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第003話

 結局この日は、村の宿で宴会となってしまい、私達は主役にされてしまった。と言っても私はお酒飲めないので、皆の酒盛りをジュース飲みながら眺めているだけなのだが。


「リリン様、こちらの料理はこの村でも一番の猟師が仕留めてきたイノシシのステーキです。どうぞお食べ下さい」

「は、はぁ」


 正直お腹いっぱいなのだが、宴会がお開きにならないので部屋に戻るタイミングが掴めない。戻ろうとすると、もてなしが足りなかったのかと引き止められるからだ。

 くっそう。あいつら意外と酒に強いんだな。村人の中には酔いつぶれている人もいるというのに、平気な顔して酒飲みまくっている。


「ようっ、リリンちゃんも楽しんでるか?」


 脳筋が来た。こいつ完全に酔っぱらってるな。


「もうお腹いっぱいだよ」

「なんだぁ、たくさん食べないと、カリーネみたいな絶壁女になっ「なんですって?」いえ、何でもないです」


 クワイトの話の途中で、カリーネがすごい顔で睨んできた。うん、絶壁ではないよ。豊かでもない「リリンちゃん、何考えてるの?」イエ、ナンデモナイデス。


 兎に角、お腹いっぱいになった私は半分無理矢理部屋に戻ると、神様を呼び出した。


「神様ー、私の力ってそんなにすごいの?」

「ええ、言ったでしょ。勇者の称号がつくくらいだって」

「だって、私の村の人達も強いよ」

「あー、それはレッドドラゴン食べたせいよ。あなたの力は、本当は今の村人よりも少し強いくらいだったのに、レッドドラゴン狩りまくるから他の人では追いつけないくらいの強さになっているの」

「むぅ、こんなに力いらないよ。レッドドラゴンは美味しいから、また狩るけど」

「でもしょうがないわよ。前世もかなり強かったんでしょ」

「そりゃそうだけどー」


 そう、私は前世では総合格闘技をマスターし、SPとして色々な襲撃を撃退してきたのだ。護衛対象も結構無茶やらかす人だったので、味方は多かったが敵も多かったみたいだからね。

 その護衛がひと段落し、久しぶりの休暇で帰省している途中に事故で死んじゃったんだよねぇ。歩道を歩いてたら、アクセルとブレーキ踏み間違えた車が突っ込んでくるなんて思わないもの。

 その際、思わず車を受け止める形になったおかげで私の後ろにいた人達が助かったそうで、転生させてくれる事になったのは良かったのかどうなのか。


「ところで、勇者の装備なんてあるの?」

「うーん、あるけど、ただ頑丈なだけの装備よ。特別な力があるわけじゃないわ」

「なら、態々探す必要は無いわね」


 元々勇者やるつもりもないのだ。村も大丈夫だろうし、ぶらり旅でもして時間を潰そう。

 私は神様との会話を終えると、魔法で体や服を綺麗にしてからベッドに潜り込んだ。睡眠はちゃんととらないとね!



□■□■□■□■□■



 どうやらリリンちゃんは寝たようだ。私はクワイトとカリーネを呼び寄せると、今後について話し合う事にした。


「勇者の装備を探すんじゃないのか?」

「あら、真面目に探すの?リリンちゃんはやる気ないみたいだけど」

「そうなんだ。勇者にやる気が全く無い。どうも、魔王が危険な人物ではないと分かっているようだ」


 リリンちゃんは、村からあまり出たことがない(ドラゴン狩りを除く)らしく、王都での色々な常識が欠落していた。だが、そんなリリンちゃんも魔王については簡単に知っているようで、倒す相手では無いと思っているようだ。

 実際、魔王を倒しても、国を併呑できるとは思えない。そんな事は王以外の者は全員が理解している。だが、あんなのでも王だ。王権は絶対なので、誰も逆らえない。あぁ、どこかに逃げ出したいくらいだ。


「俺は家族がいないから身軽だが、お前達は家族はどうすんだ?」


 他の2人も同じことを考えていたようだが、クワイトの発言は意外だった。確かに自分だけならこのまま旅先で行方をくらませればよいだろうが、私とカリーネには親や兄弟が居る。私達が行方をくらませたら、きっと捕えて牢獄か、最悪処刑されてしまうかもしれない。


「そうだな、そっちも考えなければいけないか」

「ねぇ、身内の動ける奴らからリリンちゃんの村に移住してもらうのはどう?」


 ふむ、リリンちゃんの村か。確かに王都からも魔王の国からも離れているし、開拓も進んで暮らしやすいところらしい。一考に値するが、伝手がない。


「しばらくここに逗留して、王都の家族やリリンちゃんの村と連絡をとろうと思う」

「そうね、それしかないわね」

「まぁ、この先にあてがあるわけでもないし、いいんじゃないか」


 とりあえずの方針は決まった。家族の説得もあるだろうが、何とか移住に納得してもらいたい。それに、リリンちゃんの村が移住を許可してくれるかも不明だ。明日、リリンちゃんに村の現状と移住の可否を聞いてみないといけないな。



□■□■□■□■□■



 朝、メンバーから、家族をリリンの住んでた村で住まわせてもらえないか相談された。でも、私は村長でも何でもないから、自分では決めることができない。


「なので、村に連絡とってもらえないか?」

「うーん、直接行った方が早いのですよ」


 私は空間魔法『ゲート』を起動した。『ゲート』は所謂どこ○もドアだ。ただし、一回行ったところでないと上手くイメージできないので、本当にどこでも行けるわけではない。


「このドアの先は私の居た村だから、村長にお願いすれば良いよ。王都も私の泊まっていた宿の近くだったら『ゲート』で移動できるよ」

「そ、そうか、ありがとう」


 私がドアを開けて通ると、皆もこわごわ通ってきた。そんなに怖がらなくても良いのに。


「おぅ、リリン帰ってきたのか」

「あ、村長おはようございます」


 私が皆がゲートを通ったのを確認して閉じたところに、毎朝の散歩をしていた村長が現れた。村長は、村のはずれで泣いていた赤ん坊の私を育ててくれた恩人だ。元々レッドドラゴンを狩り始めたのも、村への被害が出てきて村長が困っていたからだったな。


「そうそう、この人達の家族、移住してきてもいいかな?」

「おぅ、問題ないぞ。今この村は絶賛発展中だからな」


 レッドドラゴンの肉を食べてから、この村はすごく発展してきている。レッドドラゴンの肉以外にも牙や爪、鱗は武器や防具になるし、錬金術の素材にもなる。そのせいか、王都や他の街から移住してきている研究者や鍛冶屋等が増えているのだそうだ。

 そして、そうした加工品を流通させるために商人もやってくる。冒険者ギルドの支部はまだないので冒険者はいないが、いても役立たずだろう。なんせそこら辺の農夫だって竹槍で亜竜であるワイバーンを落とせるくらいなんだから。


「それじゃ、まず誰のご家族から呼びます?」

「そ、そうだな、カリーネ、お前のところからはどうだ?」

「そうね、そうさせてもらうわ」


 カリーネさんの家は私が王都に行ったときに泊まった宿からそんなに離れていない場所だった。なら、ゲートを宿の近くにすれば良いだろう。


「ほいっと。それじゃ皆行くよ」

「お、おう」


 私達は、今度は王都に移動した。カリーネさんの案内で家に向かうが、周囲に兵士が監視しているのが気配探知でわかる。このまま向かうとちょっとまずいことになりそうだ。


「んー、やっぱり監視されてるね。今は止めておきましょう」

「そ、そうなのか。では、何か良い手でもあるのか?」

「魔法創造で透明化の魔法を作ります。これだと見られても大丈夫ですよ」

「じゃあ今からでも」

「いや、これから作るんですから。ちょっと時間かかりますよ」


 一旦昨日の村に戻って、そこの宿に泊まろう。もう日常に戻っているはずだ。私はこちらでゲートを開くために周囲の目につかない路地を探し、昨日の村の近くにゲートで移動した。


「おぉ、リリン様方、どうなされました?」

「あ、えと、ちょっと見回りに行ってました!ほら、また別の盗賊や魔物が出たら困るでしょうから」


 うん、上手く言い訳できたね。勿論、気配探知、魔力探知で盗賊や魔物がいないのは確認済みだ。仲間達は私に丸投げだ。私が一番年下なのに、何でこうなるの。

 とりあえず、そのまま宿へ向かい、部屋で『透明化』の魔法を創造する。イメージとしては光をうまく屈折させて見えないようにするというものだ。ついでに気配探知、魔力探知対策で自分の周りを隠蔽させてしまえるようにしよう。これで完璧だ。


「できたよー。もうお昼だから、お昼食べたらまた行こうか」

「そうだな。だが、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。ほら」


 透明化の魔法を自分にかけてみる。仲間達には、私がいきなり消えたように見えるだろう。


「消えた!」

「魔力探知でもわからないわ」

「気配探知もだ」


 うん、成功だね。それじゃ、一旦透明化を解いてご飯にしよう。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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