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060 牙、そして刃【『おのれ!愚かな人間どもめ!』】

『おのれ!愚かな人間どもめ!』


グルグルと不機嫌に喉を鳴らす黒い竜は、先ほど見かけた白い存在を思い返す。

ふさふさの毛並みは艶があり、人間に使役されているようだったが不当な扱いを受けているわけでは無いようだった。しかし「失われた存在」と言われていたその個体を見て、思わず怒りが意識を支配してしまったのだ。

それなのに、あの白い存在は2人の人間を先導し、別の人間と合流して、龍の足を止めた。


『…』


もしかして、何か見えない鎖で人間にし場られていたのだろうか。竜は油断していたわけでは無いはず。しかし分かりきった攻撃を避けられなかった。

いや、攻撃ではないか。閃光弾と臭い消し、反撃ではなく逃走を選んだという事か。一度目を閉じてから長い首を軽く振って、ゆっくり瞼を開けば光によってつぶされた視界が回復していた。


『姑息な手を…。だが、我から逃げるなど…』


と、再び追走を始めようと少し離れた3つの気配を追う為に首をそちらに向けた。あの程度の処置では、知能が高く人の言葉すら理解する、高い能力を持つこの竜をごまかすことなどできない。距離は少しひらいたが、竜の飛行スピードの前ではたいした問題ではない。大きく伸びをするように翼をゆっくり開いてはためかせれば、風が木々を揺らした。


「ワン!」


しかし飛び上がる寸前で聞こえた犬の声にピタリと動きを止める。そしてさっと首を声のした方に向けた。


『おぉ!おぬしは…まさしく『風の子』ではないか』


驚いた様子の竜を見ながら、戻ってきた犬『シロ』はその場にお座りをした。まっすぐに首を竜に向けて、尻尾を一度ぱたりと振る。


「クーン?」

『おや、おぬしはまだ喋れぬか。音として発せることは出来ずとも、意志を相手の脳内に直接送信する事ならできるのではないのか?』


実は普通の魔獣ではないシロは目の前の竜が何を言っているのかは分かっている。しかしそれがどういうものなのかは理解できずに、シロは首をコテンと倒してから横に振った。それを見て少しばかり表情を緩めた様に見えた竜は、その場に身を伏せるように低姿勢をとり、顔をシロに近づけた。無意識にか意図的にか分からないが、竜が鼻から息を吐き出すとブワリと風が巻き起こって白い毛並みを揺らす。もし攻撃の意志があったらふっ飛ばされるどころではないだろう。しかしシロには怯えた様子はなく、当然竜の方も傷つけるつもりは無いようだったが、突然の事で驚いたらしいシロの尻尾はブワッと膨らみピンと立ち上がった。


『フフフ。そう緊張せずとも大丈夫だ。我がしっかり教えてやろう。だがそれよりもまず、話してほしい。何故人間などに付き従っておるのだ』

「ワン。ワンワン」

『ふーむ、人間の側が居心地がいいと?』


明確な言葉ではなく、気持ちを読み取ることで何を言いたいのか判断した竜は、それを言葉にして尋ね返すことであっているかどうかを確認する。すると元気よく何度も頷き始めたので、それほどまでにあの人間が良いのか?と考えながら意識を3人の方へ向けた。

いったい誰になついているのかは分からないが、一番強く発せられている意識を読み取ろうと集中させると、情報として流れてきたのはザウアローレの「竜を従えたい」という人間特有の欲にまみれた感情だったため、無意識のうちに顔が嫌そうな表情に歪む。恐らく3人の中で一番明確で強い意識だったためにそれを受信してしまったようだ。しかしそんな事分かるはずもない竜は、とっさに魔力を喉に溜めて、白い炎を吐き出した。


“ゴウッ!!”


熱風が周囲の空気をかき混ぜながら、白いボールのように見える炎の玉はきれいな放物線を描いて飛んで行った。とっさに『そういえば白い存在がなついている人間だった』という事を思い出したおかげで直撃コースはギリギリ避けたが、さすがに驚いたシロは飛び上がって後退し、木の影に隠れてしまう。


「キャン!」

『スマヌ。いや、なんでもない。痰がからんでな。年寄りはこれだから…』

「ワン」

『案じてくれるのか?優しいやつよ。どうだ?我と森で暮らさぬか?今は懐かしい存在を感じたせいで人間の住む場所に近い場所に出てきたが、本来はもっと深い森の奥に居るのだ。そこならば、人間に脅かされることもない』

「ワンワン!」

『おぉ、そうであった。おぬしはお気に入りの人間がいたのであったな。…では、そいつも一緒に連れて行くと良い』

「クーン…」

『何々?自分では運べないと?…そうさな。あまり気は進まぬが、我が運んでやろう』

「ワンワン」

『人間の仲間?それはダメだ。お前のお気に入りの1体のみ。それ以上は森の安全が守られない』

「ワン?」

『人間は群れると厄介な事を仕出かす生き物なのだよ。1体で居ればそうでもないのだがな。…まぁ、群れで生活する生物だ。その習性は分からんでもないが』

「ワン!ワンワン!」

『おぉ、人間の場所まで案内してくれるのか。では頼もうかの。3体もいるとどれが目当ての者か分からんでな』


さてと。あまり長時間ここで話し込んでいるのはあまりよろしくない。人間を連れて行くにしろ、行かないにしても、これ以上の話し合いは場所を移す必要がある。竜は長い首をいまだ追いかけている3つの存在の方に向けて翼をはためかせるが、白い犬が歩き出した方向はそちらとは逆の方向だった。


『…おや?』

「ワン?」


正反対の方向へ移動しかけて、2匹同時に振り返る。そしてお互いの視線がぶつかった瞬間に、何やら根本的な勘違いをしていることに竜は気づいた。

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