070 王都、そして旅【ヘレンたちの話を】
ヘレンたちの話を要約すると、召喚陣が発動したエリアが特定出来た。帰るべき方向が決まったので、そこへ向かうために一度王都へ向かってほしい。
魔獣部隊の調査目的という名目で国の外に出るために、魔獣部隊のエリックが同行する。
これは2人だけだとペニキラから帰還しないだろうという事を考えての配慮だった。この世界では国内での引っ越しは出来ても、国をまたいでの移住は何か特別な理由が無い限り認められていないらしい。
ちなみに、孤児だったり明確な住所が無い人は、生まれた場所、今現在生きている場所が自国という事になる。この場合、ジュリアンと冬威の2人は、ファルザカルラ国で冒険者登録をしたので、データ上はファルザカルラ国の民という事になるらしい。
今回エリックが同行する理由は、旅を終えたその時にこの国に帰還し、報告をする人が居ないといけないというわけなのだ。紹介状は出発する際にエリックに持たせるという事で決まった。
彼は軍の魔獣部隊でヘレンの付き人に近い地位に居るメンバーなのだが、脳筋のコーダとは違い文官に近い存在らしい。そして見た目通り、研究が得意で戦いでは前に出るより後ろで支持を出す司令塔の役割を果たす。
そんな彼だからこそ、研究の一環としてアカアカを目指すという嘘の旅目的に真実味が出るというわけらしい。
出発を3日後と決定して簡単に情報を整理したあと、冬威とジュリアンは一度宿としている冒険者ギルドに戻ってきた。
まずは必要なものを書き出して、エリックとコーダに聞いたお店で必要なものをそろえて…と話しながら扉を開く。
「あ。まってましたよぉ。お話しは何だったんです?」
キィと小さな音を響かせて入り口のドアをくぐった時、中にずっといたらしいシャロンがパッと立ち上がってこちらにかけてきた。町の門の所で別れてから今まで、2人の帰りを待っていてくれたらしい。特に約束をしているわけでもなく、そんなに心配された事も無かったので少し驚いたが、何となく出迎えてもらえると心が暖かくなる気がして自然と穏やかに微笑む。
この町を離れることになるのだから、冒険者としてついていてくれた彼女にも報告はしておくべきだろう。
冬威がチラリとジュリアンを見ると、彼も冬威に視線を向けて、コクリと頷いた。話すべきだという事だろう。
「実は、色々あって俺たちこの町を離れることになったんだ」
「え?そんな急に…出発はいつです?すぐですか!?」
「一応3日後に出発するって決まったんだ」
「その間は、必要なものをそろえたりと、旅支度ですね」
「じゃあ、その間はクエストも受けないんです?」
「そうですね。長旅になりそうなので、資金を稼ぐのはやぶさかではないのだけれど…何分時間が…」
「そう…ですか…」
何となくショボンとした様子の彼女にパチリと目を瞬かせると、ジュリアンは少し声の音量を下げて問いかけた。
「シャロンさんは僕らの事をどれだけご存知ですか?」
別に意識して秘密にしていたい話でもないのだが、ヘレンやデルタの様子からしてどうやら隠しておいた方が良いと判断しているようなのだ。主要な部分を抜いたそんな質問に対して、彼女はさっと周囲を確認するように視線を散らす。その動作で、秘密にしていることをある程度把握しているのかもしれないと察知したジュリアンは此処で会話を続けるのはマズイと判断した。
「トーイ、僕らがこの町を出ることはデルタさんにも報告をするべきだろう」
「そうだな。あの人のおかげでここの宿借りられてるわけだしな」
「今時間が取れるか聞いてくるよ。シャロンさん、説明はその時一緒にさせていただきます。構いませんか?」
「そうね。わかったわ」
どうして?と聞いてこないあたり、やはり彼女も冬威たちが幻と呼ばれる地から来たことを把握しているのだろう。ジュリアンは2人をその場に残してカウンターの方へと近づいていく。すると、ずっとこちらを見ていたのか、水色の髪に、水色の瞳の受付嬢、レイリスと視線がすぐにぶつかった。
「ギルドマスターへご用事ですか?」
何やらただ事ではなさそうな雰囲気を感じ取ったようだ。完全に近づく前にそう問いかけられると、ジュリアンは彼女の瞳をまっすぐ見つめ返してコクリと一度頷く。それだけで何やら重要な何かがあると察したらしいレイリスは、席を立った。
「お部屋に居るはずです。確認してきますので、しばらくお待ちください」
「よろしくお願いします」
そして待つ事数分。ギルドで冒険者登録をした時の様に、彼女に呼ばれてジュリアンと冬威、そしてシャロンの3人はギルドマスターの部屋をノックした。
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帰還の報告をしにいったのだが、デルタはあらかたの事情を知っていた。どうやらヘレンたちと密に連絡を取り合っていたようだ。
「まぁ、故郷に帰るってんじゃ引き留めるのも野暮ってもんさ。餞別って訳じゃないが、出発まではここの部屋を無料でそのまま貸してやるよ」
「ありがとうございます」
「おぉ!ばあちゃん太っ腹!」
「トーイ!そんな言い方…」
「ハッハッハ、元気なことは良い事さ。相手を選んでいるようだしねぇ」
「だと…いいのですが…」
ポンポンと決まっていく出発の事。その間シャロンは、同じソファーに腰かけていながら、一言も発することは無かった。




