
ちょっと尊と話して尊が部活に行くのを見送って楓を呼んで帰り始めた。他愛もない話をしながら帰り、家に着いた。親が帰っているのを確認したとき、家族には会いたいと思っているのかなっとふと思った。
それからはいつも通り食事をし、宿題をして、お風呂に行った。お風呂に入っているとき音もせずに後ろに何かの存在を感じた。そう、楓だった。
「ちょちょちょちょちょちょ、えっ、何だ? なんて夢?」
現実だということは承知だ。ただただ信じれなかっただけだ。タオルは巻いていたがそれでもきれいな肌は丸見えだ。つい見とれてしまう。
「あ、あんまり、見つめないで。さすがに恥ずかしい」
「す、すすすすまん」
一瞬の出来事なのに何分もの時間に感じられた。
「で、ど、どうしたんだ? お風呂は不要じゃなかったっけ」
「まー不要ではあるけど、入っても何の問題もないし」
ちょっと恥ずかしく言った楓はその場に腰を掛け背中を流してくれた。洗ってくれているタイミングで続けて言った。
「その、お礼を言いたくて」
「お礼?」
「うん」
そして続ける。
「私のために、そしてクラスのみんなのためにあの提案をしてくれて。私ひとりじゃ思いつかなかったと思う。ありがとね」
そして僕も言った。
「どういたしまして。でも、お礼を言うのはまだ早いよ。書くのはこれからなんだから。それに」
「それに?」
この先は言おうか迷った。でも言った。
「これからも楓の願いを叶え続けるんだから。お礼はまだ早いよ」
これから先それは着実に近づいてきてる日数を指す。自分の最後の日を数えられるというのがどれだけ怖いものなのかを僕は分からない。それでも僕は手伝う決意をした。僕の思いも伝えたいから。
「ありがとね」
優しく微笑みながら楓は言った。
「だからまだ早いって」
僕も笑いながら言った。
お風呂から上がり作業に移った。クラス全員分だ一晩じゃ終わるような量じゃない。それでも頑張って書いているのが分かった。僕も僕のすべきことがあったから僕も作業に移った。この時はまだ二十一時くらいだったが気づいたら十二時を回るとこだったから、作業を一旦やめ、寝ることにした。楓のクラスのみんなに手紙作戦は明後日決行になりそうだ。僕は全力でサポートすると心に決めてその日は寝た。
残り日数………47日
二話目です。何か言うことがうまく思いつきませんが残りの47日分を楽しみにしてください。
より多くの人に読んでもらえると嬉しいです。