続編 4
「大神官様の沐浴といったら、身を清め神々に祈りを捧げる大切な儀式ですよ。ただの入浴とは違います。元々、能力のある巫女や神官しか、大神官の沐浴をお手伝いすることはできなかったそうですよ。先代の大神官様までは、何人か専門の者がおられたそうです。エルフィス様は何もかもが例外的な御方で、沐浴の間は絶対に誰も近づけられないのだと、噂で聞いておりましたが……。そんな御方が沐浴を手伝えと貴方に命じられたのなら、こんなに名誉なことは他にないと思いますね。貴方が羨ましいくらいです」
「…………そう、なんですか?」
「あのお方の噂は色々と出回っていますが、神聖な場所に女性を立ち入らせたことは一度もないそうです。もちろんこの内殿にも……です。ちゃんと、節度をお持ちの方なのだと私は思いますよ」
「意外でした」
食事から戻った時、丁度ユナの部屋で、寝所の準備をしていたおかっぱ頭の若い神官がいたので、試しに訊いてみたら、そんな回答があった。
最初、この神官がエルフィスから、言わされているのかと勘繰ったが、そんなことはなさそうだった。
神殿に入って、まだ三年という新米神官の言葉には、重みがあった。
あのエルフィスを敬慕しているのが彼の言葉の端々から伝わってくる。
てっきり、とてつもなくいかがわしいことをさせられるのだと、ユナは勘違いしていた。
……恥ずかしい。
マリベルからの一件から分かってはいたが、確かに、エルフィスは仕事と私的なことは分けて考えているようだった。
最近、本当に分けているのか怪しいことは度々あったが、それでも、この内殿は神の坐す神殿の中枢である。
変に、危機意識を持ってしまった自分が居た堪れなかった。
(どこまで、私は自意識過剰なんだろう)
エルフィスが神殿で禁忌を承知で、手を出すほどの魅力がユナのような小娘にあるとも思えない。
(ちょっと背中をお湯で流せば良いのよね……)
――そうだ。
昔、亡くなった父の背中はよく洗ってあげたものだ。
あれと同じだ。
いつも、お疲れ様という気持ちで、軽く水で背中を流してあげれば、事足りるのではないだろうか?
口では上手く伝えられないが、ユナとてエルフィスには感謝をしているのだ。
家は壊されてしまったが、ここまで良い待遇で迎えてもらったのは有難いことだ。
何より、毎日職務で忙しいエルフィスが辺鄙なユナの家まで馬車を飛ばして来てくれたことは、少しだけ嬉しかった。
彼が望むのなら、少しくらい譲歩をしても良いかと思ってもいる。
――それでも……。
エルフィスの裸だけは、直視できない。
(どうしよう?)
暫時、悶々と悩んだユナは、苦肉の策を決行することにしたのだった。




