第017話
お待たせしました。
いよいよ、これから謁見の間で魔王との会見が始まる。とは言っても夕べ遅くまで話したから、あまり話すことはないんだけどね。
「魔王様はとても気さくなお方で礼儀作法もこだわりはありませんが、できるだけ守って頂けるとありがたいです」
トーヤさんがそう言いながら、私達を謁見の間に案内してくれている。礼儀作法って言っても、私はまだそんなの習ったことがない。今のうちに聞いておこう。
そうして、トーヤさんやカリーネさん達に基本的な礼儀作法を聞きながら歩いていると、謁見の間に到着した。とても大きな扉があり、その前に衛兵が二人、ハルバードを持って部屋を守っている。私を除く仲間達が緊張しているのが分かるが、戦いに来たわけでも何か交渉をしに来たわけでもないのだ。
「緊張する事はないよ。ただお話しするだけだから」
「そう言ってもな。魔王って、この国をあっという間に作り上げたんだぞ。そんな手腕を持った奴がこの先に居るなんて思うと緊張するさ」
クワイトにまで言われてしまった。こいつに緊張なんて似合わないのに。意外と繊細なやつなんだなぁ。
「では、入りますよ。開けてくれ」
「はっ」
衛兵が扉の向こう側に合図すると、扉がゆっくりと開いていく。私達はトーヤさんの後ろに続いて歩みを進めていく。奥の一段高くなったところにいるのが魔王と、あの美しい人が王妃様なのかな。見た目、優しそうで包容力もありそうな人だ。でも、芯の強さも感じられる。某擬人化艦艇を集めるゲームに居た和服の似合う軽空母の人に似てるね。
「私はここで離れます。あと五歩行ってから止まってください」
トーヤさんがそう言って、左側の列へ向かって行った。武官はあっちに並ぶらしい。という事は、右側は文官か。そう思いながら五歩歩いて止まった。流石にこの場でふざけて多く歩くような事はできないからね。
「勇者リリン殿、此度はよくおいで下さった。このピース国国王、国を挙げて歓迎しますぞ」
「王!」
「宰相、そなたの言いたいことはわかっておる。だが、勇者殿は余を倒しに来たのではないのだ。ならば、歓迎するのが筋ではないか?」
「ぎょ、御意」
「で、勇者リリン殿。余と話をしたいとの事であるが、それはあちらの国は関知しておるのかな?」
「いいえ。あの国では王のみが魔王打倒を叫んでおりますが、私にそのつもりはございません。」
昨日、雑談ついでに今日のシナリオも練っておいたのだ。暫くこの調子で話して、敵意がない事を納得してもらった後に大沢一家(王家だけど)との歓談に入る予定にしていた。
「では、敵意は無いのだな」
「はい。神様からも魔王と敵対する事はよろしくないとの神託を受けておりますので、殊更敵対するつもりはありません」
仲間達は私の弁舌に驚いている。そりゃ、僅か十歳の子が堂々とやり取りしてるんだもんね。でも、中身は一応大人だ。これくらいはできるさ。
「そうか、ならば…」
「父上、お願いがあります!」
おおっと、ここで誰かが乱入だ。あ、この声はナナコちゃんだな。どうやら昨日言ってた模擬戦をしたいらしい。
「勇者よ、もんでやってくれんか?」
「ええ、分かりました」
「王!これは罠ですぞ!ナナコ様を人質に取って、この国を乗っ取るつもりに違いありません!」
いや、そんなめんどくさい事なんかしないよ。
「練兵場で、訓練用の武器を使えば良かろう。それに、お主はほぼ単身で相手の国の中枢に来る勇気があるか?」
「い、いえ」
「ならばこれ以上の問答は不問である。これより、勇者とナナコの親善試合を執り行う。皆、準備をせよ」
「はっ」
武官、文官の皆がさっと動き出す。以前、私とカっちゃんが居た会社を思い出す。
「時間は有限だ。行動は素早くしろ。部下にもさせろ」
まさしく、その状態だよ。まぁ、行動を素早く行う事は悪い事ではない。今の私はその反動でぐうたらしたいのだが。
そうして、今度は魔王様に連れられて練兵場まで案内されてきた。勿論、何人かの護衛と文官も一緒だ。護衛の人達は、護衛対象である魔王のすぐそばに私が居るので、とても困った顔をしている。でも、仕方ないじゃん。魔王直々に「場所が分からんだろうから、余が案内しよう」なんて言われちゃったら断れないじゃない。
「では、これより親善試合を始める。用意はいいか?」
と言うわけで練兵場です。この練兵場、特殊な結界が張られていて、ここで負った怪我は結界を出る時に治してくれるし、致命傷になりそうな場合は即座に結界の外に転移され、死なないようになっているんだそうです。
「こっちは準備万端よ」
「こっちも大丈夫です」
ナナコちゃんは、動きやすい革鎧に、片手剣と盾と言うオーソドックスな格好です。私は普段着に、いつもの木の棒です。
その恰好を見た魔王が何やらにやにやしていますが、気にしない事にします。対してナナコちゃんは、私が手を抜いていると思ったのかちょっと怒っています。
「そんな恰好でいいわけないでしょ!」
「いや、いつも戦うのってこれだし」
まぁ、木の棒で戦うなんて、普通はしないよね。でも、そんじょそこらの剣では力負けしてすぐボロボロになっちゃうから、結局これになっちゃうんだよね。鎧も動きやすさを重視したら、つけないのが一番という結論になっちゃったし。
私が改めて、このままで良いという答えを受け、審判役の魔王が手を上げ、振り下ろした。
「始め!」
その合図と共に、ナナコちゃんが盾を前に掲げながら突進してくる。私は、身体を半身ずらして、木の棒で盾を弾く。
それだけでも衝撃があったのだろう。ナナコちゃんの突進が止まり、ほんの少し体勢が崩れる。
本当ならここで追撃だけど、ちょっと勿体無い。昨日のうちに許可も得ているし、稽古をつけてやりましょうかね。
体勢を整えたナナコちゃんが、やはり盾を前に掲げて間合いを詰めてくる。片手剣は半身の陰でわからない。なかなか考えてはいるようだ。
だが、半身ということは背中側には振り下ろしや薙ぎ払いが無いという事だ。逆手での突きはあるだろうけど、威力はそこまでない。
「当然、こうするよね」
私はわざと背中側にまわる。どんな工夫をしているか見たかったからだ。ナナコちゃんはしてやったりという顔をすると、魔法の起動呪文を唱えた。
「ウォーターボール!」
ナナコちゃんの背中から、ウォーターボールが私に向かって発射される。どうやら事前に鎧に組み込んでいたらしい。だが、ウォーターボール一発程度、私に避けられないはずはない。
更にナナコちゃんはくるりと回転しながら私にシールドで攻撃してきた。片手剣の追撃付きだ。それを下がって避けると、木の棒を彼女の肩に当てて軽く押す。
「きゃあっ」
バランスを崩したナナコちゃんはさすがに倒れはしなかったものの、新たな攻撃体勢には移ることができず、そこに大きな隙を作ることになってしまった。私は彼女の顔の前に木の棒を突きつける。
「どう?まだやる?」
「勿論!」
あー、なかなか負けず嫌いのようだ。お姉さんはそういう子好きだよ。
それからは、彼女の攻撃を私が避け、受け流し、軽く反撃を加えるという実戦式の稽古が続いた。ナナコちゃんの剣筋や戦闘センスは申し分ないが、経験が圧倒的に不足している。まぁ子供なんだから当たり前なんだろうけど、このまま修練を重ねて行けば、立派な戦う王女様になれるだろう。
「はぁ、はぁ」
どうやら、息も上がって動けなくなってしまったようだ。ここいらで終わりにしましょうか。
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