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056 パーティー、そしてレッドライン【背の高い木々は】

背の高い木々は簡単に視界を遮り、方向感覚すら危うくさせるが、もうもうと立ち上がる砂埃で目指す場所が分からなくなることは無かった。

黙ったまま前に進みながら、冬威は先ほどの事を思い返す。今考えると初めてジュリアンに言い返したかもしれない。じゃれあいではなく、本気で。頭に血が上っているのか?自分は冷静じゃなかったのだろうか。

でも。


「人を助けたいって思うのは、おかしい事じゃないよな」


そうだ。自分は決して間違っていない。そうつぶやいた冬威の声に、追従していたシャロンが応じた。


「間違ってはいないと思いますが、好き好んで問題に首を突っ込むのはどうかと思いますよぉ」

「うおぉ!?」


後ろから誰かが追いかけてきていることは音で分かっていたが、なんの疑いもなくジュリアンだと思っていた。自分で突き放しておきながら、彼は自分を見放す事はしないと確証はないままに何となく思っていたのだ。顔をひねって後ろを見れば、シャロンが冬威を追走し、音もなくシロもついてきている事に今気づいた。探した姿が無い事に、自分でおいてきたことを棚に上げて少しばかりがっかりする。


「…なんでシャロンちゃんが?」


ジュリアンは如何した?とは聞くことが出来ずに走りながらそう聞けば、彼女は若干呆れた様に軽く肩をすくめて見せる。


「追いかけてくれって依頼されましたぁ」

「追いかけてって…ジュンに?」

「えぇ、ジュリアンさんですよ。自分はその場に突っ立ったまま、ワンちゃんにまでお願いしていたみたいですけど」

「シロ…」

「あ、誤解しないでくださいね。確かに依頼されましたけど、それとは別に私は純粋に心配だったんです。一応先輩ですからね」


あ、シロは自発的に追いかけてくれたわけじゃないんだ。なんて少しばかり寂しく感じるが、シロは主をジュリアンと思っている様子だったし何となく納得もできる。だが、ジュリアンが追いかけてこなかったという事に得も言われぬ寂しさを覚えた。この時の冬威はリンクを発動した事は分かっているが、このせいで彼が動けない状態になっていることに気づいていない。

ホウと小さくため息を吐いた様子を感じて、シャロンは優し気な笑みを浮かべる。ここで言いくるめて自分と一緒に居る時間が増えれば、このゴタゴタが終わった後も2人切になる機会も増えるだろう。それに、自分が声をかけてすり寄ってこなかった男はいない。自慢じゃないけど、持てるのだ。そんな自信を持っていたシャロンは、いつも通りネコナデ声のような甘い雰囲気を意識して作った。


「ところで彼って、兵士だったって言ってましたけど、本当ですかぁ?」

「え、そうだよ。初めて会った時も兵士してたし。超兵士だったし」

「でも、それにしてはちょっと弱くないですか?」

「…え?弱いって?戦う機会なんてあった?ジュンが戦ってるとこ、見たことあるの?」

「いえ、実力という面ではまだ無いですけどぉ。ただ、気持ちというか、メンタルっていうかぁ…」

「何?何が言いたいのか分からないんだけど」


やっぱり走っている状態では流し目だったり腕を組んで胸を強調させるポーズも意味をなさない。だって彼はこちらを見ていないから。一瞬だけ無表情になるがすぐさま作戦を変更してシャロンは口を開く。


「ジュリアンさんより、トーイさんのほうが格好いいっていうか、頼りがいがあるかな?って思って」

「それは…」

「迷惑じゃなければ、色々お話し伺いたいんですけど。この後どっか行きません?2人だけで…」


この時シャロンは勘違いをしていた。

ジュリアンと冬威の2人は幻の地から来たと言われていたが、それを素直に信じていなかったのだ。召喚されたのは本当のようだが、それで出てきた地名が幻の地など素直に信じることは難しい。どっか田舎から出てきて、何となく出身地を偽ってる中二病を患っているような人たちだろうと思っていた。それでも地方に行けば知らない魔法などもあるかもしれない。だから話しかける。彼らが本当にこの地の事をまったく知らないとは思っていなかった。だからこそ、この毎年の恒例行事となりつつあるレッドラインの討伐作戦なんかで死者なんて出ないという事を知らないなんて分からなかったし、今一生懸命に走っているのだってジュリアンといるのが気まずくなったくらいにしか思っていなかった。

だが冬威は違う。純粋に地震と砂煙を見て、人命が危ないのではと思っていた。何が起こっているのか分からないし、何が出来るかもわからないけれど、一刻も早く駆け付けるべきという状況でツラツラと自分を誘うようなシャロンにここで初めて不信感を覚えたのだ。

しかし。


互いの考えをお互いに発する前に目的としていた地に到着する。それを教えたのは空気に漂ってきた血なまぐささだった。


「っ!?」

「何の匂いだよこれ…」


何かが違う。いつもと違う。ここにきて初めてそう感じたシャロンはその場にピタリと立ち止まる。その気配を察して、数歩離れた場所で冬威も立ち止まった。

まだ砂埃が舞い上がる場所までは少し距離があるようだ。

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