第030話
すいません、遅くなってしまいました。
ルーベント公爵領は港町であるここナーガスを中心としていて、海産物と海水浴客による観光をおもな産業にしている。前当主は現国王の弟さんなので、アインとナリアは王太子の従兄弟になるんだね。
そして、今私達はその公爵のおうち、すなわち公爵邸の客室に居る。本当は宿を取りたかったのだが、ナリアちゃんがナナコちゃんを離してくれなかったし、アインも「このまま宿に泊まられては公爵家の名誉に関わるし、どうせゴーレム代金や謝礼も渡さなくてはいけない。ならばせめてそれまではこちらに居てはどうか」ということで、仕方なく泊まらせて頂くことになったのだ。
「リリン殿、入っても宜しいか?」
「あ、はい。良いですよ」
入ってきたのは護衛の人。この人、実はこの公爵家の騎士団の団長なんですって。だから強かったし、指揮も的確だったんだね。で、何でそんな人が私の部屋に来たかというと。
「え?稽古をつけてほしい?」
「はい。リリン殿、ナナコ殿の戦い方を是非とも勉強させて頂きたく。」
「ならナナコちゃんに「あ、それはもうしましたが、ナリア様に断られました」ソウデスカ」
また軍事訓練か。いや、今回は団長さんオンリーだし、軍全体の訓練ではないから違うか。
「今日は特に予定はないので、良いですよ」
「おおっ、ではこれからすぐに!訓練場へ案内させます」
あらら、ソッコーで走って行っちゃったよ。訓練所への案内は誰がやってくれるのだろうと思っていたら、女性兵士が慌ててやってきて、案内してくれた。ちゃんと指示はしてくれていたようだ。
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公爵家騎士団団長として、先日のオーク戦程大変だったことはない。まさしくアイン様、ナリア様の命の危機だったのだ。それを救ってくれたのはわずか十歳程の女の子二人と前衛とした旅人達だった。
オーク一体一体はそこまでの強さではないが、数が多すぎた。我々騎士団の面々も数の暴力の前に死にはしなかったものの、怪我を負うことが多くなっていった。
だが、その馬車が王家の馬車であることが判明すると、私達は彼女らに気取られないように監視を行うことにした。もしかすると王宮から強奪してくるような大罪人である可能性があったからだ。結果は杞憂であり、その馬車も正式に譲り受けたものであることが王都からの魔法通信で判明した。
王都で発生したクーデター鎮圧の立役者であり、ピース王国国王ともタメ口を叩く少女。そしてピース王国王女であるナナコ姫が、「私なんか足元にも及ばない」と慕う程の強さを持つと言う。その実力が是非知りたくなって最初はピース王国のナナコ姫に稽古を申し込んだが、何故かナナコ姫ではなくナリア様に却下されてしまった。その時ナナコ姫の目が死んだ魚のような目だったのは何故だろう?
そこで、もう一人のリリン殿に申し込んだところ、こちらは快諾してくれた。どちらかというとリリン殿の方が強いように感じられたので、願ったりだ。
あっ、訓練所に案内する案内役が必要だったな。丁度そこに女性騎士がいるから彼女に案内役を頼もう。
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訓練所に着いてみると、団長さんは既にスタンバっていた。気合入りすぎだ。軽く準備運動らしきものをしていたが、私が来たのを見ると、すぐにこちらにやってくる。
「ご迷惑をおかけして申し訳ないが、宜しく頼む」
「いえ、いいですよ」
訓練所の脇にある、訓練用の武器庫から刃引きされたショートソードを二本持ってくる。団長さんは大剣だ。どちらも皮鎧を着て、最低限身を守れるようにしている。
「それでは、始めっ!」
審判は副団長さんがやってくれることになった。こないだは見なかった人だが、団長が護衛につくときは副団長が留守を守るのだそうだ。逆もあるそうなので、いつも留守番というわけではないらしい。
っとと、そんな事を思っていたら、団長さんが大剣を振りかぶってきた。結構速い。私は素早く回避に移るが、団長さんはそれを見て振りかぶった大剣を斜めに振り下ろしてきた。そのまま水平に薙ぐつもりなのだろう。
私はぎりぎりのところでしゃがみこんで回避すると、そのまま姿勢を低くしたまま間合いを詰める。大剣よりショートソードの方が間合いは短いが、懐に入ったときに使いやすいのはショートソードの方だ。
「ぬんっ!」
今度は大剣の柄側で突いてきた。まともに食らうと骨折してしまうかもしれない。だけど、私はそれを右に回転しつつ右手のショートソードで受け流し、左手のショートソードを水平に薙ぐ。
団長さんはそのまま前へと駆け抜けて、左のショートソードを回避した。位置は私がほぼ中央、団長さんは駆け抜けた後距離をとって最初に居た位置とは全く逆の場所にいる。
その後も、一進一退で有効打を決めれないまま、一時間が過ぎた。流石に私も団長さんも息があがっている。
「もう終わりましょうか」
「そ、そうだな。大変有意義なひと時だったが、もう終わりとは残念だ」
息あがっているのにまだやる気だったんだ。こっちは魔法を封印しての戦いだったから、精神的に疲れたよ。でも、私も良い訓練になった。魔法は無効化されてしまう可能性があるので、物理的な攻撃力は高い方が良い。今まで魔法での攻撃が多かったから、腕がなまってないか心配だったよ。
「そう言えば、謝礼の話だがもう少し待ってもらえないか。勿論、その間はここに泊まってもらっても構わないと主より仰せつかっている」
「え、うーん、皆と話してみます。海で遊ぶの楽しみにしているので」
「ああ、そうだったな。浜辺で遊ぶというわけにはいかないが、この街中の散策くらいは騎士団から案内をつけよう」
「ありがとうございます」
港町だから、海産物が期待できそうだ。村には海が無かったので、この世界では初めての海になる。ものすごく楽しみだ。
そんなことを考えていると、騎士団の一人が慌てた様子で団長のもとへと駆けてきた。かなり切羽詰まった様子だ。
「団長!沖合にクラーケンが出ました!」
「何!」
「数は二匹!しかもどちらも大きさが災害級です!」
「災害級って?」
「あ、ああ。リリン殿、魔物はその大きさ、強さによって級が分かれているのですが、クラーケンの場合は全長が大型船を超える場合、災害級としています。
それ以下で中型船までの大きさのものは上級、小型船以上のものは中級で、それ以下は今まで発見されたことはありません。
そして、災害級の場合、街全体を壊滅できるだけの力を持っています」
結構やばかった。これは討伐をお手伝いすべきだね。
「私も討伐、行きましょうか」
「大丈夫ですか?海の上での戦闘となりますが」
「大丈夫です。私、飛行魔法使えますので」
「「飛行魔法!?」」
あら、飛行魔法はメジャーじゃなかったか。ちょっと失敗かな?
「そ、そうか。失われた魔法とまで言われていたが、使える者がいたのか」
え?失われた魔法ですって?私普通に使えてるけど。
「そんなに珍しい魔法なんですか?」
「ああ、ドラゴンが持っている魔法で、ドラゴンの肉を食らうと取得することができるかもしれないと言われている」
「きっとそのせいですね。私、ドラゴン狩ってましたから」
「まさかのドラゴンキラー!」
そんな称号あったんだ。でも、今はそれどころではないだろう。
「それより、早くクラーケン討伐に行かないと」
「そ、そうだな。では、リリン殿も討伐お願いする」
私は騎士団に混ざってクラーケンの討伐に出発した。あ、他の皆に行ってくるって伝えてもらうの忘れてた!
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