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051 パーティー、そしてレッドライン【朝。】

朝。

身支度を終えて朝食をとろうとギルド内にある一室から出てきた2人は階段を下りながら言葉を交わす。


「そっちはどう?」

「うん、だいぶ情報は集まったからそろそろ切り上げてもいい頃合いだとおもう。トーイは?」

「順調。…って言いたいけど、やっぱ受けられるクエストが低ランクだからなぁ」

「それでも無一文よりはましだよ。僕もそろそろそっちに合流しようかな」

「マジ!?そりゃうれしいけど、情報収集はジュンに丸投げしてるんだ。あんま無理すんなよ?」

「君もね。それより、今日も彼女たちは…」

「来るんじゃね?」

「でもパーティーメンバーとして登録はしないんだよね?」

「まぁ、シャロンちゃんは冒険者だけどローレさんは兵士だし、俺らに付きっ切りって訳にはいかないんだろ」

「人手が増えるのはいいことだけど、内緒話出来ないのはちょっと大変だよね」

「内緒話、ね」


階段を一番下まで降りた後、ふと立ち止まって早朝という事もあって閑散としているギルド内を見渡す。別に何か探していたわけでもなく、2人はそろって再び足を進め、隣の食堂を目指した。


常にペアで行動していたのにここ数日別れていたのにはわけがあった。

女性2人のチームメンバーが増えたことも要因だが、最大の理由は「独善」と「献身」のスキルの確認だったのだ。


見つけた時点では冬威に説明を求めるタイミングを逃したが、その日のうちにジュリアンはスキルの詳細を調べてもらっていた。


-----

スキル「献身」鑑定結果

独善スキルを一定時間受けている者が、独善スキル使用者をサポートするために必要なスキル

------


説明を見た時は何言ってんだ?状態だったが、その後の検証ではっきりした。

これはスキル独善と対になるスキルのようなのだ。たとえるならば磁力のプラスとマイナスの様に、互いに作用しあうらしい。しかし、この献身単体ではまったく意味をなさないのだが。

いったい何が出来るのかというと、この献身スキルが現れてから、冬威が扱うジュリアンの保持スキルに若干プラス補正が入った…らしい。

何故「らしい」という曖昧な表現しか出来ないかというと、献身スキルが発現する前のデータをあまりとっていなかったからだ。だが、身をもって感じる変化もあった。

一つは何故かジュリアンに出現した生活魔法だ。これは何気に結構うれしかった。生活魔法とはその名のとおり、生活するうえで役に立つスキルだ。例えば掃除だったり、料理だったり。小さな火を起こしたり、飲める水を出現させたり。ただ、殺傷能力ゼロで攻撃にはまったく向かないがあると便利という事で、女性が主に取得を目指すスキルである。これのおかげで飲み水や家事には困らなくなった。何気に初めて使えるようになった魔法な気がするジュリアンである。魔力適正は高いのに何故ほかの魔法は使えないのだろう?謎である。


次に分かりやすかったのが使用後の反動だ。

ペニキラで大型の魔物と戦った後は立てないほど疲労した冬威だったが、今の段階では使用しているリアルタイムで冬威が受ける「疲労」というダメージがジュリアンに与えられるようになった。

つまり、ジュリアンが安静にして体を休めていると、冬威から疲労が送られてくる。そして安静状態の体調が冬威へと送られ、冬威が動ける時間が長くなり、スキル解除後の反動時間も短くなったのだ。


それでも今はまだ2人で疲労を分散しても追いつかなくなるのだが、ジュリアンが疲労回復の術を入手するか、おそらくもっと熟練度が上がればジュリアンが身を休めている限り冬威が不眠不休で活動できるなんてことになるのかもしれない。難点はこの間ずっとジュリアンが動けないことであるが、元兵士だったはずのジュリアンより、リンク状態の冬威のほうが強くなってしまった今、それでもいいかな?と思わないでもない。ジュリアンは元々日本人だし、負けられない!といった兵士としてのプライドなんて持っていないのである。


後はリンク中の光の紐は自分たち以外には目に映らないこと、発動時に2人の距離は特に今のところ制限がない事、リンク使用中もジュリアンが活動している場合は、ジュリアンが使用している能力値の上乗せが無い事が分かっている。


「体調がリンクするなんて、便利なんだか不便なんだかわかんねぇな」

「しかもトーイの不調限定だからね。もし君が風邪をひいても、僕と不調を分散させることが出来れば、それだけ早く治るかも」

「あー。…なんで俺にはそういうマイナスステータスが付かないの?なんだかいつもジュンに痛いとことか移っちゃって、ちょっと申し訳ないんだけど」

「それが勇者の力、なんじゃない?…それに僕、全然気にしてないけど」

「俺は気にするの!あ~…熟練度あげたら今の一方的リンクじゃなくて相互リンクになったりしないかなぁ?…あ、おばちゃん!モーニングセット2つ!」

「あいよ!」

「あ、僕の方は少なめで…」

「おかずの代わりにパンにして、汁ものは具無しだろ?ちょっと待ってな」


食堂にはちらほらと人が居て、まだ数日ではあるが既にジュリアンと冬威は顔なじみになりつつあるようだ。ジュリアンは冬威の馬鹿みたいに高いコミュ力のおかげだろうと勝手に思っているようだが、変に注文付けるジュリアンも覚えられる良い材料となっている。


「クーン」

「おなかすいたのか?シロ」

「ワン」


定位置であるジュリアンの足元に伏せをした犬、改めシロ。白い犬だからシロ。安直である。


「結局名前シロにしたの?」

「うん。簡単すぎかな?って思ったけど、長ったらしい名前だと覚えにくいし、どうせ略して短くしちゃうくらいなら最初から短い方が良いかな、って」

「良いと思うよ。俺も長い名前って覚えられないし。でもジュンは結構そういうの、こだわるように見えるんだけど」

「僕も一応兵士だからね」


だから何だ?脳筋の仲間とでも言いたいのか?だが、資金集めか情勢調査かと2人手に分かれるとなった時、ためらわずに図書館行くといったジュリアンは普通の脳筋兵士とちょっと違うと言いたい。まぁ、冬威は字が読めないから必然的にジュリアンが情報収集に行くことになってしまうのだけれども。


そのあと会話をしながらも食事を完了。さりげなくシロに食事を回すジュリアンは、汁物のお椀に口をつけて食べているアピールをしっかりすることを忘れない。いつかは自分の身体の事を言わなくてはいけないだろうけど、とは思うけれど。


「ごちそうさん!さて、今日もクエスト頑張りますか!」

「ごちそうさまでした。…じゃあ、クエストボードに行こう」


食堂のおばちゃんに挨拶をすませてギルドへと戻る。適度に腹も膨れて、シロもご満悦で後をついてきた。

ギルド内に入ると先ほどよりは人が増えている。皆朝のうちに受注して、1日かけて完了させるというサイクルが出来ているようだ。


「僕が行ってみてくるよ。…難易度はどの程度なら大丈夫?」

「昨日は薬草集めだった。アレ、鑑定でいい出来のやつ見つけられるから結構ねらい目なんだけど、ローレさんが居るとこの事言えなくて…。彼女ブチブチ手折るから品質が普通に落ちるんだよな」

「ふつう…それが普通なんじゃないの?良品ばっかり集めるのも、変に目がつけられちゃう気がするけど」

「そっか!うっわ、金儲けしか考えてなかった。大丈夫かな?」

「まだ数日でしょ?今回は運が良かったな、くらいで済んでるんじゃないかな?これが何回も続くとアレ?って思われるかもしれないけど」

「う…今度から気を付ける。っていうか、鑑定って珍しかったりするわけ?」

「スキルは個人の財産だから、資料もあまり残っていなかった。でも、大規模の商人や、王族付きになるような人には、そういう鑑定眼を持つ人が多いらしい。それか奴隷として囲おうとするみたいだよ」

「商人は分かるけど、なんで王族?」

「国宝とかを管理するみたい。あと、人間に鑑定使って悪い奴を探すとか?」

「うっわ!うそ発見器的な!?」

「詳しくは分からないけど…じゃなくて。脱線した今日のクエストどうするの?そろそろ受注しないと、また薬草しか残らないよ?」

「あぁ、そうだった。別に薬草集めでもいいんだけど…」


字が読めない冬威は、クエストの受注をジュリアンに丸投げしていた。人が群がるボードの前、それを遠巻きに見つめながら腕を組んで唸る冬威。人垣の向こうにあるだろうクエストの依頼書を見るように、視線を右から左に移していき、とある地図が目に入った。先日も同じようにそこにあったけれど、今日の地図には何やら赤い色が書き込まれている。気になった冬威はジュリアンの肩をつついた。


「なぁ、あれ、あの地図なんだ?」

「ん、どれ?」


そう言って指さす先の地図を見たジュリアンは、小さく息をのんでから眉を寄せた。


「危険地帯増加…だって。どうやら魔物の数が増えているみたいだ。あれはここら周辺の地図だよ。赤いラインは…危険領域を示しているらしい」

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