5th 王都スロスフィア
キャラ紹介
九条鈴鹿
15歳
火の巫女。隼人の妹で隼人のことが大好き。
アーチ村の1件から数日が経ち、俺たちは王都に立ち寄っていた。宮殿までそう遠くないということでこの王都で一休みすることにしたのだ。
「ここが王都……」
「まるで童話の世界ですね」
大きな城の周りを囲むように街が栄えていて、外界からの侵攻を防ぐ砦が王都全体を囲んでいた。俺と鈴鹿は創作の世界でしか見たことのない光景に目を輝かせていた。
「じゃあ、ここからは自由行動ってことで」
それから俺と鈴鹿、ヒョウカとレンカ、アニスで分かれて自由行動になった。
「こうやって2人きりになるのって久しぶりかもな」
「ですね」
2人で話しながら街中を歩く。
「何か食べるか?」
「……」
「鈴鹿?」
問いかけても返事がない。ふと鈴鹿の視線の先に目をやると蒼い宝石が埋め込まれたネックレスがショウウインドウに並んでいた。
「これ、欲しいのか?」
「…………あっ、い、いえ!何食べるかでしたっけ?」
鈴鹿は慌てて話を逸らす。やっぱり、欲しいんだな。
「あそこのお店とか美味しそうですよ?」
「そうだな、あそこにするか」
「ちょっと先行っててくれるか?」
俺たちは近くにあったレストランで食事することにして鈴鹿を先に行くよう促し、俺はトイレに行くと言って後から店に入った。俺はハンバーガーのようなやつ、鈴鹿はパンケーキみたいなやつを頼んだ。
「このハンバーガー、動いてないか?」
「生きてるのかもしれませんよ?」
俺はハンバーガーを口に運ぼうと手で持つと口のように開き案の定襲ってきた。
「うわっ、これどう食うんだよ!」
「ふふふ」
「笑うなよ」
鈴鹿は目の前のハンバーガーに苦戦する俺を見て笑っていた。でもその笑顔が何より嬉しい。
そんなこんなで苦戦しながらも食べ終えた。
「鈴鹿、目つむって」
「はい?」
「いいから。ちょっとだけ目つむってて」
「なんなんですか?」
鈴鹿は不思議に思いながらも目を瞑った。俺は鈴鹿の後ろに回り、首に手を回す。
「はい、出来た。もういいよ」
鈴鹿はゆっくり目を開けて首に下がるそれを見た。
「こ、これって……」
「お前欲しがってただろ?」
「いいんですか?」
「いいも何も俺からのプレゼントだ」
「ありがとうございます」
鈴鹿は泣きながら喜んでいた。
「泣くなよ」
「だって、嬉しくて……」
「この世界に来て色々あったけど必ず2人で元の世界に帰ろうな」
「はい」
目を涙で濡らしたその笑顔は綺麗以外の何者でもなかった。鈴鹿の笑顔が1番の宝物かもしれない。
ドン
店を出たところで何者かにぶつかられ鈴鹿がよろめいた。
「大丈夫か?」
「はい…………あれ、ない!」
「どうした?」
「兄さんに貰ったネックレスが……!」
「あいつか!鈴鹿はここで待ってろ!」
「兄さん!」
鈴鹿の呼び止めを他所にぶつかってきたやつを追いかけた。屋根つたいにもう1人誰か同じ奴を追っている人影を見た。
あれは、ヒョウカか?
俺はその人影の元へ飛んだ。
「隼人。あなたもあいつを?」
「あぁ、大事なものを取られてな。お前は?」
「私も同じ」
俺とヒョウカは奴を追って路地に入り込んだ。だがそこにはゴブリンとオークの群れが佇んでいた。そして、追っていた奴もゴブリンへと姿を変えた。
「これは……」
「どうやら嵌められたようね」
「やるしかないか」
俺たちは立ちはだかるゴブリンとオークの群れに立ち向かった。
「ゴブリンってこんなに強いもんなのか?」
「いいえ、こんなに強いはずは……」
目の前のゴブリンとオーク達は異様な強さを持っていた。苦戦しながらもゴブリンを掃討し、オークが最後の一体となった。
「これで最後だな。トドメ行くぞ」
「えぇ」
黒の剣閃と氷の剣閃が交差し、オークの胸にバツ印を刻んだ。ゴブリンたちがいた場所には蒼い宝石のネックレスと橙の宝石が入った指輪が落ちていた。
「これか?」
俺は指輪をヒョウカに渡して、ネックレスを拾った。
「ふふ、流石ね。巫女最強の力と剣の王の力」
俺たちが安堵しているとゴブリンたちがいた方から声がした。声の主の方を見ると白いローブを羽織った小柄な少女が立っていた。
「誰だ!?」
「わたし?わたしはねぇ、これ見れば分かるかな」
白ローブの少女は手の甲をこちらに向けて見せた。そこには見覚えのある印によく似た紋章が絵が辛ていた。光をイメージしたような形の紋章。あれは……。
「光の……巫女」
俺の代わりにヒョウカが口を開いた。そう、あれは巫女だけに現れる紋章。
「だいせーかーい!」
「さっきの口ぶり、まるであのゴブリン達はお前が用意したみたいだったが?」
「はたまただいせーかーい!そうだよ、あの子達はわたしが仕向けたの。まぁ、やっぱりゴブリンやオークごときじゃ強化しても叶わなかったね」
「なんでそんなこと……!お前も巫女じゃないのか!?」
白ローブの少女は高らかに笑っている。まるでこちらをバカにするように。
「私と同じように操られているとか?」
「操られている?ふふふ、これはぜーんぶ私の意思だよ。この世界は救われる資格なんてないの。だからわたしはジャグラス様についてこの世界を破壊する」
白ローブの少女の言動には世界への憎しみが籠っているような気がした。
「挨拶もしたし、わたしはそろそろいくね。まぁ、また会えたら会いましょう?ふふ」
「おい、待て!」
少女は光に包まれ消えていった。しかし、遠くから空が暗くなって来るのがわかった。いや、空が暗くなってると言うより何かが近づいてきてる!
「ヒョウカ!」
「えぇ!一旦戻ってみんなと合流しましょう!」
俺たちは急いで鈴鹿、レンカ、アニスと合流して、王様に避難勧告を出して貰って人々を避難させる。
「あれは、ドラゴン?」
「あれは、邪王龍ドラグニスとその配下のドラゴン達だわ」
アニスの言葉で思い出した。邪王龍ドラグニス、あの時聞こえた声の正体か。
「あの数、私達だけで大丈夫でしょうか?」
鈴鹿が心配そうに首を傾げる。
「やるしかないだろ」
俺は鈴鹿にネックレスをヒョウカはレンカに指輪をつけてやり、ドラゴン達との戦闘に備える。
「みんな、一人もかけずに全員でこの街を守り抜くぞ!」
読んで頂きありがとうございます。更新は遅めですが、温かく見守り下さい。感想、評価お待ちしております