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第007話

 領主館の1階、一番広い会議室には一人の男性が居た。歳は40歳くらいだろうか。灰色の髪の毛を後ろに撫でつけて、藍色の目の下には隈ができている。感じとしては仕事に疲れ切った中間管理職のおじさんだが、この人がここの領主ウォルター・フォン・ニンジョールノ伯爵なのだそうだ。


「いやあ、こんな姿で申し訳ない。大まかな報告は聞いてるよ。どうもありがとう。満足してもらえるかは分からないが、できる限りのもてなしをさせて頂くよ」

「いえ、そこまでしてもらわなくても良いですよ。あっちに行きたくなかったついでですんで」

「そうなのか。だが、今日の晩御飯と泊まるところくらいはこちらで用意させてもらうよ」

「その程度でしたら。ありがたく頂きます」


 流石に何でも断ると、あまり印象とか良くないだろう。程々のところでこちらも譲歩しておこう。と、そんな事を考えていたら、私達が入ってきたドアから、女の子が一人入ってきた。


「これ、マーガレット、お客様の前ですよ」

「お父様、でも、これ」


 女の子がおずおずと領主さんに封筒を渡す。どうやらどこからか届けられたものらしい。しかも領主さん達にとってはあまり良くないもののようだ。


「うむ、これは後で読んでおこう。ああ、そうだ。リリン様、これは私の娘でマーガレットと言います。少々慌て者ではありますが、一応礼儀作法は勉強させておりますので、この館に居る間だけでもお世話させて頂きたい」

「リリン様、よろしくお願いします」

「…よ、よろしく」


 実は私、同じ年の子とはあまり話したことがない。村には子供が少なく、私の他には5歳の子が3人と、2歳の子が2人、私より上だと12歳の子が3人だけだ。ただ、今は開拓ラッシュで人口そのものが増えているので、子供の数も増えているらしいが。

 マーガレットちゃんは、父親と同じ灰色の髪が印象的な少女だ。目は深緑色で、少し垂れ目でおっとりとした感じを受ける。でも、そんな子が慌てるくらいなのだから、先程の封筒は余程のものなのだろう。


「マーガレット様、私の事はリリンで良いですよ」

「いえ、あんなに素晴らしい道を開いて頂いたのですから、様をつけるのは当然です。それよりも、私の方こそ呼び捨てで構いません。どうかマーガレットと呼び捨てでお願いします」

「うーん、じゃあ、私も呼び捨てはできないから、マーガレットちゃん、ではどうかな?私の事も呼び捨てがダメならちゃんでもさんでも良いよ」

「そうですか…では、リリンさん、よろしくお願いします」


 うう、ちょっと固いな。でも、貴族令嬢ならこんなものか。まぁ、今日はマーガレットちゃんと楽しく過ごすことにしましょう。



□■□■□■□■□■



 私の住むニンジョールノの街は、主要街道からは外れているので、やってくる商人の数は多くありません。それに、特に名産や名所になるものもないので、それ以外の旅行客も来ません。ですがリリン様が作ってくださった道があれば、話は別です。主要街道より日数が少なく王都へ行けて、しかも安全に通行する事ができる。先ずは商人が放ってはおかないでしょう。

 この街を通過するだけでも、ある程度のお金は落してくれるはずです。そのお金で街は潤い、新たな挑戦ができるようになります。そうすれば、名産品なんかもできて、更に商人さんや旅行客も増えるでしょう。私達領主一族は、そのことを第一に考えなくてはいけません。私はお父様に、お父様はお爺様に、そう教わってきたのです。


 ところで、ニンジョールノの南に、ムシリトールという街があります。そこの領主、ムシリトール子爵家はその昔街道を作る際に多額の献金を行い、殆ど決まりかけていたニンジョールノ側の街道計画を変えさせています。しかも、その後も献金を行うために税金等も高く、街の人達は苦しんでいるようです。まるで私達ニンジョールノ家とは真逆の事をしています。

 そこの現領主、カネゼンブ・フォン・ムシリトールから私の家ニンジョールノ家に一通の通知が届けられました。何でも、私を嫁にやるか、街の実権を寄越すかしろというものです。拒否をした場合、周辺都市を巻き込んで、商人が一人もこれなくするという脅しまでついています。


 この通知を後先も考えずに会議室のお父様のところへ持って行ったのですが、そこに居たリリン様は何か勘付いているようでした。私とお話しをしている最中にも、先程の通知に関して思うところをちょこちょこ言ってきてくれています。


「で、マーガレットちゃんはお嫁に行きたくないんでしょ。私に任せて」


 そう言って、お仲間の方々とお話合いを始めました。


「いや、それは…」

「それなら、こうすれば」

「いえいえ、こっちの方が」


 何か嫌な予感がします。ムシリトールの領主は嫌いですが、街の人達には罪はありません。なるべくなら穏便に済ませたいところです。


「うん、決まったよ。ちょっと行ってくるね」


 リリン様は私にそういうと、会議室を飛び出して行きました。お仲間の方々はをれを見送ると、私とお父様に安心するよう伝えてきました。なんでも、リリン様は勇者だそうで、魔王を倒すという大義名分のもと旅をしているのだそうです。そのリリン様が助けてくれるという事で、お父様は感激なさっていました。


 でも、リリン様はどこに行かれたのでしょう?



□■□■□■□■□■



 マーガレットちゃんからムシリトール領主の暴挙を聞いた私は、飛行魔法を使ってムシリトールの近くまで移動しました。この魔法はかなりの速度で飛ぶことができ、王都からムシリトールまでは三時間もあれば行けるのですが、私しか使えないので今まで封印していたのです。

 ですが、今回は違います。先ずはムシリトールと王都近くの村の間、山間部を通る街道に到着した私は、街道に誰もいないのを確認して落石を起こしました。それもかなり派手に。これで暫く街道は使えません。


「で、これを突き刺しておいて、と」


 そして、ニンジョールノから王都近くの村に新たな道ができていることを示す立て看板を設置しておきます。あまり目立ちたくはありませんが、勇者の称号を使わせてもらいましょう。


 次は反対側の街道ですね。そちらには4つの街や村がありますが、ニンジョールノにつながる道がある2つの街に行きましょう。えーっと、近いのは北東にあるアチーラの街ですね。ここの領主はどうやらムシリトールに色々と脅されていたようなので、話は簡単でしょう。


 飛行魔法でやってきましたアチーラの街。正門には勿論守衛さんがいます。


「すいません、私、勇者やってるリリンと言いますけど、領主さんに会わせてもらっても良いですか?」

「は、はい、領主館に確認してみますので、こちらでお待ちください」


 待機していた兵士さんが領主館に走って行きます。馬とかじゃないんだね。あ、街中で馬で疾走なんかしちゃったら危ないか。


 暫く守衛の待機所で待っていると、領主館から兵士が戻ってきました。すぐに会ってくれるそうです。その兵士について領主館へ走り、領主さんの元へ向かいました。


「勇者やってます、リリンです。この街の領主さんですか?」

「ああ、領主のオーニサン・フォン・アチーラだ。で、勇者が何用かね?」

「あ、今回は勇者としてというか、ニンジョールノの友達の為に来たんですけど。

 王都への商隊を、ムシリトール経由ではなくニンジョールノ経由にして頂く話をしに来ました」

「ニンジョールノから王都方面に道はなかったと思うが」

「あ、作りました。あと、ムシリトールと王都の間の街道は、現在落石で通れなくなってます」


 ニンジョールノからの道は安全で、しかもムシリトール経由より早い事、ニンジョールノはムシリトールに比べて入門税がかなり安い事を伝えると、領主さんはニンジョールノに商隊を回してくれることを約束してくれました。

 ついでに、早馬で隣のコチーラの街の領主にも知らせておくそうなので、ムシリトールに向かう商隊は激減するでしょう。


 これで、取りあえずニンジョールノは安心かな。ゲートで戻ることにしましょう。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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