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093 エルフの里、そして神樹様【神の樹。】

神の樹。

その本質は人樹と差異はない。ただ此処まで詳細に植物の話を聞けるのは、人樹であってもあり得ない。それゆえの神樹。いや、この力が使えたからこそ神樹と呼ばれるようになったのだ。


だけどその事実は誰にも話してはいけないと、過去にあの人と約束した秘密。

ゆえに真実は語らない。

だけど嘘もつきたくない。


誤魔化したいときはただ微笑む。それで相手は勘違いしたり、深読みをして困惑するのだ。そんな訝し気な顔をする2人に、それでも助けなくてはという使命に似た気持ちを胸に、神樹様は口を開く。


「教えてくれませんか?貴方たちの事。どこから来て、そして何処へ行こうとしているのか。なぜ追われるように川に落ち、そして何から隠れようとしていたのか。ある程度理解していると自負しておりますが、貴方たちの口から真実が知りたい」


そんなセリフを受けて、冬威は観念したように小さく頷きかけてからチラリと様子を伺うようにジュリアンを見た。その動作で神樹様は決定権はジュリアンにあると判断して視線をジュリアンに集中させると彼もまた、ちいさく頷く。


「分かりました。僕たちの話は到底信じられるものでは無いでしょう。でも、まぎれもない真実であり、体験した事です。どうか最後まで聞いてください」


そんな前置きをしてから語り始めた。

まずは日本からペニキラに来た経緯。ペニキラからファルザカルラに召喚されて、そしてそこで起きた事が原因で、川に落ちここに来た事。どちらかというと冬威をメインに置いた話だったが、神樹様は時折相槌を打ちながらも最後まで余計なことをはさまずに聞き終えた。


「なるほど。やはり、異世界からの旅人だったのですね」

「旅人?」

「そうです。過去にも勇者という称号を得た者がおりました。そしてその人物もまた、異世界から渡ってきた人だったのです」

「その人!どっから来たとか、どうやって帰ったとか、分かる!?」


突然の情報に冬威が身を乗り出すと神樹様はゆっくりと、しかしシッカリ首を横に振った。


「すいません。彼らが活躍した時代、私は生を受けてはいましたが、いまだ意識は曖昧な状態でした。ただ、勇者はその地で一生を終えたという話は聞いていませんので、どうにかして帰還したんだと思います」

「それ、詳細は分からないの?神樹様が分からないなら、詳しく知っている人とか、資料がある場所とかを教えてもらえれば自分たちでなんとかするんだけど」


それでも、とはやる気持ちを抑えながら問いかけるが、神樹様は首を横に振った。


「当時の事を記した物はあまり残っていないでしょう。その場を目撃したものも、既にいないか、居たとしても探すのは困難だと思います」

「それは何故?」

「まず、その時の勇者様は気づいたらそこに存在し、そしてふと気が付いた時にはお姿を隠されておりました。永い時を生きる者は確かに存在するでしょうし、あの時代を生きた者ももしかしたら出会えるかもしれません。ですが、勇者の事を知る者となると…」

「…情報を制限していたのか、周囲に人を寄せ付けなかったのか…」

「何だってそんな事…」


神樹様の言葉に苦虫をかみつぶしたような顔で呟いた冬威。それをチラリとジュリアンが見るも、気持ちは同じだ。当時何があったのか分からないけど、何かしら残しておいても良かったのに。

2人して肩を落としてシュンとしてしまった空気を感じながら、神樹様は目の前にあった湯呑を持ち上げた。


「ですが。落胆するのは早いですよ。あなた方は私と出会った。そこからすでに、状況は好転しているといえるでしょう」

「…どういう事?」


眉を寄せながら視線を向けた冬威。ジュリアンも同じような顔をしていたが、冬威と離れて2人になった時に話したことを思い返しているようだ。表情が困惑から驚きに変化していくのが見てわかる。


「勇者の伝説。それはこの世界の多くの場所で語られる、有名な物語の1つです。登場人物はメインヒーローの勇者。悪役の魔王。そして、ヒロインの姫が居たり居なかったり。ですが、大体このメンバーで語られています」

「王道だな。で、それがどうしたの」

「ですが、ここに語られてこなかった真実が1つ。勇者を知る者は確かに少数でありましたが、彼の者の旅は決して独りの道のりでは無かったという事」

「それは…勇者パーティーって事?もしかして、そいつらの子孫が生き残ってるとか!?」

「世界のどこかでその血は受け継がれているでしょう。ですが、そうではありません」

「え…じゃあ、何が言いたいの?」


お茶を1口分くちに含んで、神樹様はニコリと笑った。その視線はジュリアンを見ていたため、冬威はチラリと隣に座る彼を見る。その視線を感じたのかジュリアンも冬威を見返すが、彼本人は神樹様が何を言いたいのか正確な事は分かってはいないようだ。


「こほん。…私は勇者の事は詳しく知りません。ですが、彼の旅に同行し、彼を助けた『賢者』と呼ばれる方なら知っています」

「賢者?…それって何した人なの?」

「誰も彼を語らなかったけれど、賢者様が居なければ魔王を倒すあの旅も終えることは出来なかったのではと思えます。その人はその知識で勇者一行を導き、その力で彼らを支えた。縁の下の力持ちってやつですね」

「それは確かにすごい事かもしれませんが…それが僕たちと何の関係が?」


賢者を知っているという事実が、いったい自分たちにどう影響するのか、何が言いたいのか分からずにそう先を促すと、コトンと音を立てて湯呑を置いて、一度姿勢を直した。


「先ほどのお話で、トーイさんが勇者の称号を持っていることを確認しました。貴方はこの時代の勇者です」

「…んな事言われても、世界を救ってとか、そういった事出来ないぜ?そんなおかしな状況でもなさそうだし」

「世界の異変については…とりあえず今は置いておきましょう」

「え、何か起きてんの?」


そこ重要じゃないの?と言いたそうな冬威をとりあえず放置して、神樹様はジュリアンを見た。


「あの時代でも、賢者様は最初から勇者の側に居たそうです。そのことから、ジュリアンさん、あなたは賢者である可能性が高い。そしてその賢者の存在が、勇者の旅を手助けした。という事は、貴方が彼の帰還のカギを握るかもしれないという事です」

「でも、僕にはそんな称号出ていませんよ?」

「おそらく、必要な条件を満たしていないのでしょう」

「必要な条件?」


それはなんぞ?と聞き返そうとした時。神樹様はピッと人差し指を立ててニコリと笑った。


「というわけで、この里の冒険者ギルドで、依頼受けてみませんか?」

「…」

「…?」


何がどうしてそういう事になったのか。反応が遅れた2人は無言で首を傾けた。


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