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068 王都、そして旅【初めてこの国に来た時に】

初めてこの国に来た時に見ていた建物。魔獣部隊の本部へ再びやってきた2人は、エリックに先導されるままに足を踏み入れる。彼はたまにチラリと背後を窺って2人がついてきているのを確認するが、それ以外は会話も無く、ズンズンと中を進んでいった。


暫くして1つの部屋の前に立つ。

あぁ、これは見覚えがある。確か部隊の隊長の部屋だったと記憶しているが。


「失礼します、彼らを連れてきましたよ」

「あぁ、待っていたよ。入ってくれ」


軽いノックの後で扉の向こうに声をかけると、女性の声で入室の許可が下りた。中に居たのは予想通り、ヘレン・リュートミラ隊長。いかにも偉い人が座りそうな豪華な椅子に腰かけて、肘を机の上につき、手を組んでその上に顎をのせている格好はさまになっている。そして側にはあの時の様に、コーダが立っていて、隊員というよりは貴族と護衛といったような関係性にも見えないこともない。


ジュリアンはここで、ずっとついてきていたシロたちをどうするべきかと足を止める。外で待っていてくれと言えば、素直に待っていてくれるくらいには賢い子なのだが、視線を足元に下げた時にはすでに室内に入ってしまっていた。そしてそれを室内の人がとがめる様子も見られないことで、まぁいいかと足を再び進めた。


「おう、2人も。冒険者登録の時以来か。元気だったか?」

「お久しぶりです。はい、コーダさんもお元気そうで何よりです」

「久しぶりだな。今回来てもらったのはほかでもない。私たちが発動させてしまった召喚陣、それの発動したエリアの大まかな特定が出来たからだ」

「本当ですか!」

「あぁ。早速説明に移りたいところだが…エリック、ザウアローレはどうした?彼らについていてもらうはずではなかったか?」

「その話は、また後で。とりあえず彼らの話を先にどうぞ」

「…ふむ、分かった」


そう言ってヘレンが立ち上がると、傍のコーダが筒状に丸めてある紙のようなものを差し出した。ヘレンはそれを受け取って、机をまわりこみ、立っている2人に近づく。丸めた紙を掌に打ち付けるような仕草をしながら2人の前に立つと、ニコリと笑って見せた。


「少し長い話になりそうなんだ。立ち話もなんだし、あちらのソファーを使おう。来てくれ」


彼女が指し示したソファーは、2人が初めて来たときにも使用したものだった。何となく大切な話になると感じて、冬威はチラリとジュリアンへ視線を送る。すると彼も同じ考えを抱いていたのか、パチリと視線がぶつかった。


「「…(こくり)」」


お互いに頷きあってからソファーへ向かう。そして2人が座ったのを確認してからヘレンもその向かい側に腰を下ろした。


「まずは、もう一度謝罪の言葉を。このたびは、こちらの召喚術に巻き込んでしまって申し訳なかった」

「いえ。むしろ僕たちで良かったと思う事に致しました」

「とりあえず話を進めてよ」

「分かった。あの後独自に調査を続けた結果、術が発動したエリアが大体絞り込むことが出来たんだ」

「なるほど。…と言いますか、召喚の術を逆に作用させることは出来ないのですか?召喚の逆なので…転送、とでも言いましょうか…」


今更かもしれないが、とジュリアンが質問を投げかけるが、ヘレンは首を横に振った。


「残念ながら、一方通行なんだ。この術は先人たちがこの魔獣部隊に残してくれた大切なもので、この国の魔法研究機関にも明け渡していない秘術中の秘術。そのため、研究、解析が遅れているというのもある。さらに言うと転送はその機関が専門的に研究している題材でもあるため、召喚術の陣を解析しようとする動きも今までなかったのだ。私たちが不可抗力とはいえ完成させたら、少々まずい事になるのでな」

「大人の事情ってやつですね」

「なるほど。…めんどくさいんだな」


ヘレンの説明に一応納得して見せれば、彼女は申し訳なさそうに微笑んでからエリックを呼んだ。テーブルの側、ヘレンと向かい合っている2人の間に立つように移動すると、ピシリと姿勢を正す。それを確認してから持ってきていた筒状に丸めた紙を広げた。


「これは、世界地図だ。見たことはあるか?」

「無いです」

「図書館で簡易的なものは。ですが、これほど詳細なものは見たことがありません」

「なるほど、まずは説明から入った方が良いかもしれないな。ここが私たちが居る町だ。そして、これがこの国の範囲」


地球にあるような地図とまったく同じとは言えないが、少なくともペニキラで壁に掛かっていた地図と比べると地図と落書き程の差があることが分かる。ところどころ円状に入っているラインは、おそらく高度を示すものなのだろう。

地図に関して必要最低限の知識がある2人は、この町の周りには結構山が多いようだと把握する。しかもこの町自体、山の途中の平地を利用した場所にあるようだ。あまり坂があるように感じなかったのだが、まだ町を出たことは数回しかない。反対側は結構急な坂になっているようだ。

と、ヘレンの説明を聞きながら確認もかねて地図を目で追っていたが、ふと彼女が発言を止める。どうしたのだろう?と、冬威とジュリアンはそろって顔を上げた。


「理解しているようだな」

「…?」

「地図の見方だ。これは、かなり詳細に書かれている物の1つで、本来ならば厳重に保管しておかねばならないデータだ」

「…地図、ですからね」


彼女の言葉で何やら納得したジュリアンは小さく頷く。それとは対照的に冬威はコテンと首を傾げた。それを感じてジュリアンが隣を見ると、理解できないという強い視線とぶつかる。

ジュリアンはスッと手を伸ばして、地図の上に指を這わせた。


「見て。ここが僕らが今いる場所。この山の向こうには何がある?」

「え?…こっちは…あれ、でもこっち側がこの国で…って事は、外国?」


冬威の言葉に頷いたヘレンがにっこりと笑う。


「そうだ。この町は、ある意味辺境に位置していて、すぐ隣は他国となっている。幸いこちら側の国とは仲がいいため、あまりいざこざはない。だが、これが戦争をしている敵国だったりすると、地図の重要性が分かるのではないか?」

「あ。…で、でも、地図って簡単に作れちゃったりしないんですか?アプリ…は、GPS無いからダメか。でも上空から写真撮ったり…」

「トーイ、カメラといったハイテク技術はこの世界にはない。少なくとも、ペニキラでは見ていないよ。でも。…確かに飛行能力があれば、上空から書き写すのは可能だね」

「フフッ。その飛行能力を持っているのは、我々の方だがな。翼をもたない人間が、空を駆けるには別の存在の力を借りるしかないのだ」

「つまり、スキルでは飛行不可、という事ですね」

「あぁ。少なくとも、今まで発見されたと聞いたことはない」


風を使って空を飛ぶ、など物語では結構簡単に魔法として主人公は使っていたけれど、ここではそうとは限らないのかもしれない。第一、冬威は魔法が使えない。スキルはゲットしても、魔力適正がないのだ。泣くしかない。

そんなタイミングでヘレンは手を軽くたたいた。


「すまない、脱線してしまったな。話を戻そう。教えたかったのは君たちが目指すべき地点。故郷であり、ゴール…だ。だが、そこへ向かう前にまず、王都へ行ってもらいたい」

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