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第008話

 さて、これでニンジョールノは大丈夫でしょうが、まだやることはあります。ムシリトールの住人達です。このままでは、ムシリトールは衰退していくだけなので、住人達には負担が増す一方になってしまいます。


「さてと、それじゃあちょっとやりますか」


 私が今いるのはムシリトールの中央広場。ちゃんと門から「勇者ですけど、何か」とステータスプレートを見せながら通りましたが、特に税とかは取られませんでした。まぁ、取ろうとしたら拒否してましたけどね。


「あー、すいませーん。私は勇者リリンです。ちょっと聞いてもらっても良いでしょうか」


 私は声を上げると、皆がこちらに注目します。因みに拡声魔法で私の声は街中に聞こえるようにしているので、注目はしなくても良いんですがね。


「この先、街道は通れなくなりました。ですので、この街の方々、いっそのこと新しい道ができて税も安いニンジョールノに移住しませんか?」


 そう、私が今やっているのは移住者の募集です。ここムシリトールからニンジョールノに交易の拠点が移る以上、今のニンジョールノでは人手が不足するのは目に見えています。ですので、ここから住人を移住させれば住人も新たな安定した暮らしができて万歳、ニンジョールノ領主さんも街が発展して万歳です。

 何人かの人がダッシュで走っていきますが、それは商人さんと領主の部下でしょう。交易の拠点にならないムシリトールでは、税金ばかりがかかって儲けはあまりありません。当然この話が本当なら、商人さんもこちらにとどまる必要はないわけです。


「それは、本当なんでしょうか」

「ええ、本当ですよ。ニンジョールノと王都近くの村の間の道は私が作りましたし、ゴーレムに警備させているから安全です」

「あと、移住ということですが…」

「ニンジョールノは小さな街ですが、これからは変わるでしょうね。人手が不足しますので、どんどん受け入れてくれると言ってます」


 勿論、ニンジョールノ領主さんには了解してもらってます。私の村の人の中には、土魔法の使い手もいるので、建物や城壁なんかも簡単に作れるでしょう。


 そんなわけで、ムシリトールの住人達も状況が呑み込めたようで、早い人は早速移住の準備を始めるために家に走って行ってました。そうして、集まった人達がいなくなる頃、今度は武装した人達を連れたデブがやってきました。


「おい、そこの女。何を勝手な事を言っているのだ!」

「嘘は言ってませんよ。私勇者の称号持ちですし、街道が使えないのも、ニンジョールノからの道を作ったのも本当です」

「だが、私の街で民衆をたぶらかしているではないか!」

「本当の事ですもの。こちらの税金、聞きましたけどニンジョールノの倍くらいとってますよね。それだけでも大変なのに、街から商人が減ってしまうと物の値段も上がって暮らしていけなくなるでしょ」

「うぐぐ、おい、勇者であろうと所詮子供だ!捕えてしまえ!」


 兵士達の半分くらいは流石に「勇者」に剣を向けるのが嫌だったのか、遠巻きにしているだけです。ですが、残りの半分は剣を抜き放つと襲い掛かってきました。


「仕方ないですね。『落雷』」


 弱めに制御した雷が抜き放った剣に落ち、兵士達は感電で麻痺しました。遠巻きにしていた兵士達はそれを見て逃げて行きましたが、まだ幾人かの兵士と領主が残っています。


「『ロックバインド』」


 土魔法の『ロックバインド』は、対象を石の中に閉じ込める魔法です。と言っても、呼吸はできるよう、首から下までしか石で固定しませんが。


「な、なんだこの魔法は!?」

「ロックバインドで固定しました。私が解除しない限り、ずっとこのままですよ」

「何を言っておるのだ!早く解除しないか!?」

「いや、せっかく閉じ込めたのに、何で解除しないといけないんですか」

「わ、わかった。こちらから手を出さない。なので解除してくれ」

「それは私だけですか?それともニンジョールノに対してもですか?」

「う、何故ニンジョールノなんかにこだわる!」

「それはこっちのセリフでしょう。ニンジョールノの令嬢に求婚したロリコン領主さん」


 周囲にまだ残っていた人達が、ひそひそ話を始めました。まぁ、自分とこの領主がロリコンなんてショックでしょう。でも、領主は本当はロリコンではなく、ニンジョールノの街が欲しかったんだと思いますよ。まぁ、言いませんけどね。


「で、どうするんですか、領主さん」

「王に訴えてやる!」

「そうですか、それならこのまま解除しないでおきましょう。まぁ、例えニンジョールノに攻めて行っても、こちら側にドラゴン倒せる人達が十人も居れば大丈夫でしょうし」

「ドラゴンスレイヤーなんてそんなにいるものか!」

「いや、私の村、大人ならほぼ全員ドラゴン倒してますよ」

「な、なんだと!?」


 一人では無理でも、チームでは倒せてるので、嘘ではないです。それにあの村、カリーネさんのご家族やゲネートの一族も移住して魔法使いも増えてきているらしいので、そんじょそこらの軍勢では相手にならなくなってきてるらしいです。昨日ちょっと帰ってみたところ、立派な城壁ができてました。私の村はどこに向かっているのでしょう。


「で、どうします?」

「わかった。ニンジョールノにも手はださん」

「そうですか。では、それを文書にしましょう。書記官は居ますよね。そこのあなた、解除しますから呼んできてください」

「おい!それはどういう事だ!」

「口約束で解除するわけないでしょう。文書に残さないとね。はい、あなた、戻ってこないと、30分後にあなたの髪の毛が爆発する魔法をかけました。とっとと行ってきてください」

「は、はいぃぃぃ」


 髪の毛が爆発するって言っても、単にアフロになるだけなんですがね。この世界にはパーマなんてないだろうし、アフロヘアは目立つだろうから、必死で連れてくるでしょう。



□■□■□■□■□■



 私は、いつものように領主様の書類整理をしておりました。書記官という肩書を頂いておりますが、やっていることは領主様の代わりに書類を整理して特に承認の必要なものだけを選別しておく作業ばかりです。

 言ってはなんですが、ここの領主様は人使いが荒い上に給与も高くはありません。いつか辞めたいのですが、その機会もなく今までずるずると来てしまっていました。


「書記官!書記官はいるか!?」


 おや、領主様付の兵士の方のようですね。何があったのでしょうか。


「どうされました?」

「兎に角来てくれ!俺の為にも!」


 何かすごく焦っています。とんでもない事が起こったのは確かなようです。しかし、呼ばれたからには行かざるをえません。取り急ぎ最低限の筆記用具を持って兵士について行きました。


 着いたところは中央広場。そこには10歳くらいの女の子と、石に首から下を閉じ込められた領主様達がいました。

 私が到着したのを確認した女の子が、自分は勇者であることをステータスプレートで示し、証書を書くように命じました。


「そ、それは本当に書いて良いのですか?」

「仕方あるまい。書かねば解除せぬという事であるし」

「勇者様、こんなやり方は無効になりかねませんが」

「文書もあるし、証人もそこらじゅうに居る。そもそも、同じ国内で他の街に手を出すなんて方がおかしいだろ」


 確かにそうです。道理は勇者様の方にあります。私は勇者様に言われるままに証書を作成すると、右手だけ解除された領主の拇印と勇者の拇印が押されました。これでこの証書は正式なものになってしまったため、簡単には無効を言えなくなってしまいました。


「書記官、同じような用紙をもう一枚くれないか」


 勇者様がおっしゃるので、何も書いていない用紙を手渡すと、彼女は『コピー』という不思議な魔法で全く同じ証書を作り上げました。こちらは写しとしてニンジョールノに保管しておくそうです。


「勇者様、私もニンジョールノに移らせて頂いても宜しいでしょうか」

「ああ、構わないんじゃないかな。人手は不足しているだろうし」


 今こそこんなところを辞めてしまうチャンスです。私は勇者様にお願いし、ニンジョールノに連れて行って頂くことに成功したのでした。



ここまで読んで頂きありがとうございます。

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