081 絆、そして拒絶【「なぁ、いつまでここに居るの?」】
「なぁ、いつまでここに居るの?」
トズと会話していた冬威。その場所はどうやらダイニングだったようで、どうやって丸焼きを作ったのか分からないがジュリアンはシルチェの要望通り彼が用意した魔物の丸焼きを朝食に用意していた。それとは別にスープだったりパンだったりと比較的豪華な朝食を4人でかこむ。パクパクと口を動かして肉がどんどん消えていく様にジュリアンと冬威は驚いたり、狩りの様子をシルチェが語ったりでにぎやかな食事だった。
そのおかげで食事をごまかせたジュリアンはホッとしながらもシロの存在の大きさを実感する。あの子は一緒に落ちなかったけど、今元気にしているだろうか?心配であるが、優先順位はシロよりも冬威が上だ。探しに行かないことを心の中で謝罪する。
その後で後片付けを冬威とジュリアンで並んで行っていたが、ジュリアンの生活魔法のおかげで皿洗いはサクっと終わってしまい、食後にお茶を入れてトズとシルチェに出した後で食器を片付けていた。
そんな時にポロリと冬威がこぼした言葉だった。ふと片づけていた手を止めてジュリアンは考え込むように口元に手を当てる。
「あまり長居は出来ないと思っているし、僕自身もするつもりは無いけれど、何処へ行くべきかしっかりと決めないと出るに出られないよ」
トズに言われたからというのもあるが、彼女たちの生活に飛び込んでしまって迷惑をかけているという自覚もある。冬威は少し寂しい気分になりながらも語りかけたのだが、その声は寂しさからか限りなく小さくて、独り言だったのかと思われてもおかしくないくらいの声量だった。しかし、静かに作業を行っていたジュリアンの耳には、彼のスキルがあったおかげもあるかもしれないが問題なく届いた。冬威とトズの会話を聞いていたわけでは無いが、急ぐ旅であるという事を理解しているジュリアンは、わずかな時間考えてから振り返り、深刻そうな冬威の顔を見ても何ら違和感は感じなかったため、普通に自分の考えを答える。
すると冬威は少しばかり不思議そうな顔をして首を傾げた。
「何処へって…ペニキラ目指すんじゃないの?」
「やっぱりそう…なるよね。でも選択肢としては、一度ヘレンさんたちに会うためにあの場所に戻ることも選べるんだけど」
「あの町に?ザウアローレが居るじゃん!嫌だ。絶対ダメ。今度は絶対殺される」
いつのまにやら呼び捨てだ。それもまぁ仕方ないとは思うけれど。
「じゃあ、この場所を正確に把握して、どちらへ向かえばいいのかを知らないと。適当に移動して反対方向に進んでたりしたら困るしね。それに、川の流れと以前ヘレンさんに見せてもらった地図を比べると…何となく国境越えちゃってる気がするんだよね」
「え!?…でもあの町の近くの国境沿いに町は無いって言ってなかった?どれくらい流されたのか知らないけど、国境超えても人が居る場所へ出るにはそれこそ何日もかかるから、王都へ行った方が結局早いって…」
「人が居る場所は遠いんだろう。でもここは人の里では無い」
「…あ」
「それに、ファルザカルラの国の中にもエルフの里、集落があるとは聞かなかった。彼らエルフたちが隠れて生活をしてたのだとしたら、地図に載っていない理由になる」
「隠れて…やっぱり差別とかそういうのあるのかな?」
「それはどうだろうね。あるから隠れているのか、森が好きだから引きこもっているという線もあるよ」
「そっか」
「ただ…比較的友好関係にあるといっても、国境付近の町がある場所、その国境を挟んで反対側にまったく人が居ないというのは少しおかしな話だ」
「なんで?そういう場所もあるんじゃないの?」
「今はいいけど、もし何か問題が起きて関係が悪化した場合。ここは簡単に隣に攻め込むことが出来る位置に人の生活できる場所があるという事になる」
「うん?…うん」
返事はするが、何となくわかっていなそうな冬威に遠まわしな言い方でなくダイレクトに伝えたほうがいいと考えて一度ちらりと周囲を確認し、ジュリアンはさらに声をひそめた。
「人が生活できるという事は、簡単に考えて人が生きることが出来る条件がそろっているという事。そして建物があり、風呂や病院といった施設があるという事は、そこを拠点とすることが出来れば安全なセーフゾーンを作れるという事」
「??」
「…分からないかな?攻め込むとしたら…いや、攻め込まれる側の場合。そういう施設がある場所はある意味脅威なんだよ。長い距離を遠征してきた兵士と、体を休めて準備万端の兵士だったら、相手にする場合難易度が変わるからね。だから村ではないとしても、相手を監視する拠点が国境を超えた向こう側にもあるはずだと思うんだ」
「それなのに地図に載ってないの?なんだよ、相手を信じてないってことなの?」
「軍事機密というものは、信じる、信じないじゃないんだよ。…日本はその点恵まれていた。島国であるという事は、簡単に国境を侵略されることがないという事だ。でも、そんな国でさえ境界線はあいまいで、他国と奪いあっている場所もあっただろう?」
「たしかに」
「どちらの主張が正しいなんてわからないけど、いつか国のトップが変わったとき、その関係性も変わっていくかもしれない。そしてこの国、この世界を考えると、地球よりもっと過激な事が起こってもおかしくはないんだ。だから安全策として、王都に赴いてビザの発行をするべきだ、という話になったんだ」
「じゃあ…戻ったほうがいいのか?」
もう何が何だかわからなくなってきた冬威は困ったような、泣きそうな、変な顔でジュリアンを見る。こちらも渋い顔をして何やら考え込んでいたが、時間があまりないという事を考えるとこの後ヘレンたちのところに戻るという選択はだいぶ時間をロスする事になるだろうと考えた。
「いや、進もう。あの国はもしかしたら敵じゃないかもしれない。でも、僕たちに刃を向けた相手の懐へ、戻っていくことはない」
「そうだよな…」
荷造りはシルチェたちに話を聞いて、手伝ってもらえるなら手伝ってもらおう。ダメだと言われたら潔くこの身1つで出ていくしかない。恩を作っても返せないかもしれないし、あまり巻き込んでしまいたくはなかった。
そんな話をして、シルチェとトズにも言おうと話を固めたとき。
“ザワ…ザワ…”
ジュリアンはふと視界に隅に入っていた窓の外の木々が、揺れているさまが目についた。
「…?」
顔をそちらに向けて窓の外を見つめるが、別に動物がいるわけでもなく、木々がユラユラと揺れているだけ。風が吹いているのだろうその揺れは別に激しいものでもなく、不自然な点は見当たらない。
それでも何か、心がざわついた。
なんだろう?
外に出てみようかと顔を台所からダイニングへのぞかせる。その行動に、冬威はシルチェとトズに話をするのだろうと考えて、ジュリアンの後を追うように部屋を移動しようとした時だった。
「しまった!」
トズの慌てた声が耳に届く。その声にはじかれるように立ち上がったシルチェが、そばに立てかけてあった自分の武器である斧を担ぎ上げた。
「トズ!まさか見られていたのか!?」
「寝ぼけてんのかい、シルチェ!んなわけないだろう!私がそんなヘマするものか!」
「じゃあ…」
「木々のざわめきが、中心部まで届いちまったんだろうさ!」
「なんてことだ。数日のうちに片づければ問題ないと思ったが…」
ジュリアンと冬威は声をかけようとした声を飲み込んで、慌てた様子の2人を見ていた。
何が起きたのだろう?もしかして、また裏切られるのだろうか。
先ほどの会話では、自分たちの名前くらいしか情報を与えていなかったはずだけれど…と考えていると、クルリと2人がそろってこちらを向き、ジュリアンと冬威を見つめる。
そのどこか鋭い視線に押されるように1歩あとずさった。
今日は山の日ですね。
お盆休みに物語のプロットを少し詳細に書き直そうかと。
更新頻度は変わりませんよ。
…今まで箇条書きみたいなものしか作っていなかったので。
何か便利なツールでもないだろうか…。




