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045 主そして、従【『生きているのかい?』】

『生きているのかい?』


と聞かれても、生きてるんだけど、もしかして自分で気づいてないだけで俺死んでるの?としか言いようがない。そんなことを考えながら、腕を組む冬威。まだギルドマスターに呼ばれたあの部屋にジュリアンと2人ソファーに座っているのだが、先ほどまで目の前にいたおばあさんと一緒についてきた軍人は今はいない。

先ほど「どこまで話すか隊長の指示を仰ぐ」と言って出て行ってしまったのだ。冬威達にはくれぐれも勝手にどっかにいかないように、と言い聞かせて。


「うーん…」


唸りながらチラリと隣を見ると、同じように考え込んでいるジュリアンの姿。彼の隣にはちゃっかり白い犬が座り込んでいる。ソファーの上に。とりあえず視線を落として考え込んでいる彼の邪魔をしないように、まずは一人で考えをまとめてみる事にした。


「(俺がジュンの従者…奴隷?…っていうのは理解できるんだけど、俺から頼んだことだし。でもなんでジュンの主が俺ってことになってんだ?意味わかんねぇ。それに自分で鑑定してステータス見た時から魔力に適正の丸はついていなかったんだよな。これってもしかして、魔法が無い世界、地球から来たっていうのが関係している気がする。…あ、でも魔法自体はスキル覚えたな。発動は出来なそうだったけど…あれ?鑑定とかって魔法に入んないの?スキルってのは魔法じゃないの?技術職?…どっからどこまでが魔法何だか分かんねぇなぁ…)」


うーんうーんと唸りながら冬威は首を傾げた。




『人間なのかい?』


と尋ねられて、人間ですよと何も考えずに返事が返せなかった。死体に乗り移ってかろうじて活動出来ている今の自分が、人間というよりアンデットタイプの魔物と言われた方が自分でも納得できてしまうのだ。肉体であるジュリアンとしてみれば、死んでも動いてるゾンビ。乗り移った八月一日ほづみアコンとしてなら、魂だけの存在であるゴースト、といったところだろうか。


「はぁ…」


小さく息を吐き出してちらりと隣を見てみれば、この世界で出会った同郷の彼が腕を組んでうなっていた。彼も彼なりに考えをまとめているのだろう。何だかんだで2人の話し合いの時間は結構あったが、個人で考えをまとめる時間はあまりなかった気がする。彼、冬威にしても、不安をため込むよりは吐き出させた方が良いと考えて、何でもかんでも尋ねてみたりした結果でもあるのだが。

今は冬威に声をかけるのはやめて、自分も自分の考えをまとめる時間としてみよう。もしかしたら誰かに聞かれているかもしれないし。


「(僕がトーイの主なのは、あの奴隷の契約をいじったせいだろう。でもトーイが僕の主というのは…いったいどこで何が起きた?原因をあえてあげるとすれば、トーイのスキル、リンク。あと、あの召喚陣だろうなぁ。…それにしてもまだジュリアンとして生きていた時は、物理、魔力共に適正に丸があったはず。…低かったけれど。やっぱり俺がこの体に憑いたせいで、おかしなことが起こっているんだろうな。データも文字化けして、バグってるみたいだったし。きっと、血のデータではジュリアン、魔力のデータではアコンが強く出て、データが変なことになってしまったんだろう。…いや、実際どうなのか分かんないけど、それ以外に考えられないし。…純粋に2人の力が1つになったと考えると強くなった気分になるけど、適正無くなったしなぁ…)」


誰か、こっちの情勢というか、詳しい知識を持っている人と出会いたい。

ジュリアンは鎖国状態(と思われる)国にいすぎた。外の様子が全く分からない。何度目か分からないため息を吐き出した時、ソファーの上に上がり込んでいた犬が頭をボスッと押し付けてきた。思わずよろけるが反対側に手をついて何とか倒れる身体を支える。


「ワフ!」

「うわっ。…あぁ、お前も如何にかしてやらないとな。あの国に、きっと家族がいるんだろう?こっちの国で野生に返しても良いなら、できるだけ上の人間にお願いして解放してやるんだけど…あ。一応外来種になるのだろうか?」


顔を犬の方に向けると、まるで遊んでほしいというかのようにキラキラしている目と視線が合った。最初にあったときは警戒心丸出しっぽかったのに、どうしてこんなに懐かれた?と心の中で問うてみて、自分のせいだと心当たりを思い出して苦笑いを浮かべ、ワシャワシャと頭を撫でてやる。


このわんこ、実は食事の時間に大活躍なのだ。死体であるこの身体ではジュリアンは食事がとれない。それでも1日2~3回食事の時間は訪れる。1人で食べられるなら抜くことも簡単なのだが、異世界で不安だろう冬威がジュリアンに引っ付いてくるのだ。そのうえ常識というか、こちらの事も分かっていないので無意識に危なっかしい行動をとるもんだから此方は心配で仕方ない。そうすると2人一緒に行動するわけで、確認しなくても、一緒に食事、という行動パターンが決まってくる。シチューのようなドロッとしている物ではなく、コンソメみたいな水に近いスープであれば、誤魔化し誤魔化し口に入れ飲み下す事が出来るのだが、普通に困るのが個体。パンであったり、肉であったり。一度胃に入れて、後で吐き出す、なんてこともしたことがあるが、吐き戻すのは結構つらい。お腹痛い。それにとても勿体ない。

なので、こっそりついてきていた犬に食事を回してあげていたのだ。犬が食べてはいけない野菜類(地球のデータ基準。魔物だからもしかしたら全然大丈夫かもしれないとは思っているが、念のため)などは意識して弾くか、最初から盛られていない物を選んだりしたが、ご飯の時間になると椅子に座るジュリアンの足の間に収まって、餌が貰えるのを待つ、というのがこの犬の行動パターンとして定着しつつある。

勿論、この犬にも専用の餌を与えていたので、暇な時間にカロリー消費と散々走らて運動させたりした。…あれ、遊んであげてたわけじゃないんだけど、あそんでくれる人と思われている気がする。

なつかれちゃったなぁ。


「もう、野生に返すのは無理な気がしてきた…」

「ん?何?なんか言った?」

「あ、なんでも…。…いや、この犬の事でね」


ポツリとこぼした声に反応して、ハッと顔をあげた冬威に誤魔化そうかと頭を回転させて、素直に対応した方が良いか、と苦笑いを向けた。実際可愛く感じるのは本当の事だし。


「犬?…愛着沸いちゃった?」

「うん、そうみたいだ」

「あ~あ。せっかく名前つけないで我慢してたのにな」

「そうだね。でも一応魔物だし、野生に返してあげなきゃって思っているし、それがベストならそうするつもりだよ。だけど…この国で解放しても良いんだろうか?」

「人襲わないっぽいし、良いんじゃないの?っていうか、むしろ駄目なの?」

「ほら、国が違うと外来種とかの問題でさ…」

「あぁなるほど。うーん…どうかなぁ?っていうか、飼っちゃえばいいじゃん」

「自分たちも間借りしている状態だよ?周りの人に迷惑かけてるし、養えるか分からないし」

「そうだなぁ…」


まぁ、食費は考えなくてもいいんだけど。自分の分をこの犬に回せばいいだけなので。でも、なぁ…と2人して最初とは別の、犬の事で悩み始めた時、ガタガタと窓がいきなり揺れ始めた。強風が吹き荒れているのだろう、鋭い風の音。そして存在する隙間で精一杯暴れているような窓のガタガタという音。そして、ミシミシと建物の木が歪むような音と、バサバサと何かがはためく音がする。


「わっ!?」

「なんだ?突風?嵐か?」

「トーイ!危険な場所かもしれないところに近づいちゃダメだ!…え?」


好奇心なのか、冬威が立ち上がって窓に走り寄るのを止め損ねたジュリアンも追いかけて、驚いた。


窓からのぞく大きな瞳。縦に走る瞳孔は爬虫類特有のものに見える。ざらざらした鱗に鋭い牙。しかし暴れることなく手綱によって制御されている羽の生えたトカゲの様な姿。


「…飛竜?」


ファンタジーでよく出てくるドラゴンの姿だった。そして手綱の先を目で追って、背中に騎乗するコーダを確認。


「うわぁ!!すっげ!マジファンタジー!」


冬威が興奮で窓を開け放つと、竜は首を引いて少し距離を開けた。するとコーダはそこからひらりと室内に入ってきて、静かに立つ。ドラゴンをバックにしたその姿は堂々としていて雄々しい。そして…


「待たせたな、ガキども。お前たちの処遇が決まったぞ」

「処遇…」


おそらく隊長と話が付いたのだ。一応自分たちは普通の人間だと思っているけど、こちらの人たちがそう思ってくれるかは分からない。緊張でごくりと喉を鳴らしたとき。


「コラァ!悪ガキ!窓から出入りするなって何度言ったら覚えるんだ!何のためのドアだと思ってるんだい!?何度言っても学習しないんだから!」


一緒に乗っていたらしいデルタが、怒りを爆発させた。

思わずきょとんとした後噴き出してしまったのは不可抗力である。

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