捕虜とシスター
リングヴルドは宗教国家である。
ヴルド教を国教としているというより、ヴルド教を信仰している地域一帯が、いつの間にか国として認識されるようになったという方が正しいかもしれない。
そのため国内の信仰率は9割を超えており、有名な宗教国家として名を挙げられている。
他国の信仰者も移民してくるなど何年人口は増加し、現在では3本の指にはいる大国に成長した。
対してアギトは軍事国家である。
もとは取るに足らない小国だったが、いくつもの戦争を勝ち抜きその規模を増大させていた。
とくに呪術師の練度が非常に高く、戦争を勝ち抜いてきたのも、このことが大きいと考えられている。
いつしか軍事国家として恐れられるまでに成長したアギトは、これもまた3本の指にはいる大国となっていた。
以上のことからわかるよう、リングヴルドとアギトはその成り立ちも考え方も、全く別の国であった。
大国同士の戦争は深刻な影響を及ぼす。
両国間では戦争を回避するため数々の条約が交わされてきたが、国の背景からわかり合うことは難しく、1902年に南大陸戦争が勃発。
それから5年が経過し、現在1907年はアギトが優勢という状況であった。
ウィルとレイラの姿は、砦の内側の町の、とある宿屋にあった。
古い宿屋ではあるがしっかりとした造りで、ウィル達の部屋は2階の奥の2部屋にある。
2部屋のうち奥の部屋の中で、ウィルはつい先ほどきた服を1時間ほどでもう着替えていた。
「何のために着させられたんだ、まったく」
ブツブツと文句を言いながら服を着ていく。
今着ているのはごく一般的な服装だ。
これからの仕事をするには、一般市民に紛れ込まなければならなかったからだ。
着替え終わった後、部屋を改めて見回してみる。
ベットやクローゼット、個別の入浴室まであり、古びている以外は何の不満もない。
むしろ良い宿屋に分類されるのではと思えるほどだ。
「ここがしばらくの拠点になりそうだな」
窓から外を見てみると町の様子がよく見える。
アギトほど賑わっていないが、どの人も幸せそうな顔をしている。
素直に、良い町だと思う。
時刻を見てみると14時をすぎている。
部屋に入ってから一時間が経過していた。
「待たせてるかもな。そろそろ行くか」
リボルバーを見えない服の裏側に隠し、ウィルは部屋を後にした。
レイラの姿はすぐに見つかった。
「な、なんだその格好」
「何と言われましても。これが私の私服です」
宿屋のロビーにあるレイラはシスターの格好だった。
確かに似合ってはいるが、あまりにも目立ちすぎだ。
「いや違うだろ。目立たないように私服にしたんだ。町を調査するんだろ。そんな格好じゃあさっきの方がまだましだぞ」
「そんなことはありません。この町では教会は珍しくありませんから。それよりあなたの首輪の方が隠すべきなのではありませんか?」
痛いところを突いてくる。
確かに首輪はおかしいだろう。
だが、着脱可能な物でもない。
「外ではフードを被ってごまかすさ。まあ、君が外してくれるなら、それが一番手っ取り早いが」
「それはできません。そうですね、首輪に関しては何か対策を考えないといけないかもしれませんね。考慮しておきます」
話を打ち切るように椅子から立ち上がると、レイラは扉へ向かう。
「では行きましょう」
「•••了解」
どうやら本気であの格好で出歩くようだ。
ため息をつきながらウィルも後に続いた。




