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037 リンク、そして力の代償【風が吹いて雲が動き】

風が吹いて雲が動き、再び日光が落ちてくる。

不安、緊張、そして安堵から泣いていた冬威だったが、結構すぐに立ち直った。

剣を鞘に納めたジュリアンの横で、今では少しばかり恥ずかしそうにしながらも冬威は苦笑いを浮かべて胡坐をかいている。


「トーイ、落ち着いた?」

「うん。ゴメン、もう大丈夫」

「初めてだもの、仕方ないよ。それより…いろいろ説明してほしいんだけど」


そう言いながら、ジュリアンは自分の右腕を見た。

切れた衣服のすきまからは、冬威の首にあったような模様が覗いている。逆に冬威の首の模様は、茨の蔓状態からトゲがなくなって、かなり薄くなっていた。パッと見で奴隷とわかってしまうものだったために、薄くなって見つけづらくなった挙句形が変わった今現在ならば特別隠す必要も無いだろう。

その彼の視線を追いかけていた冬威は頷いてから口を開いた。そして独善スキルのレベルアップと、それに伴って使えるようになった「リンク」という術を話す。


「リンク…聞いたことないね。まぁ、人様のスキルを尋ねるのは女性に体重聞く様なもので、あまり良い事じゃなかったから積極的に情報を集めようともしてこなかったし」

「そっか。で、他者の力を自分のモノに、って書いてあったから使ってみたんだ。これ使ったら俺も戦えるんじゃないかと思ったんだよ。ただ、その時に、ジュリアンが戦えなくなったらやばい!と思って途中でやめようとも思ったんだけど…」

「止まらなかったよね?あれ、中途半端って訳じゃないよね?」

「そう。ちゃんと発動した…と思う?分からないけど。ごめん」

「非常事態だったし、良いよ。それより、気づいていた?確かに僕の力を、使っていたみたいだったよ」

「そう!剣術スキルがあったのは確認した。しかも+3だったよ!?ジュン頑張ってんじゃん」


本当は、視力やスピードの増減の事を言いたかったジュリアンだったが、眼で、文字で、スキルが増えたことを確認していた冬威が拳を握ってジュリアンに若干キラキラした視線を送る。思わず引きかけるが、その内容に驚いた。


「え?…+3?…本当にそうだったの?」

「…知らなかったのか?」

「君も見た地面に書いて説明したステータスが、僕が自分で確認した最終データだからね。もしかしたら、死にかけたりして今のステータスは変化しているかもしれないなぁ」

「じゃあ、見てみていい?」


バッと勢いよく手をあげてそう聞いてくる冬威。それだけで鑑定をかけたいのだと理解したが、ここは戦いの前線だった場所。色々あったけどおとなしくなった戦場に気になって人も集まってくるかもしれないし、何より魔物の死体が転がっているのだ。解体して材料とするにしても、処理して処分するにしても、早い方が良いだろうと、色々考えてジュリアンは立ち上がる。


「良いけど、まずは後片付け先にしよう。放置してアンデット化しても困るしね」

「アンデット…ゾンビ?やっぱそういう奴居るんだ」

「そうだね。戦場跡地ではたまに見るよ。お化け系は苦手?」

「得意じゃない」

「ふふっ、そっか」


明言を避ける冬威に苦笑いを向ける。そのまま魔物の死体に近づいていくジュリアンを追いかけようと立ち上がろうとして…


「あ、あれ?」


冬威は身体に力が入らないことに気付いた。立ち上がろうと足に力を入れるが、芯の入っていないぬいぐるみのように膝がすぐ曲がって尻が地面についてしまう。何度かモゾモゾしていると、その気配に気づいたジュリアンが振り返った。


「トーイ?」

「ジュン、おかしい!立てない!」

「え!?」


慌てて身を翻して冬威の側に膝をつく。そして一言ことわってからそっと彼の足に手をのせた。発動させるのはアコンに船長が持たせてくれた、植物に干渉する能力。


“船長”と初めて出会い、別れた時に貰った種は何も持たずに世界を旅する八月一日にとって大切な切り札となっていた。常に魂のみの移動のため、持ち物はすべてゼロからスタート。唯一持っていける魂に刻まれた種。自分の感覚と鮮明につなげることができるそれは、自分が思った通りに成長を遂げる。主に蔦、蔓系の植物にして広く浅く伸ばしていくことで広い範囲を自分の監視下に置くことができるのだ。

ただ、1つの世界で1度きりという回数の制限はあるが、使いどころを間違えなければかなり有力な武器になる。しかし1度しか使えないために、基本部室がつながらない世界では使わない。

そして植物を扱う上でもう1つ役に立つ力が微電流で細胞を成長させる力だった。植物を扱うときもこれを使い、人体に使う場合は自己治癒を促すことが出来る。

欠点と言えば、正確な患部が分からないという点だろうか。傷が瞬時に治るように、病と一気に戦えるように、ブーストをかけてあげることが出来るだけだ。

そのために術をかけてあげた対象者は、完治したあとかなり疲れるのも確認済み。


そんな能力を軽く発動させてみる。

筋肉痛にも聞くそれは、軽い筋肉痛、もしくは肉離れ程度だったらすぐに治るだろう。しかし、痛みを感じている様子はないし、手を当てても立ち上がれる気配はない。


「…(内部が損傷しているというわけでは無いようだ。)これは、リンクという術の代償なのでは?」

「え?」

「何か説明が無いの?」

「ただ、他者の力を自分のモノに、しか書いてなかったけど…まじか。あり得る」


心配顔で冬威を見ていたジュリアンだが、彼の足はまったく動かないわけでは無いのだ。まるで生まれたての小鹿のような感じになっていて、立とうとしても力が入らないだけという風に見える。それならば筋肉や神経がダメージを負っているのではないだろう。何度目かの挑戦も失敗して尻もちをつく冬威の肩をそっと抑えて、動きを止めさせた。


「少し休んでいるといいよ。見た感じ、骨折とかでもなさそうだし、痛みも無いんだろう?」

「ない。でもなんだか立てないのが…」

「怖い?不安?」


ぎゅっと唇をかんだ冬威。今まで普通にできたことが出来なくなるというのは、精神的に来るものがある。転生を繰り返す中でそういう経験もしてきたからこそ、ジュリアンは安心させるように肩に乗せていた手を動かしてポンポンと叩いた。


「…きっと大丈夫だよ。おそらくだけど、ゲームで言うクールタイムなんじゃないかな。なかなか大技っぽかったし。そうであればどれくらいで再度使えるようになるのか、確認するのも必要だよ」

「クールタイム…発動から、次回の発動が可能になるまでにかかる時間、か。確かに、言われてみればそうかも」


可能性として一番大きいものを口にしてあげれば「そうかもしれない」と少しばかり安心した顔を見せた冬威。じゃあ、僕は魔物を見てくるから、と視線を魔物に移そうとして、ピリッとした何かを感じた。


「!?」


変な術を感じている、というものではない。これはどちらかというと…


「…視線?」

「ジュン?どした?」

「いや、なんでも…」


と言いかけた時。傍の繁みがガサリと揺れた。

何度もしているような気がいしている、アコンの力を再度説明。

別の話で書いてたのかなぁ?


何処で書いたか忘れちゃったから、もし説明が重複してたらすいません!

これで「この物語内で説明した!」って把握したので、たぶん今後は大丈夫。

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