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040 籠の中、そして旅が始まる【出来るだけ詳細に】

出来るだけ詳細に、でも冬威が勇者だとか、どうでも良いというか必要以上の情報は伏せたまま、彼らに話をした。


・自分は田舎の出身。

・兵士になろうと思って、鍛えていた。

・この剣は兵士見習いになった時にもらったもの。

・彼(冬威)とは出会って間もない。一応友達だとは思っているが、彼は一般人で戦闘訓練を長期受けたわけでは無いはずだ。


といった具合に、真実だけを告げる。相槌は打つがジュリアンの言葉を遮ることなく聞いていた2人はここでようやく視線を彼から外してお互いの顔を見合わせる。


「どうだ?」

「嘘ではないようです」

「お前がそういうなら、事実、という事か」

「もしくは、真実であると思い込んでいる、思い込まされているという点も排除できませんが…」

「それはないだろう」

「えぇ、そう思います」


地面に座ったままで2人を見上げているジュリアン。優男の言葉をすんなり信じている、という事は、もしかして何か使われていたのだろうか。嘘を見抜く、といったスキルがあることを聞いたことがある。そんなことを考えながら、ちらりと腹の上を一瞥。いい加減、腹の上の犬が重い。しかし身じろぎでもしようものならがっちりした体格の男が剣を振り下ろしそうな気がして、動くに動けない。倒れている冬威を掴んだ手も放していなかったので、ちょっと身体が固まってきた。一度伸ばしたい。


「で、この剣だが」


モンモンと考え込んでいるジュリアンに声をかけるがっちりした男。考えこんでいて反応がわずかに遅れたが「やましい事はありませんよ、嘘もついていませんよ」という意味を込めてまっすぐ相手の目を見返して返事をする。


「はい。僕が居たところで量産されていた剣です」

「その国の名前が、確かペニキラといったね」

「はい。というか、ここはペニキラ…じゃないんですか?」


あれ?

優男の言葉にふと疑問を感じる。この世界にジュリアンとして生をうけた八月一日アコン自身もまだ数日しか生活していないが、ジュリアンの記憶を探ってもペニキラ以外の国の存在を確認していない。当然今回も、転送、または召喚されたのは冬威目当てで、神官が冬威を確実に捕獲するために仕掛けた事だと勝手に思い込んでいた。だからこそ冬威の事はなるべく「戦えない一般人です」という風を貫いたのだが、ペニキラという国名を確認するとはいったいどういう事か。


そんな疑問をまるで見透かしたかのように、優男は一度頷いた。


「君が生活していた場所は、ペニキラという国なんだね?」

「そうです」

「他の国、たとえば「ファルザカルラ」。聞いたことは?」

「…ありません」


ポカンと、というか呆然としているジュリアンの様子で実際に相当ショックを受けているらしいと判断した優男は幾分か優しい口調で先をつづけた。


「ペニキラ、という国の特徴を教えてもらってもいいかい?」

「…南に行く程寒くなる島国です。最北端でも、半そでで生活は…辛い」

「なるほど。ここファルザカルラ国は大きな大陸の一部、どちらかというと北寄りの国だ。四季がしっかりしていて、南に行くほど暖かい」

「…それは…どういう…」


いや、答えを待つまでもなかった。

そしてガッチリした男が腕を組んで口を開く。


「ここは、ペニキラ、という国ではない。そして我々は、ペニキラという国を聞いたことがない」

「そう…ですか…」


ガッチリした男の言葉に思わず顔をふせたジュリアン。まぁ、この世界がペニキラ国だけだとしたら、小さい星だな、とは思っていたのでその事実にショックを受けたわけでは無い。さすが鎖国状態の小国、僅かな貿易もしていなかったのか、まったく情報がつかめない。さて、どうやって帰ったものか、と先を見据えていたのだ。しかし、2人はあまりの事に衝撃を受けてしまっていると見えたようで、どうしたものかと再度顔を見合わせていた。



**********



「それで、とりあえず僕たちの対応を会議する、って言われてここに連れてこられたんだよ」


ジャラリと鎖を鳴らして軽く両手を広げたジュリアン。気絶している間に何が起きていたのか、説明してもらってある程度理解した冬威だが、語られなかった手錠に関してはむっとした表情でジュリアンの手元を睨む。


「それならなんで別々の檻なわけ?」

「一応高ランクの魔物を呼ぶ陣だったらしいからね。3人…いや、僕らとその犬が一緒に居たら強力な何かを使うかもしれないと警戒したんだと思う」

「で、なんでジュンだけ手錠かけられてんの?」

「僕だけ移動したときに意識があったせいだよ」

「…ん?」

「あの魔法陣は一応呼び寄せた対象を眠らせる効果が刻まれていたらしい。それなのに、僕は起きていたわけだから、強い耐性、もしくは人間に擬態している何かではないか?と思われたみたい」


なるほど、とも思うけど、やっぱり知り合いが拘束されている姿を見るのはたまらない。不安と怒りからどこかイライラした口調で頭をかく。


「ってか、なんでいきなり転送…召喚?…あの魔法が発動したわけ?」

「この国では、強いランクの魔物をテイムして、国の戦力として蓄えているテイマーという存在があるんだってさ。僕たちを召喚した2人は、その隊の責任者のようだったよ」

「でもさ、それって魔物…モンスター?…いわゆる、人間じゃないやつを呼ぶものだよね?」

「たぶん、あの時はその犬を呼ぶための物だったみたい。でも僕たちに突っ込んできたから、巻き込まれちゃったみたいだ」

「この犬…。強い魔物を呼ぶ魔法なんだろ?なんでこんな犬に反応してんの?もしかして強いの?」

「そこまでは…僕もよくわからないよ」


冬威は鑑定してみようかと顔を隣の檻の方に向けるが、犬は足をひっこめており姿を目視することが出来ない。壁を突き抜けて調べられないか?とも思ったけれど、ためしに行ってみた鑑定結果は「石の壁」のみで無駄だった。


とりあえずできることは何もない、どうしようと息を吐く。と、そんな時重たい鉄製の扉を開くような音が聞こえ、カツカツと小気味いい足音がこの空間に入ってきた。


「これが報告にあった、失われた遺産…かもしれない人間か。厳重に拘束しているようだな」

「あの陣を使って意識を保っていましたので、念のため」


召喚されたときに目の前にいた2人を引き連れて、カツンとかかとを合わせて檻の前、冬威とジュリアンの間の通路に立った人物は檻の中の2人を交互に見てから腕を組んでにやりと笑った。


「私の名前はヘレン・リュートミラ。魔獣部隊を率いる隊長である。知っていることを素直に話すならば、悪いようにはしない」


そういった女性は長い赤茶色の髪に青い瞳の巨乳美人でした。


自分は考えた。

何となく、女性キャラが少ないんじゃないか?…と。

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