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042 籠の中、そして旅が始まる【あれから3日後】

あれから3日後。

ジュリアンと冬威は帰国するための旅を…


始めていなかった。




あの晩、あの牢屋のような檻から出してもらった後、後普通の部屋を用意してもらいとりあえず1晩休む事になった。

昼間の話し合いでは、冬威はペニキラの国に居たのも短時間のため、コーダとの話では極力黙ってジュリアンの様子を見ているだけだった。下手にしゃべって余計な情報を与えてしまうのはまずい。しかも、自分で喋ってしまった事が果たして話して良い情報だったかも判断するのが難しいので、ジュリアンに丸投げしたのだ。


「なぁ、とりあえず今、どうなってんのか聞いても良い?」


2人部屋に入ってすぐ、どちらのベッドを使うかジュリアンに聞くよりも先に自分が片方を選びベッドに飛び込んで、冬威は後から入ってきたジュリアンに声をかけた。一緒に話を聞いていたのだが、別世界の人間という事もあり分からないことも多かったのだ。しかし其の場で尋ねるのはいけない気がして、聞きたいのを我慢していた。これくらいの空気を読むことは出来る。そんなジュリアンは足にまとわりつくようにじゃれてくる犬に困ったような笑顔を向けていたが、冬威の質問を聞いて顔を彼に向けた。ちなみに犬は、2人が檻から出て離れようとした時、それは切なそうに喉を鳴らしたので数秒固まったヘレンが出してくれた。魔獣部隊という事で獣には優しいのかもしれない。そのあと彼女はこの犬を必死になつかせようとしていた様子だったが、なぜかジュリアンにしか尻尾を振らなかったので今一緒に居ることが許されている。普通宿だとペットはお断りが多いらしいのだが、運が良かったというかなんというか。しかも傍にいた冬威は辛うじて傍に居ることを許す、といった態度。なんだか少しむかつく。


「うん、情報を整理しておこうか」

「クーン」

「よしよし。ちょっとごめんよ、今から大切な話をするからね」


わしゃわしゃと犬の頭を撫でてやってから、ジュリアンは冬威と向き合うように隣のベッドに腰を下ろした。それでも犬はジュリアンの足の間に頭を突っ込むようにしてべったりと張り付いている。いい加減に無理やり離すのも疲れたらしいジュリアンは気にせずに顔を冬威に向けた。


「まずは、この国の話だ。僕たちが居たのがペニキラという島国であるという事は知っているよね?」

「ペニキラの第2王女様ってのに会った時に聞いたよ。島国とかそういう情報は無かったけど」


冬威は当時の事を思いだす。と言ってもまだ数日前の事なのだ。その時は隣に居た春香を思い出して表情が渋くなるが、特に何も言わず、ジュリアンも深く触れずに先を続けた。


「だけど此処はペニキラではなく、ファルザカルラという国だと言っていた。魔獣部隊と言っていた隊長のヘレンさんや、コーダさんたちの軍服は、僕の知る物ではなかった」

「服装は簡単に変えられるよ?コスプレかも」


箇条書きにするかのように1つ1つ違う点を上げていく。そこに冬威がわざと冗談だと分かる返事を返すと、ジュリアンもフッと面白そうに笑う。


「確かに衣類を変えるのは簡単だね。でも日本と違ってこの時代の布というのは結構貴重なんだよ。しかも、庶民が着るような布目が荒い生地ではなく、軍服なんて言ったらそれこそ一級品だ。彼らの衣類の生地は艶もある良い布地だったし、そんな貴重な布をふんだんにつかってただの娯楽として衣類を作るのははっきり言って無駄だよ」

「そうなのか」


大体冬威がいう事は間違っていて、それを訂正されるという形がデフォルトになってきているのだが、言う事を頭から否定しないジュリアンの言葉は、冬威の耳にスッと入ってきて素直に頷けるものだった。彼の人柄がそうさせるのか、同じことを同年代の友達にやられたら絶対馬鹿にされていると感じると思うのに、と不思議に思う。


そんなこんなで、2人はある程度話をまとめた。

まずは現状理解として「ここはペニキラがある星と同じ星の別の場所」だと結論づけた。

理由はヘレンたちに言われたのもあるし、第一気候や生えている植物が全然違う(ジュリアン談)ようだ。同じ星であると断言したのは言葉が通じるという点が一番大きい。

次に今後の方針としては「春香の為にもペニキラを目指す。そして魔物を倒す」というのが最終目的。そこに行くまでに「自分たちのレベルを上げて十分戦える力をつける」というのも通貨するべき目標点で、仲間を得られたらそれに越したことはないとも考える。


そして翌日、ヘレンたちに自分たちの希望を伝えたら、快く手伝う事を申し出てくれた。強制的に引っ張ってきてしまったための罪悪感もあるらしい。そして1日かけて地理の把握に努めてた。


「…うん。探すべきポイントは、この部分と、この部分だな…」


ここにきて初めて見た世界地図は、地球の地図のように大小さまざまな島と、大きな大陸で作られていた。ポツンと1つの島が中心に構えていただけだったペニキラの地図とは大違いで、こちらの方が正しいという雰囲気がある。その地図の中で赤道部分と似ている横のラインと並行する、北と南の一定ラインをジュリアンは指でなぞった。細々とした島がどちらも大量に並んでいて、すべてを見るのは大変そうだ。先ほどのは独り言だったようで、小さなつぶやきだったが傍にいた冬威はそれを拾って視線を地図に落とす。


「ん?なんで北も?南に行くほど寒かったって言うなら、南側だけでいいんじゃないの?」


ジュリアンの言葉を思い出しながらそう問いかけると彼はこの場所の方位磁石を見せてきた。


「これ、この国の方位磁石なんだけど」

「うん。地球のと同じ感じじゃね?」

「使い方は同じだと思うよ。これも必ず北を指すという性能は変わっていないから。ただ…」

「何?何かこれに問題でもあるの?」


そう言って方位磁石を手に取る冬威。クルクルと回して観察するが、特別おかしい場所は見当たらない。それを見て軽く首を横に振ったジュリアンに、視線を戻した。


「問題があるのはこれじゃなくて、ペニキラの方だ」

「…何?どういう事?」

「僕らの国でも、方位磁石というものはあったよ。ただ、この国の北が、ペニキラの北と同じ方向を指しているのか…不安になったんだ」

「え…という事は、北が南で南が北で?」

「ペニキラの生活水準は…まだ1泊しかしてないけど…この国より下だと思う」

「水洗トイレだったしね」

「でも、方位磁石は原始的な仕組みだったから、まったく別方向を指している、というわけでは無いだろうとは思うんだけど、1つベースになる方位磁石があって、それをもとに別の製品が作られて、ベースの磁石が指す方向が北であると定められてきた。だから…」

「ベースが南を指していたら、北と南が入れ替わったって不思議じゃないって事か。…あれ?でもさ、そうだとしてもどっちから太陽が昇るとか、そういう現象で大体わかるんじゃないの?」


ジュリアンの言葉に頷きかけて、ハッと思いついたことを口に出すと、彼は自嘲気味というか、若干やけというか恥ずかしそうに視線を外した。


「…ペニキラでは、そういった道具は高価だったんだ」

「…ん?」

「見たことはある。でも手に取る機会も、無かったんだ」

「それって…」

「隊長が北といった方が北。それで何も問題が無かった。だからどちらから太陽が昇っていたとか、日の出のときに自分がどちらを向いているとか、意識したことが無かったんだよ」

「えぇ!?マジで?!」

「記憶が戻る前は本当にグズだったから。勉強もしない、運動も中途半端、だったら視線を上げて空位見てたら良かったのに、ごめん!」

「いや、そこまで言わなくても…」


ジュリアンの狼狽えたような発言に冬威は慌てて慰めるべく言葉を探した。そういえば、彼も死にかけて記憶が戻り、それが冬威と出会う僅か数日前だと言っていた気がする。そのあとすぐに魔物との戦闘に巻き込まれたのだ。情報収集が甘くても、彼の責任ではない。そうなだめすかして何とかこの場を乗り切った。



そして、3日目。


「何をするにも資金は必要だからね」

「うっし!これぞファンタジーって感じだよな!」


コーダの案内で、2人は冒険者ギルドの前に来ていた。

始まる始まる詐欺(笑)


旅立ちはしなかったけど、一応帰還までの旅がはじまったんです。

そういう事にしてください(焦

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