表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/174

026 スニーク?、そしてステータス【おちついた?】

「おちついた?」

「う、うん。取り乱してごめん、ジュリ…ジュン」


さっき教えた愛称を早速使って読んでくれる冬威。

大丈夫、気にしてない。そういう意味を込めて笑ってあげれば、冬威もほっとしたように表情を緩めた。


「さて、さすがにもうそろそろ身体を休めたほうが良いと思うんだけど」

「そうだな、さすがに朝になるまで起きてるつもりもないし、ジュンも休みたいだろ?」

「…そうだね。さすがに徹夜は辛いかな」


眠ることが出来ない身体であることは告げず、冬威の言葉に頷いた。夜寝てるか寝てないか、なんて一緒に起きてる人でなければ気づかれることはないし、布団をかぶってじっとしていればよっぽどのプロじゃない限り寝ているか起きているかの判断は難しいだろうし。


「こっちのベッド使って大丈夫だよ」

「1つしかないじゃん。ジュンのは?」

「僕はソファーを使うよ。昨晩はちゃんと身体を休めてたんだし大丈夫、気にしないで使って?」


さすがに色々あって疲れも出てきたのだろう。遠慮するかと思われたどちらがベッドを使うかという話し合いは、速攻で冬威が折れた。もぞもぞと布団の中にもぐりこみ、フゥと息を吐き出す。

それを確認してから部屋の明かりを落とし、暗くした。そしてジュリアンもソファーに腰かけ身体を倒す。


「…なぁ…もう寝た?」


今後どう行動していこうか、と考えていると、冬威が声をかけてきた。お前は修学旅行の学生気分か?…あ、学生だったな。まだ気分を落ち着かせるには時間が必要か。


「起きてるよ。…トーイ眠れないの?」

「女々しいとは思ってる。でも…あの、ちょっと何か、話してくれない?」

「フフッ…いいよ。じゃあ、眠くなるような話にしようか」

「え?なんだそれ?そんなものがあるの?」

「あるよ?勉強関連の話。数学とか…国語とか」

「やっべ、速攻で寝れそう」


高校生では何をしていたっけ?と考えながら、三角関数とか語ってあげるとあからさまに嫌そうな声を上げた冬威。寝るための時間つぶしなんだから別に良いだろ?とは思うけど、そういえば睡眠学習というものがあったな、と思い出した。夢うつつのときに聞いた事が無意識のうちに脳に刻まれ、長期記憶になるという勉強方法だったはず。


「じゃあ、言語にしよう」

「言語…言葉?」

「うん。隠れるにせよ、戦うにせよ、言葉が分からないのは致命的でしょ?」

「なるほど。じゃあ、ステータスってこっちの言葉で何て言うの?」

「そこから?…ははっ、好きなんだね、RPG」

「仕方ないだろ!?気になっちゃってるんだよ。ステータス」

「ステータスはね、*****って発音だよ」

「*****…ん?」


へぇ~と感心したような声を出していた冬威。しかし、突然ぴたりと動きを止めた。その気配に気づいてジュリアンは横になっていたソファーからガバッと身体を起こす。


「何?どうしたの?」

「…」

「トーイ?」

「す、ステータス…*****が*****いきなり…」

「え?」


彼は1文を口にしたはずだった。しかしジュリアンの耳には日本語とこの国の言葉がミックスされて聞こえ、いったいどうした?と彼が寝ているベッドを覗き込んだとき。冬威が突然自分の頭を抱え、痛みに耐えるように身を縮めた。


「トーイ!」

「ジュ…ン…なんだこれ、痛…痛い…!!」


いったい何が起きた!?ジュリアンはすぐさま冬威の身体に手をかざし、アコンの能力で状態異常を検索してみる。しかしなんの異常も見当たらない。他に考えられる事と言えば、遠隔の魔法か、あるいは呪いか…どうしようとオロオロしているうちに、パタリと冬威は力尽きだらりと手をベッドに投げ出した。


「トーイ!…脈、呼吸共に正常。体内にも異常は…見られないけど…」


慌てて彼の首に指を当てて生存確認をするが、異常が分からない以上下手に動かせない。今医者を呼んだところでなんと説明すればいいのかも分からない。


「…明日、日が昇るまで待機。その後の容態で対応。…ごめんねトーイ。いざと言うときは、苦しまずに済むようにするから…」


強い痛みを感じていたのか、握りしめた拳は白くなっていた。それを優しく丁寧に時間をかけて開いてあげてから、寝ている体勢も仰向けに戻し肩まで毛布を引き上げ、かけなおす。

その際露わになった首元に浮かぶ入れ墨のような模様を暫くの間凝視するが、軽く首を振ってから毛布を載せてポンポンと首元をたたき、せめて夢の中では苦しみがありませんように、とつぶやいた。



**********



ぐるぐると脳内で回るよくわからない光。

飛んで行ったり、飛んできたり。自分の周りをまわったかと思うと、あっという間に飛んでいく。


何がしたいんだ?

お前はいったい何なんだ?


そう問いかけようとした時、意識はゆっくり浮上していった。


「…ん」


もう太陽が出ているのだろう。瞼越しに光を感じる。思わずうなって顔をしかめると、傍で人が動く気配がした。


「トーイ?」

「…ジュン…もう朝?」

「っ!!」


昨晩はわずかな間をあけてもすぐに返事を返してくれた恩人の声が帰ってこない。あれ?と思って目を開けば、驚きに目を見開いている、といった様子のジュリアンの姿が視界に入ってきた。


「な、なに?」

「…おはよう」

「おはよう?…え?何?」


なんで挨拶を返してきた?とキョトンとしながらも上体を起こすと、ジュリアンはハッとして背中に腕を回し、介助よろしく身体を起こすのを手助けしてくれた。


「俺…いつの間にねたんだっけ?」

「覚えてないの?昨晩の事」

「なんかぼんやりとしか…」

「それに今の状態も」

「今の状態?…え?何か状態異常でも発生してるの?」


心配そうな顔で覗き込んでくるジュリアンにガバッと自分の身体を見下ろした冬威。特に変な部分は見つからないんだけど?と思っていると、ジュリアンは一度視線を外して何やら考え込んでからまっすぐと冬威を見た。


「こんにちは、俺の名前はジュリアンです」

「え?今更?…あ、はい。俺は冬威ですけど…」

「はぁ…」

「ちょっとちょっと、なんなわけ?いきなり文法の練習かよ…文法?」


笑い飛ばそうとしてから、ふと違和感を覚えた。考えて、発言しているはずの言葉。動いてる口と、とらえる耳。どこか違和感がある気がする。


「今、僕はこの世界の言葉を喋っているよ。日本語じゃなくてね」

「…え、うっそ!?理解…できてるけど…でも確かに、口の動きが…」


なんで?いきなり何が起きた?困惑している冬威だったが、ジュリアンは努めて冷静に言葉をつづけた。


「ステータス」

「は?」

「あの単語が、君をこの世界に関連付けた。そうとしか考えられない」

「…ステータス…」


そういえば、布団に入って言葉を教えて、と言ってその単語を聞いた…と思い返しながらつぶやいたステータス。するとそのワードに反応し、ヴンとコンピュータの起動音のような音を響かせて冬威の視界にいきなりウィンドウが開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ