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PRICE-プライス  作者: タヌキ
3/8

とある少年の始まりの日 2

牢獄から出て廊下を歩く。

不思議なことに手錠も何もない。


(こんな無警戒なことがあるのか? まさか)


「なあ、あんた。ここってもしかしてリングヴルドじゃないのか?」


「いえ、リングヴルドです」


淡い期待が切り捨てられる。

しかし、感情のない声と口調で緊張感がまるない。

敵国の人間と話しているとは思えなかった。


「んー、なんか調子崩すな。おれはつまり捕虜なんだよな」


「そうです」


「なんで敬語なんだ?」


「私はいつもこの口調です」


少女、レイラは振り返らずに、端的に答え続ける。

表情は一貫して無表情だ。

注意してレイラを見てみるが、彼女自身武器らしきものは持ってない。

身長も小さいほうで、単に肉弾戦ならウィルが負けるとは思えない。


(ということは、まさか呪具師か? そうとしか考えられない)


ここ近年、呪具というものが普及していた。

呪具とは特殊な能力、または呪いを帯びたアイテムだ。

こうした呪具は常識の範疇外の現象を可能とした。

よって、呪具の呪いを増幅させて武器とする呪術師は、この戦争のキーマンになりつつあった。


「着きました。どうぞ、入ってください」


しばらく歩いた所で、レイラが一室の扉を開けて入るように促す。

作りからして牢屋ではないようだ。


(処刑室ってわけでもなさそうだ。すぐに殺されることもなさそうだし、ここは従っておくか)


促されるまま部屋に入る。

部屋に入りまず目に付いたのは、奇妙な化粧をした男だった。


「ようこそ、ウィル=バーネット君! さあさあ、座ってくれたまえ!」


「•••」


「おや? どうかしたのかな? 何か問題があるのかね?」


妙にテンションの高い化粧の男は、ふざけた様子で首をかしげる。

ピエロを思わせる赤と白の化粧。

黒をベースとした服にシルクハットの馬鹿でかい帽子。

どう見てもまともな人間ではない。

できることなら近づきたくない人種だ。


「ウィルさん。どうぞ席へ」


「あ、ああ」


レイラに促されて用意された椅子に座る。

部屋の大きさは牢屋と同じくらい。

小さな一室で、中央のテーブルを挟むように椅子が二つ置かれているだけの、質素な部屋だ。


「ふむ、怪我もほとんど完治したようだね。結構結構。やっと」


「聞きたいことがある」


男の話を遮って話す。


「先に今の俺の状況を教えてくれ。ここはどこで、今はいつなんだ。あんたらが俺を生かしている理由はなんだ。なんで」


「まあまあ、落ち着きたまえよ。焦らずともちゃんと教えるさ。それよりそれより、•••いまの君は捕虜なんだよ。そんなに質問の嵐をして、私が機嫌でも損ねたらどうするのかな? 自分の立場、理解してる?」


「!!」


化粧の男が声のトーンを下げて言う。

あまり調子にのるな、暗にと言われているようだった。


(そうだ。俺を殺すも生かすもこいつらが握っているんだ。ここは言う通りにするしかない)


「•••わかった。あんたの話を聞かせて欲しい」


「ふむ! 物分かりが良くて助かるよ。では話して行こうか。私の名前はコンパス。リングヴルドで諜報部の責任者をしている。で、現在地はここ。君も良く知っている[森の砦]だ」


コンパスと名乗る男は地図を取り出して指し示す。

それは数キロにも及ぶ巨大な砦だ。

町と森との境にあり、左右を大きな山脈で挟まれている。

また、巨大なだけでなく、一度も突破されたことのない難攻不落の要塞として有名だった。


「我らがリングヴルドの重要施設であり、君が破壊しようとして、仕損じたターゲットでもある。間違いないかな?」


「ああ、その通りだ」


渋々答える。

ウィルの初任務はこの砦の破壊工作、そのための偵察だった。

発見されたのち捕まる、という結果に終わったが。


「私達はこの辺りで偵察隊を捕捉、のちに迎撃。見事半数ほどに数を削ることに成功した。その時偶然にも生き残り、捕虜となったのが君だよ。何か相違点はないかね。質問も受け付けるよ」


コンパスが決めポーズ気味に指を指して言う。


「作戦のことは覚えている。俺の記憶とも食い違いもない、と思う。一つ質問があるとすればそう、俺以外に捕虜はいないのか?」


「いやいや、生き残りは君だけだよ。皆殺しの命令だったからね。君が生き残ったのは、本当に何かの間違いみたいなものなんだよ。いやー、不幸中の幸いとはこのことだね」


脇腹に一撃をくらった時のことを思い出す。

あの時の感覚は今もはっきりと覚えている。

あのまま死んでいたかもしれないと思うとゾッとする。


「君が捕虜になった経緯はこんなところだよ。さて、ここからが本題なんだけど」


コンパスは後ろからゴソゴソと何かを取り出すと、地図の上に無造作に置いた。


(これは、首輪?)


地図の上に置かれたのは、古臭い鉄製の首輪だった。


「ウィル=バーネット君。祖国を裏切る気はないかね」


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