第019話
お待たせしました。
結局、私達はカっちゃんのところに二週間ほど滞在した。その間はずっと王城泊まりで、兵士たちを鍛えてあげた。
「何とか体裁は繕えたかな」
「いや、逆にやり過ぎじゃね?」
隣に立つゲネートが呆れたように言う。何を言っているんだ。このくらいやらないと軍としては成り立たないだろう。
「そうかな?」
「いやいや、釣り野伏とかどこの戦闘民族の戦法だよ」
そう、私は個人技よりも集団戦闘の方を主にレクチャーしたのだった。これにはカっちゃんも驚いたらしく、「姉御が陣形なんて」等と失礼な事を抜かしていた。
「いやだって二週間だよ。個人技のレベルアップは当然必要だけど、私が教えてすぐにできるもんでもないし。
だったら集団行動ができる程度に鍛えた方が、まだ軍としては効率が良くなるんだよ」
前世ではそんな状況はあまり無かったので私はほぼ一人で対応していたのだが、軍ならば話は違う。
ここぞとばかりに色々な陣形を指揮官レベルの兵に叩き込み、それをスムーズに構築できるようにするというのを集中して行った。その為、兵一人一人はそれほど強くなってはいない。
「ま、戦のやり方が違うんだ。弱兵でも集団だとそれなりに戦えるよ」
戦国時代の織田信長だって、弱兵と言われた尾張兵を率いて天下統一一歩手前まで行けたんだ。個人技に走りがちなこの世界なら、効果は抜群だろう。
「あぁ、それと魔法師団の方はどうなったかな?」
「そっちは俺がメインで鍛えておいた。要求通り防御と支援がメインだがな」
「うん、それで良いよ」
魔法師は、魔力がなくなればただの人だ。戦場で長く戦うには向いていない。だから、ゲネートには防御魔法と兵への支援魔法をメインに鍛えてもらった。攻める軍ではないのだから、防御に徹すれば敵も諦められるだろう。
「やぁ、お陰で軍も見違えたよ」
「カっちゃん、随分とご機嫌だね」
「そりゃそうさ。以前はここまで動けなかったし、連携も良くなかった。だけど、これで防衛軍としての基礎はできたね」
「魔王様におほめ頂き光栄ですわ」
「うっわ。何その言葉遣い」
ちょっと気取って言ってみただけなのに、丁度やってきたクワイトに珍しいものでも見たような顔をされた。ホント、失礼なやつだな。確かに似合わないけどね。
「後は諜報部隊と遊撃か」
「そっちはカっちゃんの方が適任でしょ。頑張ってね」
「あぁ、この国の未来のためにも頑張らなくちゃな」
カっちゃんは元々裏方の人間だ。情報収集能力もあるし、それを纏めて的確な判断を下す冷静な知性もある。
「そう言えば、私達の住んでた国って何て名前だっけ?」
「…ベタルリア国です。確かに私も少し忘れかけていましたが、少しは覚えておく努力をして下さい」
ゲネートよ、忘れかけてたんなら同罪だぞ。そう言えば、あの国の北にも国があったよね。
「そ言えば、北の国って軍事大国だって聞いたけど」
「アルファーノ王国です。確かにあそこは軍事大国ではありますが、実際に軍を起こすことはあまりありません。別名『重装王国』とも呼ばれています」
更に聞くと、『重装王国』とは兵が重装備になると重さや動きづらさでもたもたしたりするのと同じように軍そのものは精強ではあるのだが、始動がいつも遅いからなのだそうだ。
勿論そんな状態で先手が取れるわけもなくいつも後手に回っているのだが、それでも終わってみれば相手の方が被害甚大という状態になるのは流石軍事大国なのだろう。
「ふーん、何でそんなに始動が遅いんだろうね」
「さぁ。何でもかの国は議会の権力が王より強いのだとか。そのためではないでしょうか」
イギリスみたいな国だな。まぁ、そんな国ならこの国と事を構えることはあまりないだろう。そこはひとまず安心してても良いかな。
やっぱりこの地域では、あの王だけが問題だ。そう言えば、あの王って子供とかいないのかな。そうすればクーデター起こして子供に王位を譲らせるのに。
「うっわー、悪い顔になってますよ。何を考えているかは分かりませんが、その顔は止めて下さい」
「え?そんなに悪い顔だった?それは問題だね。気をつけよう」
私はほっぺをむにむにと動かして、顔を元に戻す仕草をしておいた。そこへ、今度はカリーネさんがやってきた。
「ようやく、後衛の部隊も形になってきたわ。これで兵の消耗もだいぶ減るでしょうね」
「まさか回復魔法とかを使う部隊が無いとは思わなかったな」
「そうね。魔族って基本的に魔力が多いから、軽い回復魔法くらいはだれでも使えるの。だからそれ村門の部隊ってのができにくかったらしいわね」
皆ができるんだったら仕方ないね。でも、今後は違う。回復魔法専門の部隊があれば、負傷した兵をそこに送ればよい。他の無事な兵はその魔力を攻撃や防御に使うべきだろう。
「これでピース国でやることも終わったわね。次はどこに行くの?」
「うーん、まだ考えてない。行ってないのはアルファーノ王国くらいだけど、軍事国家なんてろくでもなさそうだし」
そう、まだ次の目的地を決めていないのだ。ここでダラダラしているのも、特に次に行くところが決まっていないというのが大きい。
「だったら、今度は海の方に行ってみようぜ。俺行ったことないんだよな」
「海かぁ」
確かに、私も前世では何度も海には行っているが、転生してからは行ったことがない。半島みたいな国なのに、これはもったいない。
「でも、どこの海に行くの?ベタルリアはどこの港町も領主が高い入場料取るから、あまりお勧めしないわよ。
海辺の村の方に行けば入場料なんて殆どないけど、そういうところは逆に楽しめる場所がないしね」
うーん、ベタルリアはダメかぁ。なら他の国だけど、ピース国は南の方に海があるそうだけどそこまで行くのにかなり高い山を越えないといけないらしい。ならアルファーノ王国か?
「アルファーノ王国は?」
「うーん、あそこはどうだろう?誰か知ってる?」
「いや、俺は知らない」
「俺も知らないなぁ」
役立たずな男共め。カっちゃんは知ってるかな?
「あそこは意外と治安も良いし、外からの旅人にも親切だ。海に行くかどうかを除いても、行ってみて損はないと思うよ」
流石カっちゃん。王になってから、外交で何度かアルファーノ王国には使節の派遣や直接行ったりもしているらしい。そりゃ知ってるはずだ。
「じゃあ、次はアルファーノ王国の海って事で」
「「「おーっ!」」」
「あ、それじゃこれをアルファーノ王国の王様に届けてくれない?旅費はいくらか出すから」
おのれ、それが目的か。ちゃんとした外交官を使えよ。
「いや、これ私信みたいなもんだから。あまり公にしたくないんだよねぇ」
どうやら、ベタルリア絡みで何か情報交換しているらしい。確かに公でやり取りする内容じゃないな。
でも、こんな重要なのを一介の旅人に託しても良いのだろうか?どっか持って行っちゃうかもよ。
「姉御を信じてるから。なんと言っても勇者だしな」
「それ、本気で言ってるの?」
「勿論。それに、姉御はあの国のトップは気に入らないみたいだから、そっちに持っていかれる心配もないしね」
「まぁ、あのブタはどうにかしたいところだけどね。でも、それ以外にも腐った領主とかが居るんだよねぇ」
「俺もあそこから逃げてきたクチだから言うけど、まともな領主ってほんの僅かしかいないんだよな。そういう人達って身を粉にして領民のために働いているから、あの国全体に対して何かし辛いんだよね」
そう、私が行ったニンジョールノ領はまさしくそんなところだった。もし戦乱になったら、あそこは即色々な物を徴収されてしまい、街として成り立たなくなってしまうだろう。
確かにそれはよろしくない。
「そんなわけで、お願いするね。姉御」
わかったよ。でも、こいついつまで私を姉御呼ばわりするつもりだよ。これでも十歳の女の子なんだぞ。
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