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第021話

 ピース国王都を出て五日、漸くアルファーノ王国との国境が見えてきた。そこの関所を抜けるとアルファーノ王国の国境街、トッシューに到着する。


「さぁて、列に並ぶか。それにしても随分多いな、この時期こんなに人多かったか?」


 御者台のクワイトが首を傾げています。確かに関所までまだ距離はあるのに、列の最後尾はここまできていました。


「ちょっと前の人に聞いてみる」


 私は馬車から飛び降りると、前に並んでいる商人らしき人のところへ向かいます。商人さんは椅子を出して寛いでいる風です。関所、通るのに時間がかかるのかな?


「こんにちは。随分並んでいるみたいですけど、ここはいつもこんな感じなんですか?」

「あぁ、こんにちは。いや、こんなに並ぶのは初めてだね。私は二時間ほど前に着いたんだが、全然動かないんだよ」

「そうなんですね。ありがとうございます」

「いえいえ、どういたしまして」


 もっと前の方まで行ってみましょう。でも、人の目があるので全力疾走や飛ぶのはやめて普通に走って行ってみました。


「関所、閉まってる」


 馬車まで戻った私は皆にそう報告しました。関所の門は閉められ、衛兵も居ません。ピース王国とアルファーノ王国の間では一番大きい関所なのに、何故閉められているのか最前列の人にも分からないようでした。


「これは困ったな。別の関所に向かうにしても、二週間くらいかかるぞ」

「門には何か張り紙とかされていなかったの?」

「何もなかったよ」


 そう、張り紙も立て札もなかったのだ。これでは原因がさっぱり分からない。夜になったらちょっと調べてみよう。


 結局、その日は門が開くこともないまま日が暮れてしまった。並んでいた人達は、各々野営の準備をし始めている。私達も野営の準備を始めたのだが、ここで重要な事に気が付いた。


「あ、食料があと数日分しかない」


 そう、まさかこんな状況になるとは思っていなかったため、あまり余裕は持たずに来たのだ。他に並んでいる人の中には商人も居るのでそういう人達から買っても良いのだが、この状況ではかなり足元を見られるのは間違いない。


「仕方ない、夜になったらゲートで村から食料を仕入れてきましょう。あ、この状況、カっちゃんにも伝えた方が良いかな」

「そうね、その方が良いと思うわ。あ、でもゲートで食料仕入れできるんなら、今日でなくても良いわよ」

「あ、そうだね。野菜とか新鮮な方が良いもんね」


 取りあえず今後の予定を立てます。と言ってもゲートは私しか使えませんので、皆にはここで普通に野営をしているように見せかけてもらって、私だけが移動することになるんですけどね。


「じゃあ、行ってきます。カっちゃんどこかなぁ」

「「「いってらっしゃい」」」


 私はゲートで魔王城の近くに転移すると、門番さんに緊急事態であることを告げた。門番さんは急いで城の中に駆け込み、暫くするとセバスさんを連れて戻ってきた。


「リリン様、緊急事態とはどういった事でございましょう」

「うん、アルファーノ王国の関所がどうやらちょっと前から閉まっているみたいなの」

「それは確かに緊急事態ですな。では、魔王様の下へ案内致しましょう」

「はい、宜しくお願いします」


 またセバスさんに案内され、カっちゃんの下へと向かう。状況は門番さんにも伝えたから、既に聞いているかもしれない。


「陛下、リリン様をお連れしました」

「入れ」


 私はカっちゃんの居る執務室に入る。

 まず目に飛び込んできたのは書類の山だった。そして疲れ切った顔のカっちゃんとトーヤさん。ってトーヤさん騎士団の副団長でしょう。なんでこんなところで書類仕事してるの?


「何故って顔してますね。私も同じ気持ちですよ」


 トーヤさんが私を見てつぶやく。ホント、疲れ切ってるね。で、カっちゃんはというと、やはり同じようにヘロヘロになりながら書類にハンコを押してる。


「カっちゃん、関所閉まってた」

「はぁ!?本当?」

「嘘言ってどうするの。本当だよ。それも今日だけじゃなくて数日前からみたい」

「そうなのか。うーん、調査とかできる部隊はまだ仕上がってないんだよなぁ」

「一応この後私の方でも調べてみるけど、あまり期待しないでね」

「勝手にぶち壊すわけにもいかないからね。そこは常識の範囲で頼むよ」


 まるで私に常識がないかのような口調だ。こんなにも常識的なのに。


「あぁ、あいつがいたな。セバス、トルテを呼んできてくれ」

「畏まりました。少々お待ちください」


 セバスさんが一礼をして部屋を出て行く。私は聞いたことのない名前に、頭を傾げた。


「元盗賊なんだよ。帰順してきたし、悪いやつでもなかったが、あまり戦闘には慣れてなくてね。なので普通に斥候兵として訓練させていたんだ」

「ふぅん、そんな人いたんだ。で、その人と協力して調査をすれば良いの?」

「そういう事。ま、あいつも盗賊してた頃から忍び込んで調査をするのは得意だったそうだから、見極めもしてもらえると助かる」

「わかった」


 そっか、諜報部隊の中核になりそうな人なんだね。この際、実務も経験させようという事なんだろう。


「お連れしました」

「トルテ、入ります」


 入ってきたのは、二十歳くらいの小太りの男性だった。顔は特徴的なところはなく、ごく平凡な顔だ。諜報部隊の場合、あまり特徴が無い方が都合がいい。


「トルテ、いきなりで悪いがアルファーノ王国の関所まで行って欲しい」

「畏まりました。ですが、かなり日がかかるかと」

「そこは心配しなくて良いよ。私のゲートで移動できるから」

「勇者リリン様ですか。初めまして、トルテと申します。ゲートがあるなら大丈夫ですね」


 その後、私達は軽く打ち合わせを行い、またゲートで関所前まで戻ってきた。


「ただいまー」

「あぁ、魔王様はどうだって?」

「魔王様も知らなかったみたい。なので、この人と一緒に調べて欲しいって」

「初めまして、トルテと申します」

「トルテ…。あのトルテか」


 クワイトは知っていたようだ。聞いてみると、かなり有名な盗賊団に居たらしい。その盗賊団は悪徳領主ばかりを狙い、人殺しはしない事を信条としていたそうだ。ただ、流石に王城には入り込めなくて失敗し、それからは話を聞かなくなっていたという。


「はい、そのトルテで間違いございません。盗賊団は既に解散し、今ではピース王国に所属しております」


 有名な人だったみたいだね。領主の館なんてかなり警備が厳しいところなのに、よく潜り込めたものだ。

 そして今回の手はずだけど、まずは私が飛行魔法で関所の向こう側に移動し、ゲートを開く。トルテさんにゲートを通ってから関所に忍び込んでもらい、その間私は街中を探索するというものだった。


「じゃあ、行ってくるね」


 私は飛行魔法で、関所を越える。夜なので、飛び越えるのは簡単だ。


「あれ?街の中も静かだね」


 空から見たトッシューの街は、灯りが全く無くてだれもいないように見える。探査魔法も展開してみたら、人は一応居るようだけど、皆家の中で静かにしているようだ。

 私は街中の関所にほど近い路地の片隅に降りると、ゲートを開いてトルテさんを呼ぶ。トルテさんもこの状況には驚いたようだ。


「これじゃ、街中の探索なんて無理だね」

「そうですね。ですから、リリン様は一旦戻って下さい。私はこのまま関所に行ってみますので、明日のこの時間に再度こちらに来て頂けないでしょうか」

「うーん、私も一緒に行動するよ。その方が楽だと思うから」


 こうして、私とトルテさんは関所の裏口から忍び込んでいくのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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