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054 パーティー、そしてレッドライン【レッドライン内側の危険地帯】

レッドライン内側の危険地帯。狂暴化した魔物が暴れる森を高ランク冒険者がかけていく。


「そっちに行ったぞ!」

「任せろ!シールド用意!」

「…誰か1人来てくれ!抑えるのにパワーが足りない!」

「怪我人は下がれ!動けないものはいるか!?」


普段はバラバラで活動している冒険者たちも、こういった事態にはある程度連携して処理に当たる。今回即席の冒険者チームをまとめているのはランク6以上の冒険者だった。


「だいぶ落ち着いてきたようだ」

「そうだな。そろそろ昼に差し掛かる、ひと段落ついたらいったん休憩を挟もう」

「了解。…今待機している奴は後方へ下がれ!休憩をはさむぞ!」

「その間に偵察隊は周囲の確認を!」


いつも通りの事態に、いつも通りの対応をしていく冒険者たち。


“ガルルル…”


だから彼らは気づかなかった。遠くから彼らを観察するように凝視している2つの瞳に。



**********



あたりをキョロキョロ見渡して、時折かがんで草を触る。そんな動作を繰り返した後でザウアローレとシャロンからは会話が聞こえない位の距離が離れた。その場で獲物を見つけたらしく、何やらゴソゴソと打ち合わせをしてからパッと走り出す。


「トーイ、右から追い立てるよ!」

「おっしゃ来ーい!」

「シロ!外側から回り込んで!」

「ワン!!」


果たして犬に人間の言葉が理解できているのだろうか?

ザウアローレはそんなことを考えながらもジュリアンとシロのコンビネーションを観察していた。大振りと思われるほど大きな手の動きで指示を出しているらしい彼、そしてそれを受けて縦横無尽に駆け抜けるシロ。ジュリアンは剣を抜いているが、直接的な攻撃をしかけるのではなく獲物を追いかけるように回り込む。ブンッと大きくふるうと、その音と影に反応して草の中を何かが動き、葉を揺らして走っていく。そして明後日の方向に逃げようとすると、手を伸ばして何かを発射し、進行方向に着弾させて牽制。そして素早さが一番あるシロにそれでもカバーしきれない穴をふさいでもらいながら、冬威が構える場所に追い立てる。


「行くよ!2匹!」

「2匹!?」


ジュリアンの言葉通り、冬威の目の前に飛び出した影は2つあった。ぴったりくっついて走っていたのか、動いている様子が1つしか把握できていなかったため、驚いて一瞬動きが止まってしまう。それでも慌てて剣を振れば、真正面に向かってきていた1体は仕留めることに成功。


「もういっちょ…ぬぉ!シロ!」

「グルル」


慌てておいかけようと身を翻したところで、行く手を遮るようにシロが飛び出しうち漏らしたスモールラットを仕留めた。思わずシロを踏みそうになってたたらを踏んだ冬威をしり目に、シロは嬉々として捕まえたラットをジュリアンへ持っていく。そしてまるで「褒めて」と言わんばかりに尻尾を振った。

スモールラットという名ではあるが、サイズは地球に居るウサギくらいある。これでスモールという事は、もっと大型が居るという事だ。異世界恐るべし。

状況を確認してからそっとシロの頭をなでてやると、嬉しそうに尻尾を振る速度が上がる。そしてシロの口からスモールラットを受け取って、しっかりとどめを刺した。


「…あ。血抜きが必要だったかな?吊るしておくべき?…トーイ、そっちは大丈夫?」

「大丈夫じゃない!…あ、ちゃんと仕留めたよ。でも掻っ捌く部位が…」

「あぁ…臓器ぶちまけちゃったか。こういった場合…どうなるんだ?」


とりあえず、討伐依頼だったはずだ。肉も食えると言っていたから、持って帰れば換金できるはず。でも、どれほどの状態の物を受け取ってもらえるのかは謎で、冬威は先輩冒険者であるシャロンを探した。


「シャロンちゃん!」

「ちゃん!?…な、なんですかぁ?」


冬威とペアを組んだことが無かったため、もしかしたら名をよばれたのは初めてかもしれない。普段は上から目線で呼び捨てにされることが多く、ちゃんをつけるような奴は下心満載なのが見て取れていた。しかし、冬威は特に何も考えずに彼女を呼ぶ。親しい友を呼ぶように。

2人の前で呼ぶのは初めてだが、ジュリアンとの話し合いの時には散々こう呼んでいたため、冬威自身に抵抗も何もあったものではないのだが。


そうして呼びかけに応じて近づいてきてくれた彼女に、結構ひどい状態になってしまったスモールラットを見せて、もっときれいに仕留めなさいよ!と怒られ始めた。案外仲良くなるのが早いな。


「見事なものだな」


さてどうやって保管しよう。とジュリアンが考えていると、ザウアローレが近づいてきていた。彼女と2人でまともに話すのは初めてかもしれない。失礼のないように、とジュリアンは身体ごと彼女に向ける。


「一応兵士やってましたから。小さい獲物であれば、討伐経験があります」

「そうじゃない。…確かに、追い込みの腕はすごかったが、それよりもその魔獣を従える腕のほうが、素晴らしかった」

「魔獣…シロですか?」

「クン?」


側でお座りをしていたシロをチラリと見て、頭をポンポンとなでながら視線を戻すと、何とも言えない視線が向けられていた。


「…この魔獣とは、契約をしていないのだったな」

「契約…はい。特別なことは何も」

「ではなぜ君に従うのだ?」

「え?…なぜ…でしょうね?」


どうしてなの?と伺うように視線を再びシロに戻すが、コテンと首を傾げて尻尾を振るだけ。純粋に疑問に思っての言葉だったのだが、ザウアローレはぎゅっと眉を寄せて少しばかり表情を険しくした。


「なるほど。そう簡単に、教えることは出来ないという事か」

「あの、いったい何が…」

「どうすればいい?」

「…何がですか?」


なんだか彼女1人で話が進んでいる気がする。彼女が何を聞きたいのか、何の質問を投げかけられているのか、まったく把握できない。とりあえず何がどうなってその発言になったのか詳しく説明が聞きたいと思ったジュリアンだったが、この返事も彼女が求めるものではなかったようだ。


「ふっ。分からないか。そうか…知る必要も無いと…」

「…(…ふぅ。もういいかな?スモールラットのせいで左手が血まみれなんだけど)」


表情には胸の内を全く出さないが、もういい加減切り上げたくなってきた。そんな時。


“ズンッ!!”


「うわっなんだ!?」


突き上げるような激しい突然の揺れに思わずみんなその場に蹲る。


「なんだ!地震か!?」

「ジシン!?とはなんだ!?」

「はぁ!?地震しらねぇの!?」


短時間で過ぎ去った衝撃。しかしザウアローレのパニックになったような声に冬威が驚きの声を上げる。えぇっと…と説明しようとした冬威をジュリアンが制した。


「説明はあとだ!なんだか様子がおかしい!森の方だ!」


この言葉に一斉に視線は深い森の中へ向けた。と同時に再び揺れる大地。


「これは…自然の現象じゃないかもしれない…」


ジュリアンの分析を受けて、シャロンがハッとした表情を浮かべ、すくっと立ち上がった。


「今日は討伐の日よ!レッドライン付近で掃討作戦が行われていたはず!」

「場所は!?」

「もう少し北上した地点。遠くはないわ。近くもないけど」

「何か起きたのか?」


と再び大地が激しく揺れた。まるで巨大な何かが歩いているような、そんな感じを受ける揺れに不安感が心に募る。


「ザウアローレさん、魔獣部隊に連絡は…」

「レッドラインの仕事は冒険者達のものだ。下手に部隊が出ていくと分け前が減ると苦情が来る恐れがある」

「状況が良く分からないのに助けを求めるのはまずいわ。頭の固い上の連中はやれ責任がどうだとか、押し付けあうのよ」

「何で!?何か起きてからじゃ遅いじゃん!強い奴呼んで来れば…」


と再び地面が揺れる。そしてバキバキと木々が倒れる音がして、森の中から鳥たちが一斉に飛び上がる様子が遠くに見えた。

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