028 スニーク?、そしてステータス【とりあえず従属】
とりあえず従属の話はおいておいて。
「この言語理解ってやつは言葉が分かるようになるって事だろ?でもなんでいきなり理解できるようになったんだ?」
「おそらく、の話だけど、今まではこちらの言葉の単語の意味を理解していなかったからじゃない?」
「…というと?」
「えっとね。例えば、僕が「おはよう」とこちらの言葉で言っていても、トーイは全く理解できていなかった。でもこの単語はこういう意味を持っていますよ、という説明を受けて、ステータスという単語を双方の国の言葉で理解した。それがきっかけ…なんじゃないかな?タイミング的に」
「ははぁ~ん。なるほどね。で、俊足は?」
「え、理解ちゃんとした?それとも流された?…まぁ良いけど。俊足は…うーん、意味的に見ると足が速くなる、ってことだと思うけど…。鑑定は?きっと物を詳しく理解する、ってことでしょ?それでスキルを詳しく見れたりしないの?」
「あぁ、なるほど。ちょっと待って」
ジュリアンに言われて冬威は自分のスキルに向かって「鑑定」と念じてみた。
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スキル「俊足」
速度にプラス補正
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「…速度?動きが早くなるって事?…黒光りのGのように?」
「いや、まぁ、イメージはそれでいいかもしれないけど…どうなのかな?」
「今なら100メートル走10秒切る?夢の9秒台余裕!?」
「それは…やってみないと分からないけど…。それにしても、鑑定の結果もいまいち情報量が無いね。まだ無印だからかな?」
「無印?」
ここでジュリアンはスキルの熟練度について説明をした。スキル名の横に「+2」といった表示さされて、最高が「+9」となり、数字が大きくなるほどそのスキルの威力も強力になっていく。ただ、ふつうは+6まで上がれればいい方で、最上級の+9のスキルを持つ人は伝説とまで言われているのだが。
「それで、まだ何もプラスされてない状態を無印、って呼んでるんだ」
「ほほぉ~。シリーズものの一番最初の作品って事だな」
「うん?…うん、そうなのかな?」
「じゃあ、最後にこの独善っていうのは…鑑定!」
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スキル「独善」
自分だけが正しい
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「…え?意味わかんないんだけど」
冬威は鑑定で出た結果をジュリアンにも伝える。しかし、彼も聞いたことが無い能力らしく、腕を組んで考え込んでしまった。
「独善…確かに、意味は自分だけが正しい、とか、ひとりよがり、って事だよね」
「つまり俺、自己中ってこと?…まぁ、否定は出来ないけど」
「とりあえずマイナス補正がかかる訳じゃなさそうだし、もう少し鑑定の制度が上がってから再度調べてみたら良いんじゃないかな?」
「そうだな。…っていうか、今更だけど、スキル内に「速度」とか書かれてる割に「攻撃」とか「防御」みたいな項目は出てないんだな」
「あ、それは…」
少しばかり言いにくいが、ジュリアンはレベルと年齢の関係を説明した。実年齢÷2が適正レベルとされていて、それで逆算するとレベル1の冬威はまだ赤子同然。レベルが2以上になれば、ステータスにその情報も出てくるはず、と。
「生まれてすぐステータスの確認なんてしないからね、レベル1の状態がどうなっているのかって僕もよく分かってないんだけど…たぶん成長できれば変わると思うよ」
「赤ちゃんかよ…俺…」
「仕方ないんじゃないかな。だってこの世界にきてまだ数日でしょう?」
「でも、レベル上げるのも難しいって言ってたじゃん!あぁ~どうやってレベルアップしよう…」
「それは…地道にやるしかないとおもうよ。でもトーイは運動部だったんでしょう?」
「うん。サッカーやってた」
「じゃあ、動体視力もあって更にある程度は動けるはずだから、子供がレベルを上げていくよりはマシだと思う」
「気休めでも慰めてもらえてうれしいヨ」
ここまで来て冬威は目の前の相手の事も気になた。この世界で16年の生活、でも一度やられかけたと言っていたが…
「なぁ、ジュンのステータスは?」
「僕の?そうだね、遠征前の確認した状態だとレベルは6だったよ」
「適正レベル=実年齢÷2…あれ?あと2レベどうした?」
正直に話した結果、ジュリアンも適正値には達していない事が分かって冬威はニヤニヤとしながら問いかけた。ジュリアンはハッと気づいた様子で慌てるが、覆水盆に返らず。時すでに遅し。
恥ずかしそうに視線をそらす。
「う、うるさいな。仕方ないだろ?どちらかと言うと文系なのに、転生を自覚する前の自分が兵士なんて選んじゃったんだから」
「やっぱ違うの?自分の得意分野とそうじゃないヤツでステータスっていうか…能力の差っていうか?成長にバラつき出るもん?」
「経験値というものはね、経験して身にならないと残らないんだよ」
「…は?」
また訳の分からない事を言い出した。文系と自分で言うだけはあるな、自分にはさっぱり分からない、と思いながらもジュリアンが何を言いたいのか理解するべく首を傾げる。
「例えばトーイ、昨晩の話からして君は数学が苦手だね?」
「チョー苦手」
「その言い方、かなり嫌いみたいだね…」
「嫌いだ。生きるうえでは、算数さえできてれば問題ないと思ってる」
いきなり何を?と思いながらも冬威が返事を返せば、ジュリアンは一度頷いて先を続けた。
「まぁ、普通に生活する分にはあまり難しい計算式は必要ないけど…まぁそんなことは置いておいて。数学の授業は退屈じゃない?」
「退屈だ。というか、苦痛だ。睡眠とのバトルだよ毎回。ノートはミミズが這った跡か?ってほど意味不明だし、テスト範囲とか出されても「習ってないし!」って言えるほど記憶にないし」
「え、それ赤点…どうやって回避を?」
「回避?してないしてない。むしろ赤点常連です!」
キリッと効果音が聞こえそうなほどきれいな笑顔を見せた冬威。思わず言葉が出なくなってしまったジュリアンだが、ここは地球じゃないし、勉強見てあげるとか…必要ないな、と思い直して一度深呼吸をし気持ちを落ちつかせた。話がわき道にそれまくってる。えっと、何の話をしていたっけ…と数秒考えてから再度先を続け始める。
「まぁ、それも…お、置いておいて」
「声、震えてるぞ?どうした?」
「何でもないよ!で、だ。嫌いな数学は身についていない。そうだろう?」
「そうだね!」
「…そんな自信満々に答えなくても…。まぁ、それと同じことだよ」
「うん?」
「兵士の基本として、剣の構えかた、攻撃の仕掛けかた。繰り返しの練習で、ある程度は身体が動いてくれるようになったけれど、ミスしたら怒られる、遅れたら叩かれる、そういった繰り返しもたらされる苦痛が心に強いブレーキをかけていた。遅れているから自主練しておけと言われても、なかなかやる気が起きなくて、結果身にならなかったってわけ」
「なるほど!あれだな、好きこそ物の上手なれ、だな!」
「That's Right」
「は?…日本語でオケ」
「これくらい分かって!?「そのとおり」だよ!…トーイ、もしや英語も…」
「苦手だぜ!」
「…この世界の言葉、勉強することにならなくてよかったね」
「ザッツライト!」
「使い方違うから!」
散々話が蛇行しまくり、もはやなんの話をしていたのか思い出すのも一苦労。やっと軌道が修正されて「えっと、何の話してたっけ?」となったとき。
「ってかさ、鑑定ってジュンのデータ見れないの?」
「え?…さぁ?どうだろう。鑑定も結構万能スキルで、持ってると王宮に抱えられちゃったりして、傍に鑑定持ちの人いなかったからよくわからないけど…」
「やってみていい?」
「良いよ。色んなもの見てみたりすると、スキルのレベルが上がるかもしれないし」
「よっしゃ!じゃあ…鑑定!」
気合いを入れてジュンを見て、鑑定を発動させた冬威。だが…
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対象「ジュリアン」鑑定結果
対象レベルが高いようです
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「…?…つまり?」
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「鑑定スキル」鑑定結果
対象を詳しく鑑定する。自己レベルより高いものは見れない
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「レベル…」
「僕が高いレベで見れないってわけか。頑張って6上げようね」
「くっそ!お前、絶対追いつく…いや、追い抜くまでレベル上げるなよ!?」
「今まで頑張ってこれだから、たぶん大丈夫だと思うけど…」
「いや、記憶を取り戻して自己分析が正確になったっぽいから、得意分野ガンガン上げそうな気がする!」
「…そういう知能は結構簡単に働くんだね」
レベル1は非情であるという事が分かった。




