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078 絆、そして拒絶【スキル「献身:スケープゴート」】

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スキル「献身:スケープゴート」鑑定結果

リンク使用者が受ける影響を肩代わりする。

これはダメージに限定されるものでは無い。


ただし、リンク発動時に限定される。

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スキル「献身:自己治癒強化」鑑定結果

自身のダメージの治癒力を高める。


ただし、リンク発動時に限定される。

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崖から落下した後。

渓谷の間を流れる川はまるで雨が降った直後のような水量と勢いで、2人の身体を押し流した。

まわりは切り立った崖の壁。時折川から顔を出しているのは大きな岩で、しがみつくには表面はスベスベしすぎている。何とか流れる体をどうにかしようと試みたジュリアンだったが、冬威を抱えたままでは彼の気道を確保するためにあおむけになるように彼の身体を固定して、流れに乗って流されることしかできない。


せめてどこかに捕まることが出来れば、身体を水から上げることが出来るかもしれないのに。

水に浸かっているとだんだんと体温と一緒に体力も奪われていく。

懸命に周囲を見渡すがそんな場所は見つからない。かじかんでくる手から握力が抜ける。懸命に冬威の身体に腕を巻き付けて、彼を放さないように抱え込む。


しばらくそのままで何度か意識を飛ばしかけて、やっと流れる川の両側の崖が低くなってきていることに気づいた。しかし僅かな距離ではあったが既にそこまで泳いで行く体力は残されていない。比較的安全そうな浅瀬へ腕の中の命を押し出す様に送り出し、ジュリアンはぼんやりとしたまま水の流れに身を任せた。



**********



「途中滝もあってね、もうダメだって僕自身、何度も思ったんだ」


再び冬威が目覚めた時、あたりはまだ薄暗かった。しかし夜になる時間帯ではなく、もう間もなく夜明けになるらしい。雨脚は弱まっているようだが、まだパラパラと雨が地面を打つ音がしていた。

しかしそんなことはジュリアンの発言の前にまったく気にならない。


「たき…って…それってどんな…」

「その名のとおりだよ。まぁ、それはどうでもよくてね」

「良くないだろ!?」


冬威が倒れていた川はまさに日本の急流のようだった。岩がごつごつと水面から顔を出していて、そのおかげで様々な流れが生まれてグルグルと水が渦を巻いている。そんな川に存在する滝が、サラサラとまっすぐ落ちるようなものだとは思えない。それこそ岩に当たって流れが分かれるような激しい物を想像し、そんな滝を落ちたら頭がかち割れるんじゃないか、というような想像に顔が青くなってしまう。条件反射のように、慌てて身を乗り出してジュリアンの頭部を確認してしまった。

そんな冬威に、ジュリアンは苦笑いを浮かべる。


「どうして?今僕は元気だよ。そして君とまた会えた。それで十分だろう?」

「そう…なのかもしれないけれど…」

「良いんだよ。確かにちょっと危なかった。でも、君が助けてくれたんだよ」

「俺が?…でも何も…」

「自己治癒強化。さっき君に鑑定してもらっただろう?新しいスキルさ。…君がリンクを発動した時、光は見えなかったかもしれないけれど、ちゃんと僕とつながったんだ。おかげで自分の怪我や体力を、自分の力で回復させることが出来た」

「それって…もし俺がリンクを発動していなかったら…」

「…さぁ。でもたぶん大丈夫だったと思うよ。致命傷は受けないように一応ガードしていたし、寒さで立ち上がれないくらいだったから」


目を伏せたジュリアンは何事もないというような声色でサラリと告げた。しかし、目が合わない、それだけで冬威はジュリアンが嘘をついている気がしてならない。最悪死んでいたかもしれない。しかしそんなことを問い詰めるなんてできるはずもなく、ジュリアンの言う通り、大丈夫だったのだから気にしないようにしようと深く息を吐き出した。その溜息をみて何を勘違いしたのか、一瞬ハッとした表情を浮かべる。


「あ、気が利かなくてごめん。喉乾いただろう?今水を汲んでくるから」

「いや、大丈夫…え?汲んでくる?何処から?」

「川だよ?」

「あれ?でも生活魔法…」

「あぁ。それでも良いんだけれど、生活魔法の水って普通に普通の水でしょう?自然の中のきれいな水があったら、そっちの方が良くない?」

「えぇ…っと」


別に飲めればどっちでもいい気がするけれど、自然の湧水はうまいとも聞く。ポカンとした後考え込むように眉を寄せて難しい顔をしている冬威を見て、ジュリアンは小さく笑ってから席を立った。


「すぐそこに川があるんだけれど、水が湧き出ているポイントがあるらしいんだ。沸騰させてから飲む、なんて事しなくても大丈夫みたいだよ」

「あぁ、一応ギルドでの生活中も井戸水使う時は、日本に居た時に聞いた『海外で生水は危険だから一度沸騰してから使う』ってやつ実践してたんだよな。…でもあれ、いちいち面倒だったからしなくていいならそっちの方が良いな」

「ハイテク技術に慣れてしまうとそう感じるよね。でも手間を惜しんで体調を崩すのは愚かな事だと思うよ」


そう言って水瓶を手に外へ向かおうとする。そんなジュリアンについて行こうと冬威も立ち上がったところで、ふと当然の疑問が脳に浮かんだ。


「あれ?…そういえば、ここって何処?」

「川を流れた先の森の中だよ」

「そんなところに、家が?…ってか、そうだ!俺誰かに襲われたんだよ!」

「襲われた?」


出入り口に向かって歩いていたジュリアンは足を止めて冬威を振り返る。怪訝そうな顔をしているが、すぐに何やら思いついたようで「あぁ」と言いながら頷く。そして何かを話そうと口を開いたとき、ノックもなしにジュリアンの背後の玄関らしい扉が開いた。


「っ!?」


がっちりとした大きな体躯に、大ぶりの斧を担いでいる黒い服の大男だった。まるで熊の様な存在感とその大きなシルエットに驚き、警戒をあらわにする冬威。冬威の方を向いていたが、音に気付いて振り返ったジュリアンはドアを開けた人物を見て軽く頭を下げた。


「おはようございます」

「あぁ。…起きたのか」

「おかげさまで。改めまして紹介します、彼が僕の連れで、探していたトーイです。…トーイ、彼はこの小屋の主様だよ」

「ど、どうも」


何となく聞いたことがある声な気がする。と考えてハッとした。

そうだ、この声は川で声をかけた人だ。…いや、でも、何となく違う気がする?声は似ている。でも…何かが違う気がする気がする。うむむ。


胸の内によくわからないモヤモヤを抱えながらも、ジュリアンが警戒していないならときちんと姿勢を正した冬威は、もう一度しっかり頭を下げた。

挨拶と感謝は人として出来て当然。しかも助けてくれた人であれば、なおさら礼儀は尽くさねば。


「冬威です。助けてくれ…たんですよね?ありがとうございました」


冬威の後頭部をじっと見下ろしているらしい小屋の主。まるで圧力でもかかっているかのような気がして、下げた頭をあげられない。どれくらいそうしていたのか分からないが、フッと視線をそらしたその人は、何やら納得したように数度頷き、満足そうな声をだした。


「…あぁ。場所を提供しただけだ。気にするな」

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