048 従、そして主【「リンク!」】
「リンク!」
5メートルほど離れて立って向かい合い、冬威はスキルを発動させた。
あの時から何だかんだあって、検証できるタイミングはこれが初めて。2回目の発動の今回も、あの時と同じ光の紐が2人をつないで、キラキラと光が流れて行く。それを少し睨むように見ていたジュリアンのそばに、枝を拾ってきた犬が戻ってきたので、軽く頭を撫でてあげてからもう一度放り投げた。
投げた先は少し視界を遮るように生えている繁みの方。こうして犬を使って、周囲に人が居ないか確認をしているのだ。まぁこんなことしなくても植物に触れれば、ある程度体温を持つものを把握できるのだけど。
「…よし。発動はしたな」
「トーイ、あの時は反動があったみたいだから、あまり無茶はしないでよ?」
「大丈夫、今回は軽く動作確認するだけのつもり。何が出来るのか、把握してないと困るっしょ?慣れてきたら、連続使用時間とかも調べないとな」
「そうだけど…僕の方からは発動したり、解除したりっていうのは出来ないのかな?」
「試してみる?…じゃあ、今キャンセルしてみてよ」
「え!?」
そのまんま「キャンセル」と叫んだり、「リンク解除」「発動中止」など、このリンクを切りそうなワードを口にしてみても、まったく反応は無かった。わずかに持っている魔力を使って、光の流れを妨害してみようともしたけれど、まったくの無意味。
そのあと一度解除して、ジュリアンが発動を試みたが、当然スキルを持っているわけでは無いので発動せず、結果、「リンク」は冬威からの一方的な力だという事が分かった。
「まぁ、ステータスに無いからそうだろうとは思っていたけど」
一通り起動確認を終えたジュリアンはギルドカードでステータスを見ながらつぶやいた。あれから文字化け部分は修正してもらい、ちゃんと読めるようになっている。しかし、魔力適正の数字は分からなかったので、一般的な数字である5を入れてもらっていた。ジュリアンだったころは魔力もさほど多くはなく、死を経験した今もそれほど増えた気はしていないので、5でも多いような気がしているが。
ちなみにレベルはさすがに分からないから「非表示にしとけ」といわれて、そうしている。ギルドカードは身分証になるけれど、名前、種族、ギルドランクが見れるようにしておけば、怪しまれないと言われた。そういう情報も、ありがたいものだ。
「それよかさ、なんか俺らおかしくない?」
「スキルのこと?」
「そうそう。ペニキラの国に居た時の話だとさ、頑張った分だけ、努力が経験値になって、スキルになる的な説明だったじゃん?」
「そうだね。僕もそうやって剣術を得たし」
「それなら、俺は運動が得意だから、剣術だってすぐ使えるようになってもおかしくないと思うんだよ」
「うん。僕もね。職人なんてスキルがあるくらいだから、どちらかというと体を動かすスキルより、頭を使ったり技術が必要なスキルが多く取れると思っていたよ」
そう。
あれから1週間で色々教わったり、簡単な訓練を受けたりした結果、2人はスキルを新たに取得していた。普通の人が5個取得できれば凄い方に分類されるのに対し、それはもうポンポンと、思いついたかのようにGETしていく。改めて自己ステータスを確認して剣術が+3になっていたことにも驚いたが、最初の頃はすぐさま入手できるスキルに戦々恐々としていたジュリアンだった。しかし10個を超えたあたりでもう慣れた。慣れって怖い。
しかし、なぜか運動が得意な冬威には全種類の魔法をはじめ、調合や錬金といった膨大な知識や技量が必要なものが現れ、逆にどちらかというと運動音痴なジュリアンには剣術をはじめ、拳闘術、弓術、槍術、軽業、といった身体を動かすスキルが現れたのだ。
それでいて、魔力適正のない冬威は当然魔法は発動せず、調合などは「良く分からない!」とやる気が起きないらしい。ジュリアンも物理適性がないおかげで、頑張ってものにしようとしても体が思うように動いてくれず、結局うまくいかない。
ただ、魔法はスキルがないと使えないが、剣術や調合といったものはスキルが無くても、出来ないことはない。
だがスキルを使うと、どれほど不器用な人が調合しても失敗はしない。というか、スキルのサポートのおかげで失敗が出来ないと言っても過言ではない。わざと下手に作っても普通の出来栄えになってしまうのだ。剣術で言えば木の枝を刃物で切って綺麗な切り口をつくるか、それとも手でへし折ってボロボロの切り口になるかくらいのはっきりとした差が出てしまうのだ。
これは何か?宝の持ち腐れってやつなのか?と昨晩2人で悩んだ。そしてフッと思いついたのだ。リンクを使ったとき使えるスキルが入れ替わったりするんじゃないか、と。入れ替わらないとしても、冬威はジュリアンがもつ剣術を使った経験がある。ジュリアンがもっている戦闘スキルを、自分が使えると半ば確信していた。
再度冬威がリンクを発動した後、スッと2人同じタイミングでステータスを確認した。ジュリアンはギルドカードで、冬威は自分の鑑定で、だ。
「…」
「うぉ~!きた、剣術はじめ戦闘術!ひゃっほい!俺これでかつる!…ジュンは?」
「僕の方には何も変化はないなぁ」
「え?…カード見せて?」
「いいよ」
はい、と冬威にカードを差し出す。それを受け取ってじっと見るが、確かに最初にジュリアンが取得していたスキル以外に増えたものは無いようだった。
「やっぱ独善っていうだけあって、俺だけにうまみがあるスキルなんかな?」
「トーイが術の発動者だからね。魔法でもそうだけど、使用者が不利益を被るスキルは無いと思う。自爆とかそういうもの以外は。だからこれは、仕方ないのかもね」
「ジュン、心配するな。俺が守ってやるからな!」
「…あ、ありがとう」
きりっとした良い笑顔で冬威が言うが、ジュリアンは兵士だったのに。解せぬ。
と思いながらも、どうも戦力はかなり低いらしいジュリアンのステータスに苦笑いを浮かべた。
「でも、僕だって剣術は使えるんだ。足手まといにはならないから安心してよ」
「あ、そっか。…そうだよ!今なら俺も、剣術+3がついてる。ちょっと打ち合いしてみない?」
「…え?」
「俺だって剣術ほしいもん!な?手伝ってよ」
強くなりたいと願い、その手段を望まれたら断れない。
ただ単純に動きたいだけかもしれないが、キラキラする眼差しはとても眩しい。
しょうがないなと言いながら、ジュリアンは一度頷いた。




