027 スニーク?、そしてステータス【半透明なウィンドウ】
半透明なウィンドウは、その向こうにいるジュリアンの姿もしっかり見える。
しかし、冬威とジュリアンの間に確かに存在していた。
「な、はぁ?…え、あれ、これって…」
「?なに?どうしたの?」
ジュリアンには冬威の前のウィンドウが見えていないようで、空中に視線を飛ばす冬威を心配したような顔をしていた。だが、それどころではない。
「ステータスだ」
「…?」
「ステータス画面!よくゲームにあるレベルとか書いてある奴だよ!」
「それが?…まさか、確認できてるの!?」
「そう!」
「え、ちょっと待って、ほんとに?…どんなこと書かれてる?字は読める?」
「…読める」
全く見たことがない字面だったのに、眼でそれを追うと意味が脳裏に浮かび上がる。ファンタジーだ、と感動しながらも自分のステータスを確認した。
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名前:トーイ・サザメ
種族:人間
レベル:1
状態:従属
称号:異世界からの訪問者、勇者
スキル:言語理解、俊足、鑑定、独善
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「とりあえずこれだけだけど…従属ってなんだ?」
「状態の欄に書いてあるんだよね?」
「うん」
冬威が読み上げるデータを腕を組んで聞いていたジュリアン。視線をさっと窓の外に向けてから再び冬威に戻してスッと指をさした。さした先は冬威の首元。今は襟で隠れている入れ墨のような模様。
「それのせいだ。森で様子を見ていた時、最初はトーイとあの女性は本当にこの世界の人間で、他の国の勇者だと思っていた」
「森で?」
「そう。僕には戦闘能力もないし、後をつけていることも気づかれていなかった。だから君たちの前に迂闊に飛び出せなくて、様子をうかがうしかなかったんだ。まずはそれについて、謝罪をしておくね」
「え?…いや、別にいいよ。俺だってジュンの立場ならそうしたと思うし」
いきなり謝られて首を振る冬威。早く助けに入らなかったことに対しての謝罪、だがそれは今なら仕方がないと分かる。
「彼女…たしかハルカさんだったっけ?トーイが攻撃の中心となっていた時、君に駆け寄ろうとして苦しそうに首をおさえた。そしてその時かきむしるような動作をして、この模様があるのが見えた」
「模様が…コレにどんな意味があるの?」
「状態のとおり、従属。…奴隷の紋章だよ」
「はぁ!?まじかよ!」
パッと手を首に充てる冬威。だけどそこには何もない。触れられない。外せない。困惑した表情でジュリアンを見るが、彼は落ち着いていた。
「大丈夫、状態の従属に、人名が書かれていなかったんでしょ?」
「ちょっと待って、再確認…うん。書いてない」
「奴隷には主の名前が刻まれるんだ。たぶん、この模様を刻んだ相手、あの神官が主だったんだと思う」
「じゃあ、なんで今は名前消えてんの?」
「名前はステータスに残るから、意図的に開放したんだと思う」
奴隷には主の名。主には奴隷の名前がステータスに残る。それは教会で確認ができるのだが、奴隷が死んだ場合、その名前は「名前、没日」と記載されて永遠にデータとして残ってしまうらしい。神官、ゴールズジーザは勇者と称して何人もの人を使ってきた。それがすべて残ると冬威やジュリアンのように感づいた連中に突っ込まれたときに証拠として残ってしまう。
「だから、最後の1撃の前で開放していたんだと思う」
「それで死んだとしても、自分とは無関係って?覚えてる事すらしたくないって?…最低な野郎だな」
「そうだね。…それで、今は主が居ないから特に何も制限を受けていないと思うけど、誰かとウッカリ主従契約が発動してしまったら大変なことになる」
「え、これ完全に解除できないの?」
「身体に直接模様を刻む従属の紋は強力で…しかるべき場所で対処してもらえれば、何とかなると思う。とりあえず、俺には解除できない」
「しかるべき場所とは?」
「それは…奴隷商とか。刑務所とか」
「まじか…。それまでどうしてたらいいの?」
「今の状態は、イメージで言うと南京錠のカギをしっかりかけていない感じなんだ。カギを閉めた人がそのカギと、中の宝を所有する権利を得る、みたいな」
「じゃあ、だれでも主になれるって事?」
「まぁ、そうなるかな」
「じゃあ、ジュンがなっておいてよ」
「…え?」
どういう場面でウッカリ主が決まってしまっただろうか…と事例を考えていたジュリアンだったが、あっさり冬威が彼を主に、と選んだことで思わずポカンとしてしまった。
「僕…でいいの?」
「ほかに知り合いいないし」
「まぁ、そうなんだけど…でも出会ってまだ1日だよ?」
「でもこの世界じゃ一番最初に出会った、信じられる人だよ。今後良い人に出会ったとしても、ジュンよりは後に出会うってわけじゃん?だったらジュンがいい」
「主を決めないままでいる、という選択肢もあるんだよ?」
「ウッカリが怖いからやだ。だったら信じられる人に手綱握っててほしいし」
不意打ち。ちょっとうれしい。
テレをごまかすように苦笑い浮かべて頬をかいた。まぁ、いざとなった問見捨ててしまうよりは命令で強制した方が…いや、こんな打算的な考えじゃなくて。
信じてくれた彼を、自分も信じてあげたい。
「わかった。とりあえず、仮の主に僕がなって、君の鍵を閉めておくね」
「よろしく。…こういう場合『お願いします、ご主人様』的な事言った方が良いの?」
「そこらへんは…任せるよ?言いたいなら言っていいし。でも強制はしない。あくまで鍵を閉めておくだけ」
「…それきいてちょっと安心したかも。変に悪戯するような奴じゃなくてホントによかったわ」




