第002話
私達が王都を出て三日、漸く次の村にたどり着いた。この村に着くまでは気配探知で見つけた魔物を狩って食べようと思ったんだけど、他のメンバーにはまだ魔物の存在がわからないので、仕方なく保存食の干し肉とわずかなスープで腹を満たすしかなかった。でも、村に着いたら普通の御飯が食べられるだろう。
「何か美味しいものはあるかなー?」
「ただの村ですよ。あるわけないでしょう」
そんな私のテンションをゲネートが下げてくる。こいつは私に恨みでもあるのだろうか。あるんだろうなー。だって本当ならお城で魔法の研究とかやりたかっただろうけど、こんなところにいるんだもんなー。
「干し肉で無ければ良いよ」
私はそう反論すると、ゲネートの返事も待たず、中心部へと向かって行った。
さて、この村、ざっと回ってみたところ、王都の近くなのに活気がない。厄介事の予感がビンビンする。
「うーん、ここは早めに出ようか」
「それは何で?」
「何か嫌な予感がする」
脳筋は何も考えてないんだろう。厄介事の予感くらいしないのかね。そう思いつつ、取りあえず宿でもとろうかとしたところで、叫び声があがった。
「盗賊だ!また盗賊団が出たぞ!」
「逃げろ!今度は村の中まで来られるぞ!」
そう言えば村の入口、ボロボロだったね。周囲の柵も結構壊れていた。盗賊だったのか。そして厄介事はこれか。
「どうする?リリンちゃんよ」
クワイトはどこか嬉しそうだ。こいつ本当に脳筋だな。でも、せっかく勇者なんて称号あるんだし、ここらへんでしばらくゆっくりもしたかったから、盗賊は殲滅だね。
「根切りで」
「いや、皆殺しはあんまりだろ」
脳筋からダメ出しされた。仕方ない、全員半殺しにしよう。そう決まると、気配探知の出番だ。私がちょっと気配探知を行うと、村の入口方面に約30、反対側に約30の敵性反応がある。クワイトには村の反対側に行ってもらって、私はメインの入口側に行くことにした。
「盗賊さんたち、死にたくなければ降伏しなさい!」
村の入口に仁王立ちして、やってきた盗賊に通告する。だが、10歳の女の子の言葉だ。奴らは誰一人本気にしない。ニヤニヤといやらしい笑い顔が気持ち悪い。
「おい、このガキも中々べっぴんじゃねえか。こりゃ拾い物だな」
「もう、仕方ないですね。『土壁』」
盗賊達の周りに土壁を作り上げる。この土は盗賊達の足元の土から作っているので、彼らはどんどん低く、そして壁は高くなっていく。
「な、なに!魔法使いだと!?」
一対多の戦いで近接戦なんかやっても疲れるだけだ。ついでに土壁の上をすぼませて、奴らが出てこれないようにしとこう。
「そんで、水を膝くらいまで出してそのままにしておこっと」
これで奴等は寝ることができなくなる。座ることはできるだろうが、かなり冷たい水を出したし、こっそり氷も追加しといたから体温が奪われていくだけだろう。明日まで何人が元気でいるかな。あ、そのままじゃ酸素がなくなって窒息しちゃうな。細かい空気穴くらいはつけておかなくっちゃね。
私は土壁に直径1ミリくらいの空気穴を水面から10センチくらいのところに100個ほど開け、村の反対側へ走っていった。あいつらまだ戦ってんの?何ちんたらやってんだろ?
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俺はクワイト。騎士団で副団長をしていた。だが、貴族の息子連中を優遇せず他の一般兵と同じように訓練させていたため、貴族達からは嫌われていた。
今回勇者について行けってのは、体の良い厄介払いだろう。だが、こっちの方が俺の性に合っているようだ。
「ゲネート、右だ!」
「ファイア!」
「おらぁ!」
ゲネートがファイアで右側を牽制している間に俺は愛剣を振り回し、盗賊達を気絶させていく。本当は殺した方が手っ取り早いのだが、生かしておいた方が犯罪奴隷としての金が入って儲かるのだ。だからリリンちゃんには殺さないよう言っておいたんだが、大丈夫かね?
「クワイト、ぼさっとするな!」
「わーってるよ!」
ゲネートが俺の後ろに回り込もうとした盗賊に風魔法で足に怪我を負わせる。足をやられたら動きがかなり鈍る。そいつをぶん殴って気絶させ、今度は右側へと向かった。ところが、そちらは既に手足をありえない方向に曲げられた盗賊達が転がっていて、そこには木の棒を持ったリリンちゃんが、最後の一人と対峙していた。
「な、なんだ、その棒は!」
「これ?ただの木の棒だよ」
リリンちゃんが軽く振るが、その風切り音はとても普通の木の棒とは思えない音だった。普通の木の棒ならしなる音がするのだが、まるで鉄の棒のような音だ。こいつら、リリンちゃんにかなり手加減されたんだなぁ。
「ひ、ひぃぃぃ」
諦めきれないのか、盗賊が逃げようとする。リリンちゃんが目にも止まらない速さで追いつくと、冷静に向う脛に軽い一撃をいれた。
そいつが倒れるのを確認した俺は、リリンちゃんに入口側を確認すると、「閉じ込めてるから大丈夫」なんて言う。行ってみなければ、安心できない。俺達は、村の入口へと向かった。村の入口方向を見ると、まだ距離があるにも関わらず何か壺のようなものがそびえ立っている。
「おい、もしかしてアレに閉じ込めてんのか?」
「うん、そうだよ。でも窒息しないように空気穴は開けておいたから大丈夫」
俺の質問にニカっと笑顔で答えるリリンちゃん。中には氷水が膝までの高さに張られているから、この短時間でも体力が大分奪われているだろうと言う。
「本当は3日くらいそのままほっといた方が良いんだけどねー」
「その間村の入口にこんなの置いとく気か」
「そっか、邪魔だね」
リリンちゃんは更に土魔法ででかい車輪が付いた台を造り、その上に盗賊達の入った壺をその怪力で置いた。村人も俺達も顎が外れんばかりに驚いたが、リリンちゃんが「私の村では、皆このくらいできるよ」という爆弾発言で更に皆驚いた。いくらステータスが上がったからと言っても、限度があるだろう。レッドドラゴン絶滅の危機か?
「ところでこれ、誰が運ぶんだ?」
「え?そんなの簡単だよ」
そう言いつつ、今度はゴーレムを作り上げる。おい、普通ゴーレムって核が無いと作れないんじゃないか?
「うん、ゴーレムの核ってあと千個くらい持ってるから少しくらい使っても大丈夫だよ」
はぁ?どうやって手に入れたんだ?
混乱する俺達に目もくれず、10体のゴーレムを作成したリリンちゃんは、反対側の盗賊達もでかい壺に放り込むと、台車を王都に持っていくよう命令する。その際、村の人を三人程台車に乗せ、王都の門番への説明を頼んだ。因みに、護衛もゴーレムがやってくれるので、村人は本当に説明だけだ。
手を振って見送るリリンちゃんは、この時ばかりは年相応に見える。だが、その戦闘力は異常だ。魔法も異常だし、木の棒で敵を殴り倒すのも異常。今までどんな生活してきたんだろう。一回聞いてみないといけないかもな。
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盗賊達も片付けて、村人も一安心のようだ。気配探知にも盗賊や魔物は引っかからない。さっきの嫌な予感は盗賊だけだったみたい。
「もう大丈夫だから、皆さん普段通りの生活できますよー」
私が周囲に声をかけると、あちこちに隠れていた人達が不安そうな顔を出す。私がにっこりと微笑みを返すと、ようやく安心したのか沢山の人が出てきて私の周囲に集まってきた。
「え?何で?」
「お嬢ちゃんたちのおかげで、この村は救われたんだ。是非ともお礼をしたい。今村長を呼びに行っているから、少しの間待っていてもらえないか」
お礼が欲しかったわけじゃないけど、この人だかりを無視して先に進むのも気が引ける。他のメンバーに目を向けると、あいつらにも人が集まっていて動けなくなってしまっていた。
そうして、その状態で暫く待っていると、一人のおじいさんが他の村人に引っ張られてやってきた。あぁっ、おじいさん酸欠で死にそうになってるから急がせないで。
「ぜぇっ、ぜぇっ、わ、ぜぇっ、私がこの村の村長をして、ぜぇっ、おります。ぜぇっ、このたびは村を助けて頂いてありがとうございます」
「い、いえ、とりあえず水でも飲んで落ち着いてから話してください」
「す、すいません」
村長さんに水の入ったコップが渡され、それを飲み干した後にようやく落ち着いてきたのか、再度お礼を言ってきた。
「まぁ、偶然通りがかったところでしたし、大した相手じゃなかったからいいですよ」
「あの大人数の盗賊を大した相手ではないと…。もしかして、最近現れたという勇者ではございませんか?」
「いえ、違います」
ここではいなんて言ってしまったら、面倒な事になる。そう直感した私は速攻で否定した。メンバーも同じ考えなのか、特に何も言ってこない。村長は勇者でなくても、こんなに強い人が無名のはずはないと色々聞いてくるが、ここは全て否定で済ませておこう。
「私達はただの旅人です。自衛の為に多少冒険者っぽいこともしてますけど、そんなに有名な人でもないですよ」
「いえいえ、この強さなら冒険者でもSランクでしょう!」
「えっ」
「えっ」
冒険者のSクラスってこんなもんなの?だったら私の居た村、全員Sクラスだよ。
私は、自分の居た村がいかに非常識な強さを持ってしまったのか、初めて知ったのだった。
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