第027話
遅くなってすいません。
「うーん、やっぱり王宮ではなくて森の方だったみたいだね。あっちはカっちゃんに任せておいて、こっちは一休みしようか。あ、議員連中はどうしてるの?」
「ちょっと心配だね。様子を見に行った方が良いと思う」
王太子の心配は彼等の安全とかではなく、おかしな行動をとらないかという意味だ。勿論リリンもその意味は正しく理解したので、急ぎ議事堂へ向かう。
王太子の心配は、まさに現実のものになろうとしていた。クーデターの裏で動いていた公爵が、議員達を恫喝して王位を簒奪しようとしていたのだ。
「わしが王位に就けば、クーデター軍にお主等の助命くらいはしてやる。場合によっては財産も残してやっても良いぞ」
既にクーデターは失敗しているのだが、議事堂に篭っていた議員達はそれを知らない。リリン達が飛び込んできたのはその採決がとられようとした時だった。
「公爵、貴方は何をしているのだ!クーデターは既に失敗し、既に首謀した将軍には追っ手も手配されている。議員達を恫喝して国政を私物化しようとは、王太子として許せません!」
王太子が吼えた。先程迄の情けない感じは微塵もない。一国の王を継ぐ者としての崇高な理念が、王太子を一つ成長させた様だ。これにはリリンも吃驚である。
「ふん、ろくな権力もないお飾りの王太子が。クーデターは失敗しても、まだ策はある」
「それはベタルリア王国の裏部隊の事かな?」
あ、超動揺している。ゲネートの言ってた事は本当だったようだ。
「で、地位でこの国を売ったのかな?どうなのかな?」
「ええい、煩い!証拠でもあるのか!?」
「あるぞ。これはベタルリアの密書だろう?」
おや、そのゲネート達がやってきた。手にはいくつかの手紙が握られている。どうやら駐屯地から公爵邸に行って、魔法で落としたようだ。しっかし、何でこんな証拠を残しておくかねぇ。
「くっ!こうなったら!」
公爵が懐から何やら丸いものを取り出し、床に叩き付ける。一瞬爆弾かと思ったが爆発はしなかった。叩き付けられたその物体は、殻のようなものが割れてしまった。
「っ!やばい!王太子、この部屋から逃げて!」
「あ、あれは何なのだ…」
王太子も議員連中も、足がすくんで逃げ出せないようだ。割れたものの中から出てきたのはあっという間に公爵を捕まえると、その全てを「吸収」してしまった。ベタルリアってこんなのを作っていたの?
「ス、スライム…」
そう、スライムだったのだが、レベルが百くらいある。それが丸いだけならまだしも、触手のようなものを出してうねうねしている。正直気持ち悪い。ちょっと鑑定してみよう。
名 前:なし
種 族:スライム
性 別:女
年 齢:5
レベル:97
称 号:なし
体 力:87233
魔 力:93228
知 力:45
攻撃力:8787
防御力:6632
敏捷度:4300
武 器:なし
防 具:なし
スキル:
物理耐性Lv.10、魔法耐性Lv.10、魔力制御Lv4、触手Lv.5、吸収Lv.4、剣術Lv.1
レベルやステータスは私よりもかなり低いが、問題はスキルだ。「物理耐性」、「魔法耐性」がどちらもLv.10ということは、殴っても魔法でもダメージを通せない。そして最大の問題が「吸収」だ。このスキルは取り込んだものだけではなく、魔法やスキルなども吸収してしまう。しかも、吸収した魔法やスキルを自分のものにできるのだ。スキルの最後にある「剣術Lv.1」がさっき吸収したスキルなのだろう。スライムって基本剣なんて使えないしね。
「吸収がLv.4なのが救いか…。あとはあの殻を分析しないといけないね」
どうやら、吸収のレベルが低いので、何でもとはいかないみたい。魔法で閉じ込めてみたらどうかな?
「氷魔法」
とりあえず凍らせてみる。うん、凍ってるね。でも、これでもHPは減らないみたい。魔法耐性のせいで、中まで凍らないからだ。うーん、なら、これはどうかな。
「空間魔法」
スライムの端の方を空間魔法で別空間に移す。しかし、やはり耐性のせいでダメージは無いみたいだ。
「あ、やば」
バッキーンという音と共に、スライムを凍らしていた氷が割れ飛ぶ。なんかうねうねしている。触手か。絶対に捕まりたくないね。とりあえず、もう一度氷魔法で凍らせたが、一部の触手が動きが激しく、凍らせるのに苦労した。
「うーん、どうにかしたいけど…ってそうだ!こんなの元のところに返せば良いんだ!」
私はスライム氷漬けと共に、ベタルリア王国の王城に転移した。前に謁見で来たから行けるんだったよね。
「な、何事だ!」
早速兵士がやってくるが、私を見られるわけにはいかない。スライムを置いてすぐさま転移した。これで問題解決っと。
「リ、リリン様、あのスライムは…」
「ベタルリア王城に放ってきた。とりあえずは大丈夫だよ」
王太子は心底ほっとした様子で、議事堂を見回した。議員達はばつの悪そうな顔をしているが、そのうちの何人かはこちらを睨みつけている。
「王太子、王族として今回のクーデターの責任、どうとるおつもりか!」
ほら、見当違いの攻撃だ。王太子も苦笑いしている。
「責任か。そうだな、先ずは議会の解散と再選挙。そして軍への聞き取り調査だな」
「な、王族としての責任を果たさず、我ら議員に責任を取らせようというのか!」
「だからとっているであろう。こんな議員連中ばかりの議会にしてしまったのは王族の責だ。だから解散する。その上で再選挙を行うのだが、その際は今までの実績を公表するのが国民によく分かってもらって良いだろう。自分は問題が無いと言うのであれば、再当選できるのではないか?」
あの親にしてこの子ありだな。議会がまるで機能していないのには、かなり腹に据えかねていたようだ。そして、この方法なら今ここにいる議員連中の殆どは落選する。
愕然とする議員連中と、冷たい微笑みで見回す王太子。それまでお飾りにされてきた王族の逆襲だ。議会をなくすわけではないが、言うべき時は言う。王族の立ち位置を明確にした今回のやり取りは、今後歴史に残るだろう。私の名は残してほしくはないが。
「おーい、将軍達捕まえてきたぞー」
おっと、カっちゃんがぼっこぼこにしたおっさん達を引きずってきた。あれが今回のクーデター実行犯なのか。あれが将軍だなんて、なんの冗談かと言いたくなるくらいボコボコにされている。顔なんて無事なのは耳くらい?目は晴れ、鼻は曲がり、口は半開きで歯まで欠けている。いらん事をした報いだ。
「ところで、お手紙はどうしよう?」
「ああ、それはもう不要だね。王様から、向こうの世界の知識で議会を立て直せないか相談されていたんだ」
そっか、なら確かにもう不要だ。王太子の宣言通りに行けば、この国の議会は生まれ変われるだろう。それこそ君主制民主主義の誕生だ。
「今回は、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。これと言った褒美とかは父に聞かねばいけませんが、必ずお送りさせて頂きます」
「このクーデターは放っておくと我が国にも悪影響だったからね。王も着いたようだ。褒美とかはいらないから、ゆっくり話すとしようか」
「はい」
王太子とカっちゃんの会話を聞き流しつつ、今後の予定を考える。もうこの王都でやることはないはずだ。元々お手紙渡すだけのはずだったのに、何故かクーデター騒ぎなんかに巻き込まれてしまった。
「さて、ひと眠りしてから海だね」
「いやいや、後始末が残ってるでしょうが」
「それもやるの!?」
まだまだ海は遠いようだ。
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