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004 死亡、そして始まり【太陽が頭上に輝き】

太陽が頭上に輝き、青い空が広がっている。

時間帯は昼間で正午に近い頃なのだろうが建物の外に人の気配は少なかった。

近場で起こった非常事態に皆警戒しているのだろう。ジュリアンはフッと息を吐き出してから建物の中に戻る。


「あらぁ?もう彼は出て行ってしまったのね」

「はい。あ、そういえばご挨拶もせずに、すいません」


扉を開ける音に気づいたらしい先ほどの女性が奥から顔を出してきた。この緊急事態をどうにかして中央部の人間に伝えなければ、という思いが先行してお世話になった人への挨拶を忘れていたと慌てると、クスリと笑って軽く手を振った。


「良いのよ。副隊長さんからは昨晩色々お話ししてもらったり避難を手伝ってもらったりしたから。それに今日は首都まで行くといっていたからそろそろ出ると思っていたし」


豊潤な胸を抱き上げるように腕を組んでニコリと笑った。なんでも焦りに焦ったエンリケが日の出と共に馬を走らせようとしたのだが太陽の光が強い方が『悪意の種』に対抗できると話をして日が一番高い所へ上るのを待っていた状態だったそうだ。避難してきた人たちも少しでも早く助けを呼びに行きたいと思っていたが、走った人間が途中で何かあったりしたら来ない助けをひたすら待つようなことになりかねない。

安全第一で耐えていたらしい。


「肝心な時に役に立たなくて、すいません。何か僕に手伝えることはありますか?1人では戦力としても役立たずで…えっと…お医者様?」

「私の名前はエラよ。この町では白魔法使いとして病院に勤めているから、お医者様で間違いではないけれど、まだまだ見習いの段階なの。で、貴方のお名前を聞いてもよろしいかしら?」

「申し遅れました。僕の名前はジュリアンです。まだ新米兵士でして、今回も卒業試験を兼ねた遠征でした」

「そう。…つらかったわよね」


そう問われてジュリアンは視線を足元に落とす。一緒に訓練した仲間たちはあの出来事でみんな死んでしまった。入隊から訓練兵を経て卒業し一人前になろうと共に切磋琢磨した仲間。そのすべてがもういない。確かに残念だという気持ちはあるのだが、八月一日アコンとしての魂が入ったせいかそれほど強い悲しみではないようで、辛かったねと言われても「いえ、別に」が正直な感想であった。だが、そんな事言ったらどれだけ冷たい奴なのかと思われるだろうと考えて、あえて曖昧に濁して微笑む。

するとその笑みを見てエラが頷き、そっと近づいてきて手をするりと肩に伸ばした。


「涙を我慢しないでちょうだい。今だけは己に素直に湧き上がる衝動をぶつけてくれていいのよ?」

「…はい?」

「今はちょうど皆自宅に引きこもっているし、危険だと分かっていて外をうろつく人もいないでしょうからこの病院にも誰も来ないわ」

「あの、何をおっしゃっりたいのか…」

「それに都合のいいことにベッドだけは無駄にたくさんあるのだから、1つくらい汚れて使えなくなっても問題はないの。さぁ、貴方の思いをぶつけてちょうだい」

「いえ、あの、大丈夫ですから!」


かなり強引なアダルトなお誘いを流そうとしてみるが、エラはまったく気にせずにぐいぐいとジュリアンを押していく。このままでは変な方向に流される!と慌てて傍の部屋の扉を開けて中に飛び込み、逃げ込んだ。慌てて閉めた扉があかないように押さえる。


「あぁん、ちょっとなんで逃げるの?」

「申し訳ありません。ですがエラさんの色気が強すぎて僕には刺激が強すぎるんです!」

「だから我慢しないでって言ってるでしょうに」

「ダメですよ!そういう事は、本当に思っている人とするのが良いと思います!」

「いいのよぉ。こんなの夜の運動よ?…もう。こう逃げ込まれちゃったら開けられないわ。やっぱり筋力トレーニングしないとだめね…」


しばらくの間はガタガタガチャガチャとドアを必死に開けようとしていたが、兵としてヘボでも一応男。力の差で扉を死守するとあきらめたらしいエラが扉の前から離れていくのが分かった。


「ふぅ…」


ほっと一安心と息を吐いてから改めて飛び込んだ室内を見渡す。自分が寝かされていた部屋と同じような病室だったが、こちらには壁に世界地図が書かれた絵がかけられていた。


中央にある大きな楕円がこの国で、周りにこまごまと書かれているのが他国である、とこの国では教えられてよく見る地図であるのだが、ほかの世界、特に地球での知識があるとこの地図がおかしいことに気づく。


「確か、この国では南に遠征に行くと寒くなっていったよな。氷ばかりの場所もあるし…ってことは、ここが地球だったら南半球だ。もしかしたらかなり赤道からは離れているのかもしれない。空から見たことが無いから国の広さはわからないけど、ぐるっと海で囲まれてるって分かるくらいには狭い国だしなぁ」


そしてこの国の最北端の町でも1年中長袖が必要なくらいの気温しかない。

何度も言うが、ここがもしも地球だとしたら南半球の小さな島国だといわれても頷ける気がする。

それなのにこの地図はまるで「自分が一番だ」と主張するかのような書き方をされている。鎖国状態のこの国ではこれでいいのかもしれないけれど、もし外との交流が始まったら世界の違いに驚くだろうな。

それに勇者の派遣は他国から腕が立つ人間を招待しているはずだ。いったいこのゴマのような小さいしまのどれからそれほどすごい人間がやってくるというのだろうか。


「こんな小さな国の人の力を借りないといけないとか…おかしいって感じる人は居ないのだろうか」

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