第022話
「ここまで静かだと、ちょっと不気味だね」
「そうですね。しかし、街中には家の中だけど人が居るのに、関所内には人がいないのは疑問です」
「最低でも留守を任される部隊がいるはずなんだけどね」
「ええ、これはアルファーノ王国側で何事か起こったとしか考えられません」
全ての兵がこの関所から姿を消していた。宿舎は外から探査魔法で調べてみたが、だれも居なかった。そこで入ってすぐの訓練所に行ってみたが、訓練用の装備はそのままだったが、武器庫は空だった。トルテさんが、ちょっと厳しい顔をしている。
「武器庫が空という事は、軍が動いているという事です」
一体いつから動いているのだろう。それを知るには食堂、それも食糧庫を見てみるのが一番良い。私達は、食堂へ向かった。
「食料がない。という事は、やはり軍がどこかに出陣しているみたいだね」
「そのようです。ですが、留守部隊も残せない程の事態というのは普通考えられません」
食堂の厨房も覗いてみたが竈の火は完全に落ちていて、出陣は今日や昨日ではないように思われた。
私達はそのまま、更なる手がかりを入手するために関所の指揮所に向かう。途中の当直室も当然空で、最近まで人が住んでいたとは思えない状態だ。まるで廃墟のような関所内部を静かに走り指揮所に到着したが、こちらもだれもいないようだ。
「少しお待ち下さい。流石に鍵がかかっているようです」
トルテさんがそう言いつつ、細い針金を取り出す。ピッキングの道具みたいだが、それからも魔力が感じられる。
「これはどんな鍵でも開けられる道具でしてね」
私の視線に気付いたのだろう。そう説明をすると、鍵穴に針金を突っ込み、くるりと回すと、カチリと鍵が開いた。
「では入りましょうか」
「ええ」
私達はそろりとドアを開け、指揮所に入り込んだ。探査魔法でもわかっていた通り、この部屋も誰もいないが、机の上に大きな地図があり何か所か書き込みがされている。どうやらここで何か作戦を立てて移動したらしい。私達はそれを覗き込んだ。
「これは、ちょっと大変な事になっているみたいだね」
「そうですね。これは至急魔王様にお知らせしないといけません」
「ゲート開くから、先に報告お願いします。私は仲間とそちらに向かいますので」
「了解致しました」
ここに書かれていることが本当なら大変な事が起きている。しかも、この国だけじゃなく周辺の国に悪い影響が出てしまうだろう。私は大急ぎでゲートを開き、トルテさんをカっちゃんの下へ向かわせると、再度ゲートを開きなおし、仲間たちの前に移動した。
既に彼らは撤収の準備を終え、いつでも移動ができるようにしていた。こう言った事態の場合、どうすべきかを知っているのだろう。
「どうだった!?」
「大変だよ。この国、クーデターが起きようとしてる」
いつも戦争で後手後手にまわってしまう事に、軍部がとうとう爆発してしまったようだ。しかも、クーデターで政権を取った後は、周辺国家に宣戦布告をすう予定になっているというおまけまでついている。
「こりゃやべぇな。ピース王国の軍はまだ二流以下だ。この国が攻めてきたらあっという間に負けて併合されてしまうぞ」
私達が鍛えたとはいえ、軍としての実力は二流以下だ。アルファーノ王国の軍と渡り合うには、早くても五年以上はかかるだろう。
「しかも、どうやら裏でそう仕向けようとしている奴等がいるみたい」
私は指揮所にあった一通の手紙を差し出した。内容はこの国の政治家は戦争になっても直接戦わないから危機感がなく軍に対しても一段下に見ている。だから軍が政権を取り、強固な国を作るべきだというものだった。因みに差出人は聞いたことのない名前だ。
「この差出人、もしかするとベタルリア王国の裏部隊が噛んでいるかもしれん」
ゲネートが意外な事を言いだした。何でも、ベタルリア王国には王直属の裏部隊というのが居て、国の内外の諜報や暗殺、そして諸外国への工作を行っているそうだ。この差出人はその裏部隊の人間が使うダミーの名前で、国もベタルリアではなくアルファーノ王国の人間となっていたはずだという事だった。
「以前、裏部隊の情報を覗き見る機会があってな。そこに記載されていた名前だ」
ゲネートは一体どこでそんなものを覗き見したのだろう。興味はあったが、今はそんな事を聞いている時間はない。
「それじゃ、もう一度カっちゃんのところへ戻って今後の打ち合わせをしよう。これは時間との戦いだよ」
「「「了解!」」」
私はゲートを開き、カっちゃんのところへとんぼ返りした。今日だけで何回ゲートを開いただろうか。流石に魔力も減ってきたよ。カっちゃんのところで少し休憩させてもらおう。
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「陛下!大変でございます!」
「何事だ。こんな夜更けに」
侍従長が慌てて余の寝室へ飛び込んできた。いつもの落ち着き払った姿からは想像できない程の慌てようだ。
「ク、クーデターでございます。近衛師団以外の軍部が一斉蜂起した模様です!」
「なんと、それは真か!?」
余は説明しながらも着替えを手伝ってくれる侍従長と共に、窓へと向かう。ここからだと王都が一望できるが、今は夜だ。本来なら漆黒の闇が広がるはずの王都のあちこちで火の手が上がっている。
「何と言う事だ…」
どうやら王都に駐留している部隊が門を開けようとしたところを近衛師団が阻止しようとしているようだが、元々門の警備は軍の管轄だったために上手くいかない。近衛師団は徐々に戦線を後退している。
「議員の方々が議事堂に集まって来ております」
「分かった、余も向かおう。それと、家族の脱出の準備を頼む」
「畏まりました」
幾分落ち着いてきた侍従長に指示を出し、余は議事堂に向かう。実権は無いとは言え、余は王だ。今後の対策を議員達と考えねばならぬ。だが、家族は別だ。一刻も早く安全な場所へ避難してもらいたい。
余が議事堂に着いたとき、議員共は殆ど喧嘩腰で会議を行っているように見えた。真剣に今後の対策を検討しているのかと感心したのだが、よく聞いてみると責任の擦り付け合い、自分達が助かる方策ばかりだった。
「これが今の議員の質と言うものなのか。クーデターが起きるのも仕方ないのかも知れぬ」
余が呟くと、それを聞きとがめた議員が詰め寄ってくる。
「陛下!我ら議員を馬鹿にしておいでですか!このような事態を引き起こしたのは、陛下、あなたの責任でもあるのですぞ!」
「余にも責任があるのは分かっておる。だが、お主等に責任が無いわけではなかろう。そのところはどうなのじゃ」
議員は返答に窮し、口ごもりながらもこちらを睨んできた。あぁ、このような者が議員で居ることが間違いなのだな。この事件が無事に終わったら議会を解散して新たな人材と入れ替え、余は退位して息子に王位を継がせよう。無事に終わらなかったらここに居る全員の命がなくなるだけだ。
「こ、こんなところに籠っていてもジリ貧なだけだ!俺は投降するぞ!」
一人の議員がそう叫ぶと、議事堂を出て行った。他の議員のうち、彼に近い数名も一緒に出て行く。彼らは投降することで身を守ろうとしているのだろうが、多分上手くいかないだろう。
議事堂に向かう途中、侍従長から受け取ったクーデターの声明文は、明らかに議会を潰す事を目的としておる。当然ながら議員達は全員標的だ。そんな状況でホイホイ投降しても許されるはずがない。良くて私財没収、最悪はそのまま死刑だ。
「どれ、確かにここに居ても仕方ない。余は近衛師団長に会いに行こうかの」
友である近衛師団長は、今必死に戦線を維持しようと駆けずり回っている。今生の別れとなる前に会いたいものだ。
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