とある少年の始まりの日 3
「•••どういうことだ?」
ウィルはコンパスに問いかける。
コンパスは質問を待っていたかのように、悠長に話し出した。
「よく言えば君をヘッドハンティングしようというわけさ。残念なことに、現状我らリングヴルドは劣勢に立たされている。簡単に言うと兵士の数が足りないんだよね。そこで考えた。兵士がいなければ、捕虜を使えばいいじゃない!」
コンパスは立ち上がり両手を広げて、相変のわらずふざけた口調で熱弁する。
「ヘッドハンティング、ね。念のため聞くけど、断ればどうなる?」
「それは、そうだね」
コンパスは体をくの字にするように、ぐっとウィルに顔を近づけた。
「差し伸べられた救いの手を取らない愚か者まで、私達が面倒を見る必要はない、とわたしは考えている。これで回答になったかな?」
以前と同じトーンの低い声で言う。
「•••ああ、よくわかった」
それはつまり、断れば命はない、という意味だ。
祖国を裏切るか、命を諦めるか。
コンパスはどちらかを選べと言っている。
(俺は•••)
「さあ、選びたまえ! 首輪か、処刑台か! 君の望む未来はどちらなのか!」
「協力しよう」
間髪入れず答える。
これにはコンパスも予想外だったようで、手を広げたまま固まっている。
「わかっているのかい? こっちに付くということは、君はかつての仲間と殺し合うかもしれない、ということだよ」
「もちろんわかっている。でも、あいにく今の俺に自分の命より大事な物はないんだ。それに•••俺は生きることには貪欲でいたい。生きる代償というのなら、なんであろうと払う覚悟はできている」
ウィルはコンパスの目を見て言う。
そう、迷うことなどない。
もともと、自国愛なんて物は持っていない。
生きることに貪欲である。
この生き方こそ、ウィル=バーネットが唯一正しいと信じる生き方だった。
たとえアギトでもリングヴルドでも、それは曲げないと決めていた。
コンパスはしばらく値踏みするように黙っていたが、しばらくするとポツリと独り言を発した。
「代償、ね•••。なるほど、実に君達らしい考え方だ。納得したよ」
コンパスの唇が不気味に釣り上がる。
コンパスは机の上の首輪を手に取り、ウィルに差し出した。
「受け取りたまえ。今より君は我がリングヴルドの手先であり忠犬となった。これはそのお祝いだ」
ズシリと、手に重みが伝わる。
首輪は予想以上に重く、そして冷たかった。




