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王と盾と彼らの剣

NPCたちの話です。シリアスな感じで。

ルーハス、ゲイル、エルーニャの、学園最強パーティーの面々です。

 剣と魔法とダンジョンと冒険者の世界、エルハード。数多のダンジョンを世界に抱え、幾多の種族が、数多の職業をその身に宿し、冒険者として日々を過ごす世界、エルハード。その世界の冒険者育成の最高峰と呼ばれる学園、ルルイエ。歴代卒業生は皆、名の知られた冒険者として活躍している。ここは、そんな世界。

 今日も、生徒達はクエストをこなしている。単位を所得するために、冒険者としての腕を磨くために、ダンジョンに潜り、強敵に挑み、アイテムを集め、依頼を達成する。それが、彼らの日常だった。

 その途中で、命を落として帰らぬ者となる存在も、決して少なくは無かったが。

 それでも、彼らは冒険者として生きることを願う。この学園で、多くを学び、強さを求める。そしてここにもまた、己を一人の冒険者として認識し、そうなるために生きる少年が、いた。


「ルーハス、また夜更かしか?」


 やれやれと呆れたように声をかけられて、少年はゆっくりと顔を上げた。施錠していたはずの自室に他人が現れても、それが馴染んだ相棒の声だからこそ、彼は落ち着いていた。切りそろえられた美しい金髪が、ふわりと揺れる。その背の純白の翼と相まって、彼の姿は神々しいまでの美しさだった。

 ルーハス・フォン・エルブンハイム。エルハードに存在する国家の一つ、エルブンハイム聖王国の正統なる後継者。次期エルブンハイム国王、という仰々しい肩書きを持つこの少年は、その事実をひた隠し、ルーハス・ティリアスと名乗って、ルルイエ学園の三年生をしている。生徒会長という役職を与えられているのは血筋では無く、彼の能力を鑑みてのことだった。

 彼を呼んだのは、付き合いの長い幼なじみだった。ほぼ唯一と言って良いほどの、親友である。ゲイル・フォレス。刈り上げたえんじ色の髪と深い濃紺の瞳が印象的なこの少年は、ルーハスをただ一人普通の少年として扱った相手である。拳法道場の跡取り息子として生まれた、ただの庶民である。だが、ひょんなことから知り合い、彼ら二人は親友、相棒と呼び合う間柄となっている。その関係に、血筋も身分も関係なかった。

 ぱたん、と暗褐色の竜の尻尾が軽く床を叩いた。耳の少し上、側頭部に付いた小さな竜の翼もまた、呆れを示すようにぱたぱたと動いている。実際ゲイルは呆れていた。ルーハスのワーカーホリックならぬワークホリックは、彼にしてみれば呆れるしかないのである。お前そのうち身体壊すぞ、とは彼の口癖である。


「やぁ、ゲイル。そういう君こそ、こんな時間にどうしたんだい?」

「お前が図書室で大量の本を借りていったから、夜更かししてないか確認してくれとエルーニャに頼まれたんだ」

「ひどいなぁ、エルーニャは。僕を最初から疑っていたなんて」

「阿呆。…お前、一人で全部背負い込もうとするんじゃねぇぞ」

「ゲイル?」


 不意に真顔になったゲイルが、ルーハスから本を取り上げる。今日はもう寝ろ、と告げる言葉は優しかった。だが、ルーハスを見るゲイルの瞳は射貫くように鋭い。その鋭い瞳を、ルーハスは宝石のようなとたたえられる翡翠の瞳で見つめ返す。そこには何の感情も浮かばない。まるで凪いだ海のような、無機物のような瞳に、ゲイルは軽く眉を寄せた。

 ルーハス、とゲイルは相棒の名前を呼ぼうとした。けれど、出来なかった。ルーハスの瞳は彼を見ていなかったし、彼もまた、何が起きたのかを理解したからだ。ゆっくりとゲイルが背後を振り返れば、にこにこと笑う眼鏡の猫耳メイドが佇んでいた。彼らの仲間、図書委員にしてメイドのエルーニャだった。


「ゲイル~。お願いしたのに、まだルーハス眠らせてくれてなかったの~?」


 ひどいわぁ、と棒読み口調で告げたエルーニャに、ゲイルは俺が悪いんじゃねぇ、と低い声で毒づくようにぼやいた。そんなゲイルの発言をスルーして、エルーニャは漆黒の瞳を眼鏡の奥ですぅっと細めた。そうすると、それまでにこにこ笑っていたメイドの顔に、恐ろしいまでの凄みが宿る。

 ショートボブに切りそろえた緑の髪の上で、真っ白なヘッドドレスが彼女の動きに合わせて揺れていた。ひどいわ、と繰り返しながら、エルーニャはルーハスに歩み寄ると、彼の手から本を奪った。ついでに、机の上に平積みにされている本も、容赦なく奪っていく。


「エルーニャ、それは僕が借りている本だよ」

「駄目です。これがある限り、ルーハスは寝ないでしょう?明日もクエストがあるんだから、大人しく寝てちょうだいね~」

「エルーニャ」

「お姉さんの言うことが聞けない悪い子には、お仕置きしちゃいますよ~?」


 ふふふとおどけるように笑って、エルーニャは膨らんだスカートへとそろりと手を伸ばす。その動きに気づいたルーハスが、本を取り戻そうとしていた行動を、止めた。何故なら、彼女のそのスカートの内側には、愛用武器である銃がしまわれているからだ。ダンジョンで集めた素材をつぎ込んで改造されているそれは、拳銃でありながらバズーカ並の破壊力を持っていることを、ルーハスはよく知っている。それゆえに、大人しく黙ったのだ。

 良く出来ました、と微笑んでエルーニャは本を丁寧に積み上げる。そうして、メイドの見本と呼ぶべき仕草で、くるりと一礼した。それは実に洗練された動きで、今すぐどこかの宮廷やお屋敷で働けそうなぐらいに、完璧な所作であった。


「これらの本は、明日になったらお返しいたしますわ。ですから、本日はどうぞお休みくださいませね」


 しとやかなメイド口調で言ってのけ、顔を上げた一瞬、まるでアサシンのような鋭い瞳で釘を刺すエルーニャ。ルーハスは諦めたように小さくうなずき、パーティーメンバーでもある少女を見送った。何だかんだでルーハスが彼女に勝てないのは、彼女の行動が全て、彼を護るためだと知っているからだ。

 音を立てずに扉を閉めて去って行ったエルーニャを見送って、ゲイルはやれやれと肩をすくめた。彼は、自分が何故この場にいるのかをわかっている。エルーニャは、穏便にこの部屋に入り込むために、ゲイルを鍵役に任命したのだ。ルーハスはゲイルにだけ合い鍵を渡しているので。

 ちなみに、同じ仲間であるエルーニャに渡していない理由は、年頃の少年としてごく当たり前の理屈だった。いきなり同年代の少女に部屋に勝手に入り込まれるのは、あまり気持ち良いものでは無いのだ。その理屈はエルーニャにも理解されており、彼女も納得している。だが、その代わりに、こういう事態になるとゲイルが鍵にされてしまうのである。

 

「ルーハス」

「なんだい、ゲイル」

「心配しなくても、俺らもちゃんと対策は考えてる」

「…」

「世界規模の事象を、ただの冒険者が一人で抱え込もうとするな。阿呆らしい」


 ぺし、とゲイルはルーハスの頭を叩いた。痛いな、とぼやく声はどこか弱い。ルルイエ学園の生徒会長、歴代最強とまで呼ばれ、既に第一線で活躍する冒険者達以上の実力を持つなんて言われる、ルーハス。それでも、その彼がただの少年でしか無いことを、ゲイルは知っている。エルーニャも知っている。それ故の、彼らの行動である。

 エルーニャはルーハスを護るために、いつも様々な気配りを絶やさない。ゲイルは、ルーハスやエルーニャを含む、《自分たちの敵》に対して常に刃を向けられる立ち位置を貫いている。彼ら三人は、王と、盾と、それらの剣、のようであった。じゃれ合う普段の彼らを知る者ではなく、戦場で幾多の苦難を乗り越えてきた彼らを知る、教師達の発言である。

 そして彼らは、それを否定しない。

 ルーハスは生まれながらに王だった。彼が望もうと、望まざろうと。

 エルーニャは誰かの盾として生きることをその身に刻んだ少女だった。護るために刃を手にすることもあったとしても。

 ゲイルは、大切な誰かのために拳を振う男だった。相手が誰であろうと、彼は常に《自分たちの敵》に容赦などしなかった。

 それが、彼らだった。幼い頃から三人一緒だった。今更、生き方を変えられるほどに幼くはない。他人にどう指摘されても、彼らはこの立ち位置が心地良かった。気心の知れた仲間と共に生きることが、彼らの願いであり、望みでもあった。


「魔王の復活だの、大災害の到来だの、お前が一人で背負えるわけねーだろ」

「ゲイル、でも、僕は」

「役目だ何だの言うな。どうにかしなきゃいけないなら、皆でやるんだ。…だからもう、今日は寝ろよ」


 ぽんとゲイルはルーハスの頭を撫でた。それは聞き分けの無い子供を宥めるような仕草だった。そしてルーハスは、それに弱かった。わかったよ、と呟いて聞き入れてしまうくらいには。



 未曾有の危機が迫る世界で、彼らはあがくように生きている。



ついうっかり、彼らの話を受信してしまったので書いてしまいました。

本編の未央ちゃんたちのギャグっぷりとは裏腹に、真面目なお話です。

NPCの彼らはゲーム本編の真面目で大変な世界崩壊シナリオと戦ってます。

気が向いたらまたNPCの話を書くかもしれませんが、見逃してやってください。

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